奴隷の心。
当初の予定通り三日だけ、村に滞在して出発した。
俺は、パウロと話した後の二日間、独りでナヴァレが言った夢について考えていた。
シュナの手の者が、密かに護衛についたが、他には誰もついて来させなかった。
ナヴァレが死んだ丘で、独り腰を下ろす。
俺に目指すべき何かなんてない。
今の俺は、ただダラダラと毎日を過ごしたい。
楽に生きたいのだ。
前世では、俺はそこそこ頑張ったと思う。
毎日必死で働いた。
夢があったからだ。
俺は、起業したかった。
心の底から日本と言う国の未来を案じていたし、ゆとり教育を子供達に施した大人達が、ゆとり世代と俺達を鼻で笑う現実に、腹が立った。
笑われても仕方ない程、程度が低い同世代の奴らにも、腹が立った
そんな20代から50代に、必要な事、それはマニュアルや経験の蓄積なんかじゃない。
別の、もっと根本的な何かだ。
俺は、それを探す為に必死に働いた。
どうやれば見つかるかわからない。
だから、とにかく必死になった。
見つかれば、それを飯の種にしようと思っていたのだ。
あの頃の気持ちを、思い出す事はできる。
新しい何かなど、そうそうない。
わかっているのに、ワクワクするのだ。
楽しいとか、面白いとは違う。
充実してる、ともどこか違う気がする。
俺は、夢が持つ眩しさを知っている。
きっと、あの頃の俺は輝いてた事だろう。
だが、俺は絶望も味わった。
奴隷になる、と言う事はそういう事だ。
これは、奴隷だったやつにしかわからないだろう。
絶望とは、気力を奪う。
考える気力を奪われ、生きる気力を奪われ、最後は死ぬ気力まで、奪われる。
未来も過去もない。
ただ、今だけにやらねばならない事がある。
俺は、それをやり遂げれば良い。
出来なければ、暴力が待っている。
生きる為に最低限、時にはそれすらもないような環境で、それを繰り返すのだ。
俺の心は、そこで壊れないほど、強いもんじゃなかった。
心のどこかが、まだ奴隷のままだ。
目の前に難題がある。
俺を含めて、皆が挑む事を避けられない。
だから、自分の役割を果たさねばならない。
そして、それ以外の事はしなくて良い。
しては、いけないのだ。
そして、出来る事なら、投げ出してしまいたい。
それが、どれだけ情けなくても、俺はそういう人間になってしまったのだ。
否定も肯定もない。
それが、事実だと言う今があるだけだ。
思考は取り留めもなく、答えがでる事はなかった。
答えを求める事すら、俺はしなかった。
ただ、なんとなく考えたくなったのだ。
ナヴァレほどの男が、最後に選んだ話しが、夢の事だったからだ。
ただ、それだけだ。