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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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ローラン家の領地。

それから、俺とシエーナは何度かデートを重ねた。

自分は貴族である、と言う事を意識しなければならない所でなければ、シエーナはちょっと不器用なだけの、まぁ普通の範疇に入る女性だ。

改めてプロポーズし、正式に婚約した。

向こうは、最初から俺に憧れていたそうで、うちの領地で式を挙げる事になった。


最底辺の境遇から貴族に返り咲き、領主として様々な活動をしている俺と、情けで救われはしたが、いつまでも除け者にされる自分。

遠くから、成功した自分を眺めているような気分だったそうな。


俺は、さっさと事を済ませたい。

それしかなかった。


一度、フィリップを連れてローラン卿の領地まで行き、彼と会った。

どこにでもいる老人で、没落しつつあるローラン伯爵家の行く末だけを、しきりに気にしていた。

ローラン家も、古い血筋だ。そんな家にありがちな事だが、実権はほぼ家臣に握られてしまっている。

この領地を継ぐのは嫡男なのだろうが、次男は既に家を出て、三男と四男は成人しておらず、馬を駆って修練に励んでいた。


王国の北部、畑の収穫を期待するには寒過ぎるこの地域では、牧畜が盛んだ。

特に馬は名産であり、北方の異民族産に比べれば見劣りするが、それなりに良い馬を飼っていた。

商人に馬や羊を売り、食糧やその他諸々を仕入れて、生計を立てている者が多い。


貧しくはないが、豊かでもない。

町はあるし活気もあるのだが、どこか浮ついた活気に感じられる。


ここにはもう発展の余地もなく、家臣団とも上手くいっていない。

あと数代で、ローラン家は貴族と言う地位を失うだろう。


そんな事を見てとった俺達は、ローラン家の領地から、五十名ほど牧畜に詳しい領民と、一千頭の羊、百頭の馬を引き抜いた。

まともに教育されていない娘を、俺の嫁候補に送りつけたのだ。それぐらいは出してもらう。

俺がそれを知っている事に、ローラン家の家臣達は動揺し、ローラン卿は薄く笑みを浮かべていた。

交渉には、フィリップがあたり、その間、俺はローラン卿と少しだけ話しをした。

特に、俺を恨みに思う事はない。

俺となら、シエーナと合うと思った。

そんな事を、老人らしく何度も言っていた。


彼は、どこにでもいる、孫が可愛くて仕方がない老人だった。


先の事も、わかっていて、十一歳になる四男は、成人したらうちに仕える事になった。

家名を、細々とでも後世に残したいらしい。


それぐらいの事は、なんとでもなる。


事を済ませると、俺達はさっさと王都に戻った。

のどかな場所だったが、どこか物悲しく、落ち着かない。


王都に戻ってすぐ、領地に戻る手配をした。

しばらく、戻って来る事もあるまい。


未練は、まるでなかった。


俺が生きる場所は、ここではない。


シエーナは、ちょっとだけ名残惜しそうにしていたが。

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