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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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散々な食事。

やっと、入り口に辿り着いた。

さぁ、これから、と言う所なのだが、なんかドッと疲れた気がする。


店側が席の準備をしている間、俺は支配人と話していた。

シエーナは、迷子になったように、ポカンとしていて、声をかけ辛い。


「支配人、すまない。見苦しいものを見せた。」


「いえいえ、オーガスタ様の御紹介ですから。もう慣れてしまいましたよ。」


オーガスタ神よ。


あんた、なにやってんスか。


聞くと、気に入った奴隷やら使用人に、ご褒美として、たまに此処に連れてくるそうだ。

もちろん、他の客の迷惑にならないよう、必ず貸し切り。

店側は、最初は断ってたそうだが、なんとオーガスタはこのレストランのオーナーに直談判し、買い取ってしまったそうな。


神の為さる事は、俺ごときには理解できなかった。


そんな話しをしていると、ウェイターが呼びに来た。

席の準備ができたらしい。


「シエーナ、行きましょうか。」


ウェイターの言葉が脳に到達できていなかったシエーナは、俺の言葉で我に帰ったようだ。顔がまた赤くなる。


レストランのホールで、やたらと豪華な円卓と椅子が俺達を待っていた。

執事達は別室で待機している。


向かい合わせに席に着くと、シエーナは赤くなったまま、おずおずと口を開く。


「あ、あの。エンリッヒ卿?」


まずは飲み物注文しないと。


ほら、椅子引いてくれたウェイター固まっちゃってるじゃん。


「なんでしょう?」


「あの、私、じ、実はこういう所、慣れてなくて。お、お、おかしな事してたら、教えてくださいね。」


おい。


伯爵家の長女が、こういうとこ来た事ないって時点でおかしいだろう。


まぁ、シエーナだから、わからん事もないのだが。


「ええ。ですが、ご存知の通り、私は元奴隷ですから、そういった事に気づけないかも知れませんよ?うちの執事にも、たまに叱られますし。」


嘘だが。


俺は奴隷生活から解放された後、フィリップとハリーに貴族としての教育を受け直した。

今でも、ちょっとややこしいのは抜けがあったりするが、テーブルマナーぐらいなら完璧だ。


俺の言葉に、安心したようにシエーナは溜息をついて、笑顔になった。


その後、俺はワインを、シエーナは林檎酒を頼んで食事が始まった。


過程は省く。


食事よりもマナーの完遂に集中したシエーナとは会話がなかった事、シエーナの豊満な胸あたりは肉料理のソースに塗れた事、シエーナは一度顔をウェイターに拭ってもらう必要があった事だけ述べておく。


デザートも終わり、俺は孤独に豊かにワインを傾けながら、考え事をしていた。

シエーナは、コースの後半あたりからは、俯きながら肩を震わせていて、さっきからグズり始めたのだ。


うん。


やっぱこいつおかしいわ。


一緒に食事をして、気付いた。


「シエーナ。」


声をかけると、シエーナは顔を上げた。

化粧が崩れて、酷い顔になっている。


「君は、本当に貴族なのか?」


シエーナの顔が青褪める。


「わ、私は、ローラン伯爵家の長女です。」


「ん、聞き方が悪かったな。」


ワインを飲み干し、グラスを置いて、俺はニヤリ、と笑った。


俺のような元奴隷でも、テーブルマナーぐらいなら、きちんと学んでさえいれば、恥をかく事は早々ない。

まして、貴族として生まれ育ったのであれば、彼女は不器用で言い表せる限界を明らかに突破している。


「君は、貴族として、教育を受けられる環境で育ったのか?」


ローラン伯爵家は豊かではないが、貧しくもない。

伯爵家としては、没落しかかっていると言っても良いのだが、娘を教育できない程、困窮しているわけでもないのだ。


ここまで言うと、再びシエーナは俯いた。

また、グズり始める。


まぁ、なんか事情があったんだろう。


しかし、参ったな。

俺の予測が正しければシエーナは多分、強く素直な子だ。

不器用なのは間違いないんだろうが、己の立場から逃げようとはしていない。


すぐグズグズして、なにかと落ち着きがなく、意志薄弱な女は嫌いだ。


だが


何事にも一生懸命で、押しつけられた責任ですら、負けまいと頑張る女は好ましいと思う。


さて、どうしたもんか。

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