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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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軍法会議。

いつもの会議室に入ると、主要な家臣がずらりと並んでいた。

円卓ではなく、俺の席を上座にしてテーブルが一つと、長机が二つ縦に並べられている。

右側にマンシュタイン、ポレス、メルヴィン、グレン。

左側にキートス、ファーブル、アルフレッド、ダルトン、ソドム、トロンテス。


ローフェンとサルムートは、任務から手が離せず、今回は欠席である。

なんか、えらく増えたもんである。

マンシュタインは一万ほどの兵力を掌握しているし、キートスの部下は今や一千を越えた。

これからは、顔も知らないような家臣も増えていくんだろう。


俺が席に着くと、パウロがラドマンを連れて来た。流石に帯剣などはしていないが、至って普通の服装で、縄も打たれていない。

憔悴しているが、それでも前を向いて立っていた。

見上げたモノだ。


「始めようか。此処にいる中でその場にいたのは、俺とパウロ、ラドマンだけだからな。俺から説明しよう。パウロ、間違ってるところがあれば、言ってくれ。」


俺が向こうに着いたあたりから、細かく話していく。

俺が戦いの場にいた事を話すと、内務官の面々から呻き声があがった。

後でなんか言われそうだな。めんどくさい。


「今回の経過は、こんなもんだ。」


説明し終わると、場はしん、となった。


「マンシュタイン、軍法に照らすとラドマンの処分はどうなる?」


沈黙を、俺の横に座っているフィリップが破った。


「指揮官を解任。一兵卒に落とし、二月はなんらかの罰則を課す、と言うのが軍法では妥当な所だ。だが、騎士団の法は、主君に対する侮辱や反発を罰するモノではない。あくまで、指揮系統をしっかりさせる為のモノだ。」


「騎士団内で裁く事はできない、と?」


「それを判断する裁量が私にはない、と言う事だ。フィリップ。騎士団で裁くとなると、それぐらいの罰になる。」


「キートス。領内の法では?」


「状況から鑑みるに、難しいですね。面と向かって言った事を、どう捉えるかによって変わります。」


「最も重い場合で、打ち首。軽いもので労働刑となります。」


アルフレッドが口を挟んだ。

事前に話し合っていたのだろう。きちんと法を調べて来たようだ。

俺は思わず労働刑で良いんじゃないかと言いそうになったが、ぐっと堪えた。

俺がそう言えば、それで決まってしまうだろう。

言いたい事を、それぞれが言ってから決断を下す方が、こういった場では望ましい。


「首を打つべきです。自分の主君を奴隷扱いなど、騎士の片隅にもおけん。自裁すべきとさえ、私は思う。」


吐き捨てるように言ったのは、ポレスだ。

ポレスは最近、父親に似て風格が出てきた。まだ若いが、その場の用兵に関しては既にマンシュタインを越えたとも言われている。

身内なだけに、余計に厳しくなってしまうのだろう。

マンシュタインは、息子がやらかした事が事だけに、発言する事を嫌っているようだ。

娘が俺の妾であり、マルガンダと対を成す都市とその周辺を三男が管轄しているだけあって、発言力がかなり大きいのだ。


「死んで償う意味が、それほどあるのでしょうか?」


「内外に示しがつかない。民や兵の間の噂話とは、指揮官の言葉が持つ重さが違い過ぎます。ダルトン殿。」


「しかし、ラドマン殿には、渓谷に道を拓いた功績もあります。」


「今回の事は、金銭の勘定とは違うのです。」


静かに議論が始まった。

意外な事に、騎士団の面々はラドマンを死罪にすべきと言う意見で、内務官の面々はなるべく軽い刑を、と言う意見が多い。

初めの発言以降、マンシュタインは腕を組んで瞠目し、一言も発言していない。

ラドマンも、前を向いたまま、微動だにしていない。

兄であるポレスの言葉にも、眉一つ動かさなかった。


議論が白熱する事はなかった。

皆、気が進まないのだろう。

ラドマンは、血の気が多過ぎる所はあるが、基本的には闊達で部下の面倒見も良い。

元々、下積みの期間が余りにも短かった上に、現場の指揮でローフェン達と揉めたのは、初めから指揮権を明確にしなかった俺の責任だ。

やった事は良くないが、頭に血が昇ってつい言ってしまったぐらいのものだろう。

そもそも、本当に俺をただの奴隷だとしか思っていないのなら、フィリップが必ずそれを見抜く。

そんな人間に、兵力を預けるなど自殺行為でしかない。


粗方、意見が出揃ったようだ。

相変わらず、マンシュタインは一言も発言していない。

皆、それに気付いている。


「もう良い。ラドマンは兵に落とす。半年、開墾に従事し、その後マンシュタインの下に入れる。何か、意見がある者は、今言っておけよ。」


「首を、打つべきです。」


「ポレス。その気持ちはわからんでもない。だが、俺はこんな事で家臣を死なせたくないんだ。甘いと言われるかも知れんが。」


言っても、まだポレスは不満気だった。

言いたい事はわかる。

俺は、間違ってるのかも知れない。

少なくとも、貴族としては間違った判断だろう。


「他に意見がある者は。」


誰も、声をあげない。


「では、これでラドマンの処分は決定とする。パウロ、連れて行け。」


最後まで、ラドマンは何も言わなかった。


「さて、俺がいなかった間の報告を頼む。それで、今日は終わりにしよう。」


それほど多くの報告がある訳ではなかった。

大きなモノでも、ローフェンの隊が獲得した戦利品に、思った以上の額が見込める事ぐらいで、他はまだまだ過程の報告が多い。


「それから、オーガスタ様から訪問の打診がありました。年が明けてすぐ、こちらに来たいそうです。」


資料をめくりながら、最後にキートスが報告した。

神が降臨されるのか。

まだまだ、お見せできるような所はないが、もう四年ぐらいお会いしていない。

久しぶりに、会いたいと言う気持ちはあった。


「お受けしておこう。詳細な日程が決まり次第、報告をあげてくれ。」


年が明けるのは、後二週間ほどである。

神が年を越されるのは王都でだろうから、こちらに来るのは二月の半ばぐらいか。

少し遠いが、楽しみができた。


盛大に、とはいかないが、宴になるだろう。

久しぶりに、楽しい宴会になりそうだ。

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