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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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初めての障害。

アイラは、全ての意味でシエーナより扱いを下にした。


屋敷の敷地内に小さな館を建て、そこにアイラとメイド十名を住まわせ、俺が通う形にした。

月々に使って良い金貨の額も、シエーナには制限がないのだが、アイラは銀貨三十枚とした。

ちなみに、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨十枚で白金貨一枚である。

銅貨の価値は前世で言えば百円ぐらいか。

銅貨と銀貨には大小があり、大きな方は小さなモノの十枚分の価値がある、と言う事になっている。


アイラは、それでも充分過ぎる、と言う態度を崩さなかったし、使用人の数も逆に多過ぎる、と言ってくる程だった。

俺が訪ねた時は必ず笑顔で出迎え、食事や酒肴、寝室の準備まできちんとされている。

それほど美人ではない、どこにでもいそうな娘だが、心は安らぐ。

俺にとって、彼女と過ごす時間は、貴重な時間になりつつある。


俺は寛ぐ時間が欲しくなると、たまにアイラの館に行くようになった。

それでも、月に二回か三回ほどか。

アイラが妾になって三月ほど、珍しく俺も忙しい日々を送っていた。


新しく召し抱えた者で、何人かには役職を与えねばならなかったし、マルガンダ周辺で調練と開墾を繰り返す、新しい隊の様子も何度も見に行った。

それに、今はアルフレッドが中心になって細かい法の整備を進めている。

王国の法律があるにはあるのだが、それだけでは対応できない事例が、それぞれの領地で起こるので、領主には王国の法律の枠内であれば法を作る権限がある。

自分の領地でしか通用しないし、大したモノは作れないのだが、それでも必要だった。


アルフレッドは、実際に起こった民の諍いや、商人や役人の不正といった事例をシュナに集めてもらい、とんでもない量の書類に埋れながらも、キートスに相談しながら草案をまとめた。

後は、俺とフィリップとキートス、アルフレッドで吟味しながら、実際に施行し、経過を観察していくしかない。


また、うちに新しく仕官したソドム・キルヴァンと言う男に、各ギルドとの折衝を任せた。

特に、商人ギルドとは、ここのところ上手くいっていない。

こちら側が忙し過ぎる為、護衛や物資の準備などの対応がどうしても遅れるのだ。

法の整備にも反発する気配があり、ここいらで専属の者をつけないと、キートスの仕事に差し障りが出る。

ソドムには、部下を五名つけて放り出した。


グレン・フィジャックと言う者には、騎士団の物資を管理させた。

軍属の文官、と言う事になる。

不正が起こりやすい所なのだが、フィリップフィルターがかかっているので、おそらく大丈夫だろう。

グレンには、部下が五百ほど付いた。

輸送なども担う事になるので、これでも少な過ぎるぐらいなのだが、グレンは部下の前で途方に暮れていた。

ダルトンが、最低限の事だけ教えてマルガンダから彼らを送り出したようだ。

騎士団に合わせて、彼等は領地の中を駆けずり周る事になる。


トロンテスには、牧の統括を任せた。

こいつはうちの生え抜きで、親父の代からうちの使用人として厩舎番などをしていた。

動物に関する知識が広く、それに関連する経験も豊富なのだが、小心な上に字が書けなかった。

本人はそういった立場に立つ事を拒んで来たのだが、フィリップが根気良く説得し、字を教え、近頃ようやく本人も役職を与えられる事に納得したのだ。

トロンテスには部下が二十名ほどついた。

肉や乳製品、羊毛や革の生産などをトロンテスが一手に管理する事になる。

彼等はまず領地中の牧を見て周るようで、すぐにマルガンダを出て行った。


どこも目が回るような忙しさだ。


「失礼します。」


執務室でサルムートの報告書を読んでいると、キートスがやってきた。


「どうした。」


「アルマンド様が発掘していた神殿から地下迷宮が見つかったと、サンヴェラから報告が。数十名、護衛の騎士と人夫から被害も出ております。」


なんてこった。


「ローフェンを急行させろ。俄仕込みの隊だが、間に合わないよりはマシだ。ラドマンにも早馬を出せ。サンヴェラは引き上げだ。他の候補地に送り込む。」


言うと、キートスは真剣な顔で頷いた。


地下迷宮は、洞窟や放棄された鉱山、古代遺跡などに発生する魔物の巣窟だ。

魔力の澱みが長い時をかけて具現化し、意志を持つようになり、その土地や建物に定着すると、周辺にいる魔物などを自分の中に取り込んで、あまりよろしくない意味で変質させてしまう。

しかも、その魔物は地下迷宮である程度まで数を増やすと、再び外に出て、人や獣を襲うのだ。


人類にとって厄介極まりないのだが、地下迷宮には利点が一つだけある。

地下迷宮の魔物からは、魔石が採れるのだ。

魔石とは、そのまま魔力の化石だ。

大抵は半透明の黒色で、魔道具の生産やミスリルを始めとする特殊な素材の加工には欠かせないモノである他、純粋に魔力としても使う事ができるので、軍や宮廷魔法使い、冒険者や傭兵などにも大きな需要がある。

この魔石がある為、地下迷宮に潜る者は多いのだが、若い迷宮ほど魔物の数が少なく、狩る方が多くなると魔力を使い果たして通常の洞窟や遺跡などに戻ってしまう。


今回、うちで見つかった地下迷宮は、数千年単位で閉ざされていた筈だ。

そこで変質した強力な魔物は、放っておけば溢れて領地を荒らす。


「ソドムには、冒険者ギルドに招集を命じさせました。かなりの数が集まると思いますが。」


「わかっている。あの周辺には拠点になるような町はおろか、村さえない。迷宮の入口を固めたら、移民も送り込んでくれ。費用がかかるが、城郭にした方が良いと思う。ドワーフ達も向わせろ。」


全てが滞る訳ではないが、これで遅滞する所は必ず出てくる。

詳しい報告はまだ来ていないので、悲観的になる事はないのだが、しばらく頭痛の種になりそうだ。

今は一粒の魔石より、一粒の麦の方が大事なのだ。

キートスは、俺が書いたローフェンと、ラドマンへの命令書を持って、すぐに部屋を出て行った。


他の細かい事は、自分で判断し対応するだろうが、キートスには騎士団を動かす権限は与えていない。


俺は、サルムートの報告書に目を戻した。

第二報が入るまでに読み切ってしまいたかった。

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