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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
第二章 〜食糧確保と町造り〜
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デートの前に。

シエーナとのデートまでの三日間、俺は王宮に顔を出したり、数少ない貴族の知己を訪ねたり、誕生日プレゼントの整理をしたり、まぁ色々忙しかった。


王宮へは、金鉱山の採掘及び管理諸々の権利を特例としてもぎ取るのが、主な用事だ。

王国の金鉱山は、そのほとんどが王家直轄になっている。

王宮最大の財源でもあるので、簡単に認められる訳ではないのだが、何故か王宮が派遣する鉱夫達や監視官は、渓谷を抜ける事ができない。

何故か飛竜に襲われ、何故か傭兵達は護衛の役目を果たさず、逃げだしてしまうのだ。


いやぁ、どうしてだろうねー。


商人達は、ほぼ襲われる事なんかないのにねー。


まぁ、そんな訳で、王宮で管理するのが不可能なら、うちがやるますよって感じに話しを持って言ったわけだ。

鉱山一つあたりの年間採掘量に制限は掛けられたが、許可は降りた。

とりあえず、うちには千箇所ぐらい金鉱山があることにしとこう。


え?そんなのがまかり通るのかって?


いやほら、俺さ、一回盗賊連合に襲われたでしょ?


あの後、政治派の侯爵が一人、伯爵が二人、同じ日に盗賊団に襲われてお亡くなりになられたんですよ。


それも彼等の息子達はもちろん、妻や分家筋まで根こそぎやられた。


遺産整理の過程で、出るわ出るわ盗賊団との繋がりを示す証拠の数々。

因果応報ってやつだ。


うちのシュナを怒らすのはやめとこう、と報告を聞きながら思ったものだ。


まぁ、そんなこんなで王宮は俺に及び腰なのだ。

その気になりゃぁ宰相の首を土産するのも不可能ではないんだから、当然だ。


後で知った話だが、シュナの一党は元々王国有数のそういった集団で、そんなとこに莫大な資金を無理矢理流し込んだもんだから、他の一党を吸収し、とんでもない事になってたそうな。



さて、数少ない貴族の知己とは、主に商業で領地を回してる領主派の貴族達だ。

領主派の中にも派閥があり、オーガスタ神も商業系の派閥で、そこそこの影響力と発言力がある。

俺は農業派だ。

他に工業派がいて、互いに牽制したり協力したり、まぁなんやかんやしてる訳だが、俺は基本的にどの派閥の連中とも仲が良い。

これから発展する広大な領地を持ってると言うのは、彼らにとっては儲けるチャンスなのだ。

こう言うと、守銭奴っぽく聞こえるかも知れないが、領主派には、ただ一つだけのルールと言うか標語みたいなのがある。


貴族たるもの、蓄えは恥。


貴族が金を使わないと、民に金が回らず、金の流れが滞る。

しいては、王国の経済が停滞し、発展の停滞に繋がる、と言う考えのもと、建国当初から領主派貴族は金を使う為に金を稼いできた。


政治派や軍事派に比べれば数は少ないし、貴族らしいやつも、飽くまで比較的たが、少ない。

王国で最も民に近い貴族が俺たちなのだ。


まぁ、そんな連中なので、奴隷貴族などと陰で呼ばれる事もある俺には付き合いやすいやつが多い。


せっかく王都に来たんだから、挨拶にまわったのだ。


最後に回した誕生日プレゼントだが、かつてのエンリッヒ家の家宝を送りつけたやつから、変態的情熱を込めた下着まで、色々だ。

本当にいらないものは屋敷の庭で燃やして処分した。


女物の下着なんてどうしろってんだよ。


おおかた、熱烈なアプローチをかけてきた令嬢の誰かだろう。

俺は変態であるが、その前に紳士である。

いや、紳士の仮面を被った変態である。

使用済み下着程度では、紳士の仮面をかなぐり捨てるには足りない。


他にも、繊細な彫金が施された白金製の指輪、ミスリルが含有されている小剣、ドラゴン革の鞍等、俺の事をよくわかってる贈り物もあった。


俺には必要ないが捨てるのがもったいないもの、白仙樹と呼ばれる東方の帝国の限られた地域、それも極めて産出量の少ない木材で造られた笛、南方の王国で採れるオパールに似た宝石の原石、ランタンのような魔道具などは、家臣や使用人達に配った。


みんな喜んでたが、フィリップは固辞した上にあまり良い顔はしない。

なんとなく意図はわかるので、お互いに何も言わなかった。



さて、そんなこんなでシエーナとのデート当日である。

伯爵家の長女なので、こちらがエスコートせねばなるまい。

王都のバカみたいに高く、貴族からの評判が良い一流レストランをシエーナの為に貸し切った。


レストランの前で待ち合わせしたのだが、馬車から降りてきたシエーナはガッチガチだった。

誕生日の時とは違い、暗い色のシンプルなドレスを着ていて、化粧も控えめだ。

顔立ちの良さと、飾らないその姿は、何も言わず、何もせずに立っていたとしたら、十人が十人振り向くような色気がある。


本人は、非常に残念なお方なのだが。


「お、お、お待たせしましたぁ!」


あぁー、執事達からなんか言われたんかなぁ。

語尾だけ無駄に元気だ。

後ろの執事の笑顔、引き攣ってるよ。


「そんな事はありませんよ。」


色んな意味を込めて言うと、シエーナの手をとり、レストランの中に誘う。


いやね。

もう定番と言うか。

そうゆうことをするやつって実際にいるんだね。


手をとって二歩目、シエーナは自分のドレスに足を取られたのか、見事にこけた。

それも、俺を押し倒す形で。


入り口まで、僅かだか段差がついている石段の角に、思いっきり頭をぶつける俺。

身体が反射的にシエーナを守るように動いたのだ。


くそったれ。

めちゃくちゃ痛い。

血、出てないだろうな。


「ご、ごめんなさい。だ、だ、だ大丈夫ですか?」


いいから、どけ。

乳当たってラッキースケベとか、いいから。

石段の角が肋をぐりぐりしてて痛いんだよ。


「お嬢様、お手を。」


向こうの執事がシエーナを立たせる。


やっと、立ち上がれた。

白の服にしなくて、良かった。

今日は全体的に濃紺が基本の服にした。

汚れはそこまで目立つまい。


「ごめんなさい。」


飯食う前からショゲんなよ。


ただでさえ愉快な食事じゃないんだ。


余計にマズくなるだろが。


「大丈夫ですよ。痛くない、と言えば嘘になりますが、慣れたものです。」


俺が笑顔で言うと、シエーナの顔にガッチガチの笑顔が戻る。


「そ、そうなんですね!エンリッヒ卿は奴隷でいらっしゃったとか。やっぱり身体も丈夫になるんですね!」


空気が凍った。


向こうの執事は、この世の終わりみたいな顔してる。


俺が奴隷だった事を、面と向かって言うやつは初めてだ。


エリーゼでさえ、演劇で俺の事を知ってる、みたいな感じでオブラートに包んだと言うのに。


「アルマンド様は、騎士団の調練の指揮もなされ、時には騎士と組み打つ事もございます。多少の事で、動じる方ではありませんよ。」


当家の名臣フィリップが助け舟を出した。

向こうの執事の顔色が、徐々に戻って行く。

いやぁ、執事の鑑賞だけでも、中々面白いな。


「そういう事です。さ、入りましょうか。支配人が、さっきからずっと待ってますし。」


再び、シエーナの手をとる。


彼女は、自分のやらかした事を理解はしているようだ。


既にショゲショゲで、今にも泣きそうになっている。


泣きたいのは俺の方だよ。

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