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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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初めてのグーパンチ。

ローフェン達が退いたのに合わせて、俺達も丘を駆け下りてローフェン達のところに向かった。


正直、年甲斐もなく興奮していた。

遠くから観戦しただけでも、映画の迫力など問題にならない。

ラドマンのように、先頭に立つような事はどう頑張ってもできないだろうが、最初の突撃ぐらいなら、俺でもついていける。

実際、それが許されるかどうかは別として、そんな自分を思わず想像してしまう。


ふと、馬を並べているシエーナを見ると、泣いていた。

それでも、前を向いて馬を駆けさせていた。

気丈ではある。

ドジでマヌケで頑固なくせにかまってちゃんと、ほとんど良いとこなしだが、根性だけは据わっている。それは、認めても良い。


ローフェン達の所に着くと、半数は臨戦体勢、半数は飯を食っていた。

小さな堅いパンと、塩漬けにして干した肉、それをそれぞれ齧っていた。


ローフェンとラドマン、それと将校格らしき数名は、円になって何か話し合っている。

邪魔するのも悪いので、俺達は馬を降りて待った。


「怖かったのか?シエーナ。」


暇なので、シエーナに話しかける。

シエーナは、黙ったまま頷いた。

護衛達は、地面に腰を降ろして他の者と同じものを齧っていた。


「そうか。」


話しが終わってしまった。


こういう時、なんと声をかけたら良いのか、よくわからない。

なんとなく、気まずいような気分になった。


「あの。」


しばらくの沈黙の後、シエーナがいつも通りおずおずと口を開く。

だが、今回は何処か違う印象があった。

初めて会った時のような、しょげしょげ感がある。


「旦那様、戻るのは、いつ頃でしょう?」


「なんだ。怖気づいたか。」


「ち、違いますッ。いえ、あ、その。」


なんだよ。はっきり言えよ。めんどくさい。


「良いから。笑わないから正直に言ってくれ。」


言うと、シエーナは耳どころか首筋まで真っ赤にして、俺の近くまで来る。


「誰にも、言わないでくださいね?」


怖がる事ぐらい、仕方ないだろ。誰にだって初めてはある。

特に、オバケ的な魔物の群れを目の当たりにしたんだ。

二人の秘密にしたいだけなら、わからん事もない。めんどくさいが。


「わかった。」


渋々、頷いた。

まぁ、どうせパウロや護衛達にはバレてるだろうし、と言うか、マルガンダに戻ればどうでも良い事にしかならない。


「少し、漏らしてしまったので下着を替え」


「はぁ⁉」


耳元で囁かれた言葉に、思わず素の声が出た。

それも、結構な音量で。

次の瞬間、頭に衝撃が来た。

シエーナのグーパンである。

親父にも殴られた事ないのに!とか思わず言いそうになったが、よく考えたら親父どころか、誰にも殴られた事など、俺にはない。

蹴られたり、訓練用の棒なんかで打たれたりはしたが、今世で殴られた事は、これが初めてだ。

あまり嬉しくない初めてを捧げてしまった。

シエーナは、スケルトンも泣いて逃げ出しそうな怖い顔をしてる。

首筋まで真っ赤である。

怒りなのか恥ずかしさからなのか、俺は一瞬だけ考えた。

正直、今度は俺がチビりそうだ。


見つめ合う事、数秒。

互いに我を取り戻し、互いに目を逸らした。


何事かと皆こちらを見ている。


「ご、ごめんなさい。」


消え入りそうなくらい小さな、シエーナの声。


「良い音がしましたねぇ。」


パウロがニヤニヤしながら野次を飛ばした。

皆の視線が、一斉に逸れる。


「パウロ、お前の馬はラドマンの隊に供出する事にしよう。なに、マルガンダに帰るまでには、良いの見繕ってやるから。」


俺の笑顔、パウロの青褪める顔。

お約束は守らないとな。

いや、きっとパウロは俺に虐められたくて言ってるんだろう。

期待には応えてやらねばならない。


「さて、シエーナ、とりあえず戻ろうか。今日見なければならないモノは見た、と言う気もするし。」


シエーナに視線を戻して言うと、シエーナはぎこちない笑みを浮かべた。


俺の後ろには、自分の馬に縋り付くパウロが見えている筈だ。

男は己が足で立つ。

ナヴァレもそんな事を言ってた気がする。

これは、とても大事な事なのだ。


そんなバカな事を考えて、シエーナのおもらしを忘れようと必死だった。

余計な事を考えたら、シエーナに向かってニヤッと笑ってしまいそうになる。


シエーナのグーパンは、結構痛かった。

出来れば二度と喰らいたくない。

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