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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
~第一章~ 開拓の始まり
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葬儀の後で。

その後の記憶が、俺にはない。


気がついた時には、俺はエリーゼの棺の前に立っていた。

棺桶の中には、花が敷き詰められていて、エリーゼは微笑みを浮かべたまま、眠っていた。


使用人達が、棺に蓋をして、馬車に運び込む。


王都の、貴族達が眠る墓地に、埋められるのだ。


「アルマンド様。」


声をかけられて、振り向くとフィリップと魔法医の爺さんがいた。

その後ろには、オーガスタ神や他の家臣達もいる。

葬儀をしていたらしい。


「ヤドウィン殿が、エリーゼ様の事でお話ししたいと。」


フィリップが言うと、爺さんが頷いた。

ヤドウィンと言うらしい。

俺が頷くと、フィリップに先導されて応接間まで歩いた。

三人共、なにも言わない。


「飲み物は、いかがいたしましょう。」


「結構だ。」


ヤドウィンが言うと、フィリップはこちらに視線を送ってくる。

首を横に振ると、フィリップは静かにドアの横で控えた。


「奥方の事だか。」


「エリーゼは、もう逝ってしまった。何を今更。」


「すまない。俺の力不足だ。この年になっても、救えない命に接する度に、心が引き裂かれる。」


それが、どうした。

お前の事など、知った事か。


「だが、一度診た患者の事を、きちんと伝えるのは医師の義務だ。辛いかも知れんが、聞いてくれ。」


エリーゼの身体は、おそらくは十数年前からボロボロだった。

腑分けをしていないので、なんとも言えないそうだが、幾つかの臓器はまったく機能していない筈で、本来ならば病に侵されたまま、死んでいる筈だった。


「おそらく、彼女はとんでもない魔力量の持ち主だったんだろう。病に侵される事なく成長していれば、偉大な魔法使いになれたろうに。」


「それだけか。」


「もう一つ。これは仮説だが、奥方が産んだあの子供の事だ。おそらく、母親の魔力を受け継いでいる。いや、吸い取った、と言うべきか。」


どういう事だ。

俺とエリーゼの子供が、エリーゼを殺したのか。


「奥方の身体はとうの昔に、妊娠に耐えられる身体ではなかったんだ。だが、妊娠してしまった。魔力の変換について、詳しい事はよくわかってないんだが、母性がそうさせたのかも知れんな。子供だけはなんとしても守る、と言うのが母親、と言うものだ。」


「エリーゼは、妊娠しなければ、どれだけ生きられた?」


「わからん。だが長くもって、十年。いくら、とんでもない魔力を持っていたとしても、その辺が限度だろう。」


「そうか。」


「すまなかった。」


最後に、また謝って、ヤドウィンは出て行った。

本当に、医師の義務とやらを果たしに来ただけだったようだ。


「アルマンド様。」


しばらく、フィリップしかいない応接間で、ボーッとしていた。

特に、意味はない。

動く気に、どうしてもならなかっただけだ。


「お子様に、お会いにはならないのですか。」


無理だ。

ヤドウィンの話しを聞く限り、エリーゼを殺したのは俺と、その子供だ。


会う気にはなれない。


「いい。部屋に、戻る。」


言って、俺は重い身体を、なんとか椅子から離す。

立ち上がると、身体が浮いているような気がする。


「お食事は、いかがいたしましよう。」


「いらん。」


「いけません。昨日も、何も召し上がってらっしゃらないのですから」


「食欲がない。」


「何か、軽いものでも口にされませんと。」


「すまない。しばらく、一人にしてくれ。」


言って、俺は一人で寝室に戻った。

エリーゼと寝ていたベッドは、取り替えられていた。


それで良い。

エリーゼがいた、それを思い出す何かは、今はいらない。


今は、ただ逃げたい。

何も、見たくない。

何も、考えたくない。


俺は、ベッドに倒れ込んで、そのままじっとしていた。


眠れは、しなかった。

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