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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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父と子と。

その後もなんやかんやと買い食いしながら、エルロンドと二人で大通りを抜け、マルガンダの中心にある広場に出た。

ここも、人が多い。

空はもう真っ暗だが、所々松明が灯してあるので、何も見えないと言う訳じゃない。

だと言うのに、暗めの場所はカップルが好んで陣取っていて、彼らだけの世界に引きこもっていた。

まぁ、幸せなのは良い事だ。

彼らのうちの何組かは、結婚し、子供を作るのだろう。

あの更地だった土地で、次の世代が生まれようとしているのだ。

エルロンドは、その子供達を導いてゆく事になる。

この子は、彼らをどこに連れていくのだろうか。

まだまだ先の話しだ。

それに、俺がそれを見届ける事はない。


「父上、あそこに座りましょう。」


白い息を吐きながら、しかしエルロンドは顔を真っ赤にして、暑そうにいった。

大通りは人混みがピークに達していて、屋台の熱気もあり、かなり暑い。

広場に出ると、一気に体感温度が下がった。

この寒さがむしろ心地良い。


エルロンドが指差した石のベンチに二人で並んで腰を降ろした。

途中から食いたいモノは買ったが、人混みが凄くてゆっくり食ってられなかったのだ。

冷めてしまったモノもあるが、飲み物は最後の方に買ったので、まだ暖かい。

俺はホットワイン、エルロンドはミルクコーヒーだ。


「父上、祭りってすごいんですね。」


木製のコップを手に、エルロンドはポツリと呟いた。

表情からすると、少し疲れたのかも知れない。


「まだまだ、小さなもんだよ。ここは。王都はもっとすごい。」


「父上は、そのお祭りに行った事があるのですか?」


「エルロンドが生まれる前に、一度だけな。」


「良いなぁ。私も、行ってみたいです。」


「いつか、な。」


「連れて行ってくれるんですか?」


「そうだな。エルロンドが、きちんと魔法を使えるようになったら、連れて行ってやろう。」


今年から、エルロンドには魔法の教師がつく。

俺に魔法を教えて下さった先生は既に他界されたらしく、渓谷の向こう側で雇った。

武術は、パウロに頼もうと思ったが、嫌がられた。

エルロンドが大きくなった後、師弟の関係が主君と家臣の間で出来ていると不都合な事もありそうだと言う、ちょっとピンとこない理由だった。

フィリップも、パウロに教えさせるのは反対だったので、今探しているところである。

型通りの武術が使える程度までで良いと俺は思ってるので、すぐに見つかるだろう。


「どうして魔法が使えなきゃいけないんですか?」


「使えなきゃいけない訳じゃない。きちんと魔法を使えるようになる頃には、お前はもう少し大きくなっているからな。」


エルロンドには、間違いなく魔法の才能がある。

エリーゼから受け継いだ魔力は、他人と比べ物にならない量と質になっていた。

俺がエルロンドの魔力を視てみると、濃い緑の魔力がエルロンドを包んでいて、姿がよく見えない。

魔力操作の修行をしていないので、必要ないかなりの量の魔力がだだ漏れになっているからなのだが、それだけでもエルロンドの魔力量は他人とは隔絶しているのがわかる。

魔法に関しては、エルロンドはかなりの所まで極めるだろう。


「わかりました。でも、出来るだけ早く連れて行ってください。」


エルロンドの言葉に、俺は曖昧な笑みを浮かべた。

これが、五歳にもなっていない子供の言う事だろうか。

フィリップを始めとする者達が厳しく教育しているのは、知っている。

だが、もう少し我儘を言って、俺を困らしてくれても良いと思う。

この聞き分けの良さが、俺は不安だった。


「あぁ、魔法が使えるようになったら、俺にも見せてくれ。」


言うと、エルロンドは笑みを浮かべ、大きく頷いた。

エリーゼの笑顔。

この笑顔が、エルロンドの笑顔だと思える日はいつになるのか。

俺はくしゃくしゃと、エルロンドの頭を撫でてやった。


その後、買った食べ物を胃袋に収め、再び大通りをエルロンドと歩いた。

シエーナに土産を買うとエルロンドが言い出したので、二人で屋台を覗いて物色する。

アクセサリーを並べている屋台に俺が行こうとすると、エルロンドは食べ物の方が良いと主張する。

シエーナの食に対する情熱は、確かに俺に勝るモノを持っているが、エルロンドにもそんな扱いをされているとは。

義母と言うより、友人として関係を築いているようだ。

まぁ、シエーナは大きな子供みたいな所が多分にあるので、仕方ないっちゃ仕方ない。


「これにします。」


エルロンドが選んだのは、動物の形をしたクッキーだった。


「シエーナはクッキーが好きですから。」


胸を張ってエルロンドが言うんだから、これで良いんだろう。

一袋銅貨十二枚と中々割高だった。


「そろそろ帰ろうか。良い時間だ。」


人はまだ多いが、減っては来ている。

酒臭いやつも多いので、これからは酒盛りなんかして盛り上がるのだろう。

良い子はおねむの時間である。


「はい。」


周りきれていない屋台をチラチラ見ていたが、エルロンドはきちんと頷きついてくる。

はぐれないよう、俺はエルロンドの手を握り直した。


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