婚活、再び。
「本日は、ようこそおいで頂きました。」
屋敷のホールで、フィリップの挨拶が始まった。
貴族達や令嬢達の視線が痛い。
特に令嬢達の肉食獣的な視線は、もうなんて言うか、思わずパウロを呼びたくなるレベル。
必死になるのはわからんでもないのだが、そんな目で見つめられても減点対象にしかならない。
「それでは、当主であるアルマンド様からも一言頂きます。アルマンド様、どうぞ。」
更に視線が集まる。
あまり緊張はしていないのだが、鬱陶しい。
俺は基本的に貴族と言う生き物が嫌いなのだ。
こうして態々、領地から出てきてパーティを開いてるのは、エルロンドに貴族としての財産を遺す為である。
親父は、貴族同士の付き合いとか、裏のやり取りなんかに弱かったらしく、結果としてあぁなった。
エルロンドに、俺と同じ目に遭わす訳にはいかない。
エルロンドの為になら、気色の悪い付き合いだろうが結婚だろうが、なんだってやってやる。
「本日は、私の為に集まってもらい、誠にありがとうございます。堅苦しい話しは抜きにして、心ゆくまで、お楽しみ頂きたい。」
短く挨拶を済ませると、拍手が起きてパーティが始まる。
俺は、さっそく貴族共に取り囲まれた。
当たり障りのない挨拶から始まり、皆が皆、うちの領地について何か聞き出そうとしている
ここに来ている貴族の過半数は領主派の貴族達なので、話題がそれしかない、と言うのもあるんだろう。
彼らにとって、今後うちとの付き合いは自分の懐に直接関わって来る。
現在でも、薬草の交易はかなりの金貨を生み出していて、今後は更に金やドワーフが作る金属製品なんかも輸出する予定でいた。
それらを、優先的に回してもらいたい、みたいな事を口を揃えて言ってくる。
後は、うちの家臣を出向させろだの、次男三男を養子にとれだの、まぁ色々言われた。
いやぁ、ナメてんのかね。こいつら。
どれもこれも丁重にお断りしといたが、俺が不機嫌になってくのが顔に出たんだろう。
段々と貴族共は寄って来なくなった。
お次は令嬢達が俺を取り囲む。
寄せて上げまくっているのは、四年前と変わらない。
違うのは、未亡人や行き遅れたおねーさんなんかが混じってる事ぐらいか。
猛烈なアピールに辟易しながらも、適当に相手する。
どうでも良い事をピーチクパーチク、おまけに知らない人間の愚痴まで喋りだす。
そういえば、エリーゼが愚痴の類を話してる事を聞いた記憶がない。
いや、何度か聞いた気もするのだが、こんなにうんざりするような話し方をしなかったんだろう。
一通りパーティの参加者と話した俺は、ちょっと休んで来る、と庭に出た。
俺とエリーゼが出会ったのが、こんなシチュエーションだったなぁ、などと思い出に浸りながらベンチに腰を降ろす。
そこにも、令嬢が数人待機していた。
どっかで俺とエリーゼの出会った時の事を聞いたんだろう。
互いに牽制し合って、誰もこちらに来れないのは、滑稽でしかないのだが。
一緒に抜けてきたフィリップも、苦笑している。
「必死になるのは、わからんでもないが、これはちょっと酷いなぁ。」
「当家の財産だけで言えば、公爵家にも匹敵しますからなぁ。エリーゼ様のようなお方は、貴族では珍しいと言って良いかと。」
別に、後妻にエリーゼを求めているわけではない。
邪魔にならない女なら、それで良い。
野心はなく、贅沢は程々、大人しいが夜の生活は拒まない。
そんな女が理想かな、と思っている。
俺の心は、エリーゼだけのモノだ。
後妻は、侯爵としての体裁と、エンリッヒ侯爵家の分家を作る為だけに必要なのだ。
余計な事をしたり、言う女は必要ない。
言うなれば、結婚もやらねばならない仕事のうちだ。
「よう、アルマンド。」
フィリップと、滑稽な令嬢達を眺めていると、オーガスタ神がやってきた。
心なしか、老けたような気がする。
神と言えど歳には勝てないらしい。
「お久しぶりですね。伯父上。」
「嫁探しはどうだ?」
「ご覧の通りです。」
言うと、神はニヤリと笑った。
「それなら、私の娘はどうだね。今年17になる。器量はそこそこだが、気が利くし、聡い娘に育ってくれた。」
おお、神よ。
あなたもですか。
と言うか、神の娘は、俺の従姉妹にあたる。
割と近い親戚を嫁にするってどうなんだ。
まぁ、前世では一応合法だったが。
「遠慮しておきます。俺の妻は、エリーゼだけで充分です。これからうちに来る娘は、きっと幸福にはなれない。」
言うと、気落ちした様子もなく、ニヤニヤしたまま神は頷いた。
「あぁ、わかってるよ。アルマンド。すまんな。」
なにがしたいんだこの人は。
たまに、わからない。
「で、気に入った娘ぐらいは見つけたんだろう?」
まぁ、そりゃぁな。
パーティの終わりまでに、声をかけようとは思っている。
領主派伯爵家の長女で、群がる令嬢達から一歩離れた距離で、おろおろしながらこちらを見ていた娘だ。
身なりは派手だが、顔が地味で、どうにもちぐはぐ感があった。
美人は美人なのだが、着飾って映えるタイプではない。
あと、言うまでもない事だが、巨乳である。
オーガスタ神に、曖昧に頷いて、牽制を醜い言い争いに発展させた令嬢達に目をやった。
こんな場を設ける事は、もう二度とするまい。
俺は、多分フィリップも、そう誓った。