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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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祭りの屋台。

昼食を済ませてすぐ、キートスは帰っていった。

気にしない風を装っていたが、まぁ無理だろう。


「キートスが来てるなんて。」


と、キートスが帰ってから半泣きになるシエーナ。

フィリップは無表情で、そんなシエーナを見つめていた。

これはヤバい。

かなりヤバい怒り方だ。

俺が五歳か六歳ぐらいの時、こんなフィリップにボロクソに叱られ、罰を受けた記憶がある。

俺がふざけて真剣を抜き、室内でちょっとカッコ良さげなポーズをとったりしていた時の事だ。

五歳ぐらいの俺には、鉄製の剣は重く、振り下ろした拍子にスポッと手から抜けてしまったのだ。

その先にあったのは親父の肖像画だった。


すぐにバレた。


前世でも経験した事がないほど長時間説教され、罰として当時やっていた武術と魔法の修行の後、面白くもなく理論も破綻していた分厚い魔法の論文の書き取りを、毎日二十回一ヶ月。

修行とは別の意味で地獄だった。


「エルロンド、出かけようか。」


三十六計逃げるに如かず。

悪く思うな、シエーナ。


エルロンドと二人でいそいそと退散した。

屋敷の門で、パウロと護衛騎士が五名、待っていた。

今日は皆変装ヴァージョンである。


俺はそれほど変装しなくても地味な色使いの一番簡素な服を着れば、商人に見えなくもない。普段から綿の服を着てるし、顔もそれほど売れてない筈だ。

エルロンドはその息子。

親子揃って祭りに顔を出した商人と言う設定でいく。


パウロ達は雇われの護衛で、革鎧と剣だけと言う軽装である。

ちなみに、俺も剣は佩いていく。

念の為だ。治安が悪いと言う訳ではないが、それはこの世界基準の話しで、うちの領地でも既に何人か人を殺して騎士団に捕まったやつもいるし、強盗なんかはもっと多い。

自衛手段は多ければ多いほど良いのだ。


マルガンダの大通りは、結構な人出だった。

道の両側には屋台が並んでいて、あちこちから威勢の良い声がする。

明るい顔をしている民が多く、俺は少し安心した。

マルガンダを建設してから、最初の元旦はもっと疲れた顔をした者が多かった。

領民の生活に、それほど余裕があるわけではないのだろうが、軌道に乗せられる見通しは立った。

一昨年よりも去年、去年よりも今年、と農作物にせよ、物産にせよ、右肩上がりに生産量は増えているので、最早時間の問題である。

ローヌの一部地域では、収穫した麦の一部を他所に回す事もできてきている。

再来年からは、マルガンダやサンジュリアンでも、収穫が上がり始める筈だ。

そうなれば、後は備蓄に回せる。


「父上、あれはなんですか?」


エルロンドの声が、思考を途切れさせた。

指差す方向に目をやると、屋台のおっさんがクレープを作りまくっていた。

顔面と身体つきだけ見ると、どっかの鉱山にいそうな感じだ。ごつい。


「庶民の菓子、になるのかな。まぁ、悪くないぞ。一つ、食べてみるか?」


言うと、エルロンドは満面の笑みで頷いた。

人の間を抜けて屋台を目指す。

パウロ達は少し離れてついてきていた。

視界に入りにくく、近過ぎないが何かあればすぐに近寄れるポジショニングを、一部の護衛騎士はシュナの一党から習って身につけている。

まぁ、まず問題など起こらないだろう。


「おっちゃん。一つくれ。」


屋台に辿り着いて言うと、おっさんは顔を上げてニカッと笑った。


「あいよ。銅貨七枚!」


前世換算でだいたい七百円か。高いな。

いや、まぁうちの領地じゃまだなんでも高いから、こんなもんか?

運搬コストがどうしても高くなるので、仕方ない。

食糧全体の価格が落ち着くのは、全てが上手く行けば三年。現実的な予想では五年後ぐらいか。


「父上、はやく!」


またエルロンドの声で現実に戻って来た。

いかんな。ちょっと寝不足気味だからか、すぐに意識が飛んでしまう。


銅貨を支払い、クレープを受け取った。

エルロンドが背伸び手を伸ばしてくる。

まだまだ俺の腰ぐらいまでしか背がない。

ちょっと意地悪したくなったが、ここは大人しく渡してやろう。

機会はまだまだあるのだ。


「ありがとよ!また頼むわ。」


言って、おっさんはまたクレープ作成に集中し始めた。

エルロンドは、夢中でクレープを食っているので、ちょっと見学させてもらおう。

食ってないので、中身がわからないのだ。


おっさんは見た目に寄らず、慣れた手つきで素早く、しかし繊細にキウイや大粒のチェリーを並べてはリンゴジャムを塗りたくって包んでいく。


生クリームがあればもっと前世のクレープに近くなるんだろうけど、生クリームは割りと高級品である。

保存が効かないので、自分で牛を飼ってない限り口に入る事はないのだ。

なくはないのだが。


ちなみに、砂糖はそんなに高くない。

こちらは魔法を使った精製法が確立されているからだ。

詳しくは知らないが。


「父上は食べないのですか?」


「あぁ、まだ腹一杯だからな。」


昼食を摂ってから、まだそれほど時間は経っていない。

俺は奴隷だった頃の影響からか、食い意地張ってる割りには少食なのだ。

出されたもんは残さないけどな。


クレープのおっさんに礼を言って、屋台を離れると、すぐにエルロンドに手を引っ張られた。

その視線は的当ての屋台に注がれている。


「やるのか?」


屋台の前に到着すると、エルロンドはチラチラと俺を見てくる。


「父上がやってください。」


え、俺がやるの?


「お、父ちゃん良いとこ見せてくれよ!」


またもや、ゴツいおっさんだった。

小さなオモチャのような弓と矢を幾つも手に持っている。


弓は苦手なんだよ。

せめて投げ輪ならまだなんとかなりそうな気がするんだが。


「いくらだ?」


「銅貨六枚だよ。」


手渡すと、弓と矢を三本くれた。


「真ん中の赤いとこでりんご飴、黄色いとこでドライフルーツ、青いとこがこの飴玉だ。頑張りな!」


景品、食いもんかよ。

ちなみに、りんご飴は前世のモノとはちょっと違う。

焼いたリンゴに飴を巻いただけのシンプルなもんだ。

飴玉はべっこう飴みたいな感じだった。


「頑張ってください!」


期待しかしていないエルロンドの視線。

やるしかないか。


的の大きさは30cmはある。

だが、一番外側の青い部分の直径は15cmほど。

その外側は白いだけで、景品の説明もなかったからハズレと言う事なのだろう。

距離は五歩か六歩。弓が小さ過ぎて狙いをつけにくいが、当たらない距離ではない。


試しに一射。


やはり、弓が弱い。

狙ったところよりも、かなり下の的ギリギリのところに矢が突き立った。


エルロンドが残念そうな呻きが聞こえた。


ちょい修正してニ射目。

今度は中心の左斜め下、青い部分からはギリギリ外れた所に当たった。

惜しい。飴玉ぐらいは当てないとなぁ。


三射目。


中心の真下、黄色の部分に矢が突き立った。


「よし。」


うん。満足した。

振り返るとエルロンドが尊敬の眼差しを向けている。

どんなもんじゃい。


「父ちゃんやるね!景品だ。持ってけ!」


おっさんからドライフルーツが入った革袋を渡された。

中を見ると、棗やら林檎やらなんやら色々入ってた。

エルロンドに渡してやる。


「父上は弓もできるんですね。」


「パウロは、もっと上手いぞ。」


「それは、知ってます。父上も上手なのは知りませんでした。」


むしろ下手なんだがな。

パウロなら、三本とも真ん中を射抜いた筈だ。

まぁ、別に謙遜する必要もない。

むしろ、父は偉大なのだぐらいでちょうど良いだろう。多分。

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