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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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戦の気配。

会議では、俺が屋敷をあけていた間の報告が主だった。


北の王国が大軍を南下させる気配がより濃厚になった事


移民団がおよそ十万に膨れ上がり、一千ずつ既に入植を開始している事


ローヌ地方の麦の収穫がようやく安定し始めたようで、今年の収穫でローヌの民を全て養うのは無理にしても、村や集落では完全な自給自足が可能になる事


ようやく傭兵ギルド支部がローヌに進出した事


「問題は北の王国か。」


一度会議を解散し、俺の執務室にフィリップ、マンシュタイン、キートス、アルフレッドを呼んだ。


「今は小競り合いをしながら、進軍路や補給路を探っているようです。兵糧が集まりさえすれば、すぐにでも南下してきそうな気配ですね。」


アルフレッドが、地図を広げて指差しながら言った。

地図には、騎馬隊が通った場所や、兵糧の集積地、実際に戦闘が行われた地点が書き込まれている。

軍学さえ学んでいない俺には、さっぱり意味がわからないが、マンシュタインとキートスは深刻な顔をしていた。


「かの国は、穀物が貴重品ですから、すぐには集まらないとは思いますが。」


「キートス。お前の予測で良い。想定できる範囲でかまわない。話してくれ。」


「軍は三つに分かれて南下してくるかと。二つは陽動でしょう。本命の進軍路はおそらく、小競り合いが多い地点を外してくるかと。規模は一軍が五万前後、全て騎兵ですね。時期は五年後。」


「マンシュタイン、どうだ?」


「さて、それほど外れてはいないとは思いますが、どうでしょうな。五年後を目処に、遠征できるだけの兵を育てあげる、私にはそれしかできません。」


「なんにせよ、王宮から当家に招集がかかるのは確実ですな。」


「フィリップ、なんとか戦線が膠着した辺りで俺達が到着するぐらいに引き伸ばせないか?」


「難しいかと。侯爵家ともなれば、本軍の副将格、もしくは第二、第三の軍を率いるのが普通でございますので。最初から最後まで付き合わされますな。」


「侯爵が出さねばならん兵は一万ほどだったか。騎士団を核にして、農民に槍を持たせた軍を組織するような事を、俺はしたくない。」


俺が言うと、キートスは眉間に皺を寄せた。

反対にマンシュタインは大きく頷いている。

徐々にだが、うちでも騎士と文官の対立の芽が育ってきている。

両者共に、本能的な部分で嫌い合うところがあるので、仕方がないと言えば仕方がない。

それはそれで、悪い事ばかりではない、と俺は思っている。


「二年後には、大規模な移民は落ち着き、麦の収穫もあがってくる筈です。マルガンダの南も、良い穀倉地帯になるでしょうが兵糧の蓄えを考えると、今すぐに始めて五年でなんとか、と言うところですね。」


「費用はもつか?」


「もたせて見せます。ただ、今の人員ではどう考えても無理がありますので、新たに雇い入れる許可を頂きたいのですが。」


「かまわんぞ。むしろ、今でも少ないと俺は思う。フィリップと相談して、もう少し余裕を持てるぐらいには増やせ。」


言うと、キートスはゆっくりと頷いた。


「幸い、発掘の成果は上々だった。南の開拓に、今回の成果を全て注ぎ込もう。移民団は全て南に住まわせる。マンシュタイン、狩りと整地を頼む。」


言うと、マンシュタインは軽く頭を下げた。


「南はサルムートに任せる。今すぐ、と言う訳にもいかないだろうが、そのつもりでいてくれ。」


言うと、キートスの顔に憂いと同じ種類の色が差す。

育てても育てても、人材が巣立っていく。

また一から、と言う訳でもないだろうが、また手間をかけねばならないのだ。

察する事はできるが、最も適任なのがサルムートなので仕方ない。


「どこも手薄ですから、仕方ありません。出来れば、またフィリップ殿に人材探しの旅にでてもらいたいですが。」


そう言って、キートスは笑った。

当家で、最も苦労している男の顔は、出会った頃より随分老けた。

以前はいくらか細い眼と、薄い唇が冷たい印象を与えたものだが、増えた皺がそれを曖昧なモノにしている。

不思議な事に、最も多忙な彼が穏やかな印象を与え、最も暇な俺が周りに峻烈になった。

俺には、見えていない苦労もしたのだろう。


「今度の移民団には、貴族の子息も混じってるようだからな。これは、と言う者がいたら連れて来い。」


言うと、キートスは笑みを深めて頷いた。


際立った皺は、やはり苦労を感じさせる。

それでも、ほとんどが始まったばかりで、始まってすらいない事も多い。

それでも、きっと、この男は俺の期待を裏切らない。


気づくと、俺も笑みを浮かべていた。

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