墳墓の財宝
石室の中に明かりを入れると、足の踏み場もないほどの遺物が散乱していた。
朽ち果てているモノもあるが、ざっと見ただけでも、かなりの数の品が殆ど完形で遺っている。
「パウロ。全ての人夫をここに呼んでくれ。それと、馬車を五台。通れなさそうだったら、道を開かせろ。」
まずは天井石を外してから図面を描き、一つ一つ取り上げて行かねばなるまい。
普通にやれば、時間がかかり過ぎる。人海作戦でいくしかない。
そして、とにかく馬車に詰め込んでポレスに運搬させ、必要ないモノから売り払えば良い。
集まった人夫達総出で黒麒石を持ち上げ、なんとか外すと、石室の全貌が明らかになった。
石室内部には、図面を書く事を考えるとうんざりするほどの遺物が散乱している。
人夫達がどよめきをあげたが、図面が描ける数人は顔が真っ青になっていた。
それぞれに図面を書く場所を割り振り、描きあがったモノから慎重に取り上げる。
見つかった遺物は、石棺、錫杖、冠、直剣、腕輪、指輪、イアリング、首飾り、玉、陶器等。
五台の馬車に遺物を入れた木箱が満載になる。
運搬時の衝撃を考え、大量の布を木箱に詰めているので、とにかく嵩張った。
あらかた積み終えた所で、ポレスが率いる騎士達が到着した。
騎士は配下の者全員連れて来ていて、歩兵は五百ほどか。
ポレスは、キートスから書類の山を預かってきた。
一度、帰って来いと言う事なのだろう。
図面を書ける者に今後の指示を出し、サンヴェラと言う男に統括を任せた。
一番図面が上手く、作業の意味一つ一つの理解が早かったし、何より意欲があった。
発掘は、根気良く丁寧に一つ一つの作業を続けられる事が、非常に大事になる。
やる気が続かなければ、投げやりな調査になりがちで、本来得られた筈の成果が半分以下になったりする。
俺の後任を決めてしまうと、俺はさっさとマルガンダを目指した。
古墳が掘れれば何でも掘れる、と前世では言われていたほど古墳の調査は難しい。
まだ幾つか調査が終わってない墳墓があるので、サンヴェラは身の細る思いをするだろうが、良い経験になる筈だ。
発掘調査現場から駆け通し、日が落ちると野営に適した場所で、天幕を張った。
麦の粉を捏ねて焼いただけのパンもどきが夕食だった。
俺は一人で粗末な兵糧を食い、焚き火の炎を見つめていた。
家臣はともかく、末端の者とは余り関わらない方が良いのだ。
向こうが緊張する、だとか、そういう気配り的な意味だけではない。
俺が兵士に死ね、と命令しなければならい時もある。
仲が良くなって、それを躊躇うような事があってはならない。
そこに、ポレスが薪を持ってやってきて、俺の向かいに腰を降ろした。
「凄い収穫ですね。キートス殿が喜びます。」
「どうだろうな。きちんとした金額を聞くまで、安心できん。」
ポレスが、薪を足してくれたようだ。
小気味良い音がする。
「具体的な数字は、私にはわかりません。が、キートス殿の試算では、最低でもローヌを五年間は無税で維持出来るほどのモノになるそうですよ。」
なら、大した事はない。
せいぜい白金貨三十枚程度か。
町一つどころか、村を二つか三つ作れば消えてなくなる程度のモノだ。
「あの黒麒石一枚だけで、です。」
「ほう。」
思わず、声が出た。
ポレスが、ニヤリと笑う。
「パウロ殿からの知らせは、あれの事だけしか言いませんでしたから。こっちに来て、驚きましたよ。」
「まだまだ、これからだ。」
そう、まだあそこには期待できる墓が一つ残っている。
調査が進めば副葬品以外のモノもいずれ見つかるだろう。
まだまだ、これからだ。
だが、遺物はいずれ掘り尽くす。調査が進めば進むほど精度は上がるだろうが、同時に成果をあげるのが難しくなっていく。
飽くまで、当座の金を稼ぐ手段でしかないのだ。
俺はもう、先を見ていた。
発掘が金になる事は、確信から確たる事実に変わったのだ。
前世と違い、しばらくは根幹産業になるだろうから、予算や工期を心配する必要はない。
俺が最前線でやるよりは、誰かに任せる方が効率的だろう。
ポレスの言葉には応えず、俺はこれからの事を思い描いていた。
誰も飢える事のない、俺の領地。
そこに辿り着く道筋が、見えてきた気がした。