渓谷ルート
俺達は再び渓谷を訪れた。
行きは飛竜やら兵士達の動きなんかに気を取られていたが、今回は自然の美しさに目を奪われた。
岩肌が露出した岩山に挟まれ、その間にびっくりするほどの透明度を誇る川が流れている。
所々、思い出したように生えている灌木が、味のある景色を演出していた。。
一応、川に沿ってアインシュタインとラドマンが道を拓いたので、六頭立て馬車が二台ぐらいなら並んで通る事ができる。
今後、さらに拡張する予定だが、何年も先の話しになるだろう。
この景色は今だけのモノになる。
「フィリップ。」
呼ぶと、すぐにフィリップが馬を寄せてくる。
今回はナヴァレがいないので、前回よりも早く渓谷を抜けられる筈だ。
抜けた先に、ドワーフの長が待っている。
「何かございましたか。」
「心を打つな。自然と言うのは。」
言うと、フィリップは微笑んだ。
「アルマンド様には、よろしいのでしょうな。随分と長い間、苦労されましたし。」
こういった、ただの雑談をしたい時、フィリップはどこか哀愁を漂わせる。
何かを慰めるような、そんな感じだ。
それが、俺の中の何かを、癒す時がある。
「奴隷だった時、周りを見る余裕なんかなかったからな。あそこも、山の上だったから何もなければ、良い景色が見れたと思うんだが。」
「私は、山は懲り懲りですよ。恵みをもたらしてはくれますが、山は人を内に向かわせますので。」
あぁ、そうだった。
フィリップは山奥に逼塞したんだったな。
きっと、思い出したくない事の一つや二つ、あるのだろう。
「山の暮らしは、長かったか?」
「どうでしょうな。長かったような気もしますし、あっという間だった、と思う時もあります。」
「わかるよ。俺も似たようなもんだ。そういえば、山から連れ帰った連中は、どうしたんだ?」
「ほとんどマンシュタインにつけてしまいました。サルムートぐらいでしょうな。今使える者は。いずれ、その者達にも仕事を割り振るつもりでおります。」
「そうか。」
その辺は、任せておけば良い。
俺に会わせようとしないので、重要な仕事を任せるほどではないのだろう。
俺達は、二日と半日で渓谷を抜けた。
飛竜に二度ほど襲われたが、行きと同じくほぼ被害なし。
まったく、数の暴力とはエグいものである。