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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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帰ってきました。

視察を終え、マルガンダに戻ってきた。

仕事としては、非常に有意義だったが、俺個人としては不愉快な事が多かった。

なんか、ドッと疲れた気がする。


ラドマンはあの後倉庫に監禁され、父であるマンシュタインからの処分を待っている、と言うか、俺たちが帰るついでに護送してきた。

早馬を飛ばしたので、既に事情は伝わっている筈だ。

正直、ラドマンの言葉はキツいもんがあったのと同時に、気が楽になったような気もする。

奴隷ごときに、と内心思われていないか、と気にはしていたのだ。

思われていたのは、ショックはショックだが、そうわかったらわかったで納得はできる。

誰がそんな事を考えているかわからない、と言う状況より、よっぽどマシだ。

そう言った意味では、ラドマンには感謝している。

出来れば穏便に済ませたいし、マンシュタインにもそう言うつもりだが、どうなるかはわからない。


シエーナは、戻って来れた事にホッとしている。顔に、それがハッキリと出ていた。

旅に慣れていない彼女からすれば、それも致し方ない事だろう。

しっかり休むように言って、フィリップにハーブティーを頼んどいた。


なんか二人とも、これぞ『わたし驚きました』って顔の代表格ですみたいな顔をしてた。


いや、今からサボってた分の勉強やらなんやらをやれとか、俺そこまで鬼畜な事言わないから。

失敬だぞ。


実際、シエーナは失態や失言は多かったものの、最後までよく付いて来れたな、とは思う。

馬を乗りこなせると言うのが大きかったが、やはり中々の根性をしている。

長時間の移動と粗食に耐え、堅い寝台で眠る、普段の生活よりかなり過酷な環境だった。

俺は、シエーナの根性は認めているのだ。


それぞれの私室に戻り、俺は少しだけのんびりした。

執務室に入るのは明日からだが、俺がいなかった間の報告や、ラドマンの処分は今日中に済ませたい。

まぁ、晩飯の後で良いだろう。俺も少々疲れた。

その旨をフィリップに伝え、晩飯までは私室でボーッと過ごす事にした。

ここのところ、そういう時間を過ごしていなかった事に気付いたのだ。


フィリップが持って来た、様々な種類のベリーがやたらと乗っているパイを食べながら紅茶をすする。

身体のあちこちが溶けるような、そんな感覚があった。

知らず、気を張っていたようだ。寝る時までずっと誰かと過ごす事が、最近は少なかったから、ちょっと緊張してたのかもな。

その相手がシエーナだと尚更だ。


そんな事を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。

即座に、フィリップが取次ぎに入る。


「アルマンド様。エルロンド様が、お会いしたい、と。」


あら、今日のお勉強はどうしたんだ。我が息子よ。

いや、丁度終わった頃か?夕日が差しているから、それぐらいの時間ではある。

時計がない、と言うのはこういう時にちょっとした苛立ちになるな。ないもんは仕方ないんだが。


「良い。入れてやれ。あと、エルロンドの分も菓子と飲み物を頼む。」


かしこまりました、とフィリップが出て行き、代わりにエルロンドが入ってきた。

キラッキラした目をこちらに向けて来る。


「お帰りなさい。父上。」


そう言って、エルロンドはきちんと貴族式の礼をした。

なんとも出来た三歳児である。いや、ちょっと前に四歳になったのか。

いくら貴族の嫡男で、これから異母兄弟が増える事はあれど、同母兄弟が増える事はない事などを考えても、多少やり過ぎのような気がしなくもない。

貴族としての隙が少ないのは良い事なのだろうが。


「ただいま、エルロンド。座りなさい。そう畏まる事はない。」


言うと、エルロンドは眩しくなるような笑顔で、俺に近づき、俺の向かいのソファーに腰を降ろした。


繰り返すようだが、四歳である。

普通、隣に座るだろ。いくら貴族でも私室なんだしさ。


「エルロンド、隣に座りなさい。」


言うと、エルロンドは、きょとん、とする。


「良いんですか?」


頷くと、エリーゼの笑顔になった。

ここ数ヶ月で、エルロンドは実に多彩な表情を見せるようになった。

同じ感情を表現するのにも、少しずつ表情が違うのだ。

エルロンドは慌てたように急いで、勢いよく俺の隣に座った。


「父上。」


「なんだ?」


「お話しを聞かせて下さい。」


また、か。

エルロンドは、俺が何処かから帰って来る度にせがんで来る。

どう話したもんか、毎回頭を捻っているのだ。

四歳児相手に、仕事の話しなんかしても仕方ないからな。


「そうだなぁ。ロックボアに二度出会ったよ。パウロが片づけてくれたが。」


帰りにも、出会ったのだ。あの地域には結構な数生息しているようだ。

落とし穴でも掘っておけば対策としては充分なので、農村や町に住む人々の脅威にはなり得ない。

その為、余り積極的に狩られていないのだろう。


エルロンドは、こういった冒険臭がする話が大好きだ。話しを聞きながら、こちらを見つめてくる目からは、キラキラ光線が常に発射されている。


俺は、行き帰りに出会った魔物や、神殿のアンデット達との戦いを話してやったり、神殿の発掘調査で見つかった遺物のスケッチや、絵が上手い者に描かせた予想復元図なども見せてやった。


「すごいです。」


エルロンドは大はしゃぎだ。

あれやこれやと色々聞いてくる。

俺は、丁寧に一つ一つの質問に応えていった。

明日になれば忘れているのだろうが、エルロンドには正しい知識を身につけて欲しい。

俺は、今世でかなり勉強した。それはこの世界の学問のありように少々疑問を抱いたからだ。

嘘は言っていないのだが、理論と言うモノが根本にないのだ。

神の声だとか、国王がそう命じたからとか、そんなモノで思考を止めてしまう傾向がある。

エルロンドがもう少し大きくなったら、現代日本的な教育を施すつもりだ。

ゆとりとかそう言う意味ではない。

過去の偉人達が、生涯を賭けて遺した知識を、きちんと伝えて行く。

教育の一面に過ぎない事だが、大事な一面ではある筈だ。


「アルマンド様、ご夕飯の準備が整いました。」


フィリップの控え目な声。

のんびりタイムは終了である。


「シエーナは?」


俺がスケッチやらなんやらを片付けている間、エルロンドがフィリップに聞いていた。


「御同席なさいますとも。シエーナ様からも、お話しが聞けると良いですな。」


小便を漏らした事とかな。

エルロンドも、たまにやるそうだから、話しが合うかもしれない。

思わず、ニヤついてしまった。我ながら良い性格してるとは思うが、笑ってしまいそうになるんだから仕方ない。


「行こうか、エルロンド。」


言うと、エルロンドは笑って頷き、俺の前に立った。


「どうした?」


何か言いたげだが、言葉にならないらしい。

口元をちょっと動かしながら、俯いてしまった。


「アルマンド様、たまにはお子様を抱き上げるのも良いものですぞ。」


あ、なるほど。

フィリップの言葉で気が付いた。そういや、そんな事もしてこなかったな。

普通の親子として過ごせる時間が、俺達にはあまりに少ない。それが、俺の心に微妙に引っかかってはいた。

多分、時間の長短ではないんだな。こういうのは。

子供が出すサインに、親が気付けるかどうかなのだ。


俺は、エルロンドを抱き上げた。

まだまだ小さな身体だが、随分と重くなった。

エルロンドは嬉しそうに笑っていた。


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