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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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侯爵の過去。

夕飯は、野営料理近いモノだった。

と言っても、見た目だけだが。


焼いた豚に香草と塩をかけたモノ。


一口食べると、入念に下拵えしてあったのがわかる。ハーブ系の香りと微かな塩気、それに豚の脂肪の甘味が口の中に広がった。美味い。


臓物を煮込んだシチュー。


数種類の野菜が溶ける程に煮込んであり、ぶつ切りにしたレバーや心臓や腸なんかがゴロゴロ入っている。

内臓独特の癖はあったが、数種類は入っている香辛料の辛味とよく合っていた。美味い。


前世で言うナンのような小麦粉を練って焼いただけのモノ。なんと言うモノなのかは知らない。


そのまま食べると、口の中でネチョネチョするだけだが、シチューにつけて食べると中々美味かった。


デザートはカボチャパイだった。


シンプルだが、これも美味い。


今までで最も品数が少ない夕飯だが、俺は満足した。

シエーナとエルロンドも美味そうに食っている。


「今日の飯は美味かった。えらく趣きが変わったようだが。」


フィリップを呼んで言うと、彼はニヤリと笑った。


「料理人を変えましたので。アルマンド様が褒めていたと、サラに伝えておきます。」


ん、サラ?


「おい、サラって、あのサラか?」


俺が赤ん坊の頃、俺についていたメイドである。

親父が死んで、俺が奴隷になってからどうしていたのかは知らない。

二十半ばぐらいで、そこそこ美人だった記憶がある。


「はい。私と山に篭った者達の一人です。覚えてらっしゃいましたか。」


いやまぁ、そりゃぁなぁ。

フィリップよりも一緒に過ごす時間が長かった時期もある。

俺に武術と魔法の先生がつくまでは、よく遊んでもらっていたのも、よく覚えてる。


「あぁ。悪いが、呼んで来てくれないか。久しぶりに、少し話したい。」


言うと、シエーナが露骨に嫌な顔をした。

女である事は名前から明らかなので、わからない事もないのだが、アイラを妾にした時はこんな露骨にはならなかった。

正直、基準がよくわからない。

そう言えばエリーゼも、使用人や娼婦と関係を持つ事は極端に嫌がったのに、他の貴族の娘や家臣の娘を妾にする事に関しては、むしろ俺以上に積極的だった。

なんか、理由があるんだろうか。


そんな事を考えてたら、すぐにフィリップがメイド服を着たでかいおばはんを連れて戻ってきた。

横幅で言えば、痩せ型のフィリップの倍はあるんじゃなかろうか。


「お久しぶりですねぇ。アルマンド様。」


フィリップが何か言おうとしたが、その前におばはんがニコニコして話し始める。


まさか、サラ?これが?


いやいやいやいや、いくらなんでもこれはないだろ。

サラと言えば、前世の漫画とかに出てくる程のナイスバディとまでは言わないが、それなりに出るとこは出て、引き締まっているとこは締まっていた、あの美人メイドである。

精神だけは成人していた俺は、着替えさせてもらうのがちょっぴり恥ずかしくなったりしたものだ。


「絹の服は嫌だ、と駄々を捏ねられて、本当に困ったものです。フィリップが何を言っても聞かなかったですし。」


「父上がそんな事を、言ってたんですか?」


「ええ。エルロンド様。父上様が小さな頃は、それはそれは手のかかる子供でしたよ。夜中にこっそり抜け出して馬小屋に行ったり、絵本に夢中になってお勉強の時間に遅れたり。フィリップはいつもカンカンに怒ってましたわ。」


我に帰ると、そんな会話が繰り広げられていた。

フィリップ、苦笑いしてないで止めろよ。

あと、サラ。俺が遅刻した理由は絵本を読んでたからじゃない。図鑑を読んでたからだ。

いや、まぁそんな事はどうでも良い。


「サラ、やめてくれ。エルロンドが真似すると困る。」


「父上、私は勉強の時間に遅れた事はありません。」


ドヤ顔でエルロンドが言ってきた。

父の威厳が。

くそう。サラめ。どうしてくれようか。


そんな様子を、サラはニコニコしながら見つめていた。

シエーナはどこか勝ち誇ったような顔をしている。

女のプライドは守られたらしいが、それもどうでも良い。


助けを求めてフィリップに視線を送ると、苦笑いしながらも、どこか満足気だ。

ダメだ。こいつら。早くなんとかしないと。


「偉いな。エルロンドは。」


そう言うと、エルロンドは胸を反らした。

なんだかんだで、三歳児だ。

ちょっと安心した。


「サラ、今日の夕食は美味かったよ。これからも頼む。手が空いたら、エルロンドとも遊んでやってくれ。」


言うと、サラはお任せください、と頭を下げた。

エルロンドはサラに期待の篭った視線を送っていた。

それと同じ種類の視線を、シエーナも送っているのは多分気のせいだろう。


誰でも、幼い頃の話しをされるのは恥ずかしいものだ。

前世の記憶が無ければ、もっと恥ずかしい思いをしたかも知れない。

前世で高校生だった頃、元旦に親族の前で俺が四歳か五歳ぐらいのビデオを流された時は、恥ずかしさで人は死ねるんじゃないか、と真剣に思った記憶がある。

アレに比べれば、まだマシか。


「アルマンド様、そろそろ時間です。」


フィリップがそう告げると、俺は席を立った。

今日に限って言えば、仕事を飯を食う前に片付けておけば良かった。

少しだけ、俺は後悔していた。

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