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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
~第一章~ 開拓の始まり
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パウロの夢。

昼飯を食い終わった後、俺達はそれぞれの仕事をする事になった。


フィリップとマンシュタインは、先程の会議内容を踏まえて、今後の打ち合わせ。


サルムートは従士と傭兵を数十名連れて周辺に自生する植物と畑を見に行った。


ダルトンは、従士二名を案内に付けられ、今後の発展に必要となる物資のリストアップ。


ポレスとラドマンは、調練。


俺とパウロは視察と言う名のサボりだ。


やらないといけない事があったから、気を引き締めていたが、なんだかんだでナヴァレの死は俺を動揺させていたのだ。


人が死ぬ所を見たのも、初めてである。


「なぁ、パウロ。」


「なんです?」


丘の上で馬に草を食ませて、俺たちは地面に腰を下ろし、のんびりと村を眺めていた。


「ナヴァレは、何が言いたかったんだろうな。」


「さぁ、俺には難しい事はわかりません。」


「嘘つけ。」


「本当ですよ。そりゃぁ、ちょっとばかし子供の頃に学問はやりましたが。読み書きを覚えた程度で、フィリップ殿やキートスの真似は、俺にはできません。」


「ナヴァレが言ってた事は、そういう事じゃないだろ。」


「あぁ。夢、でしたか。」


そう。ナヴァレは、夢、と言う言葉を使って、俺に何かを伝えたかったのだ。


「冒険者だった頃は、夢を語るやつはうんざりするほどいましたね。遺跡を見つけて大金持ちになるとか、どっかの貴族に拾われて召し抱えられたいとか、死ぬまでこの世の全てを見て周りたいとか、色々いました。」


「欲の塊だな。」


「そんなもんですよ。傭兵ほどじゃありませんが、冒険者だって死ぬやつは多い。俺も、仲間達とよくそんな話しをしました。」


「お前の夢は、なんだったんだ?」


「俺はもう叶えましたよ。美人の嫁に、賢い息子。俺は定職について、家族を養いながら老いて死ぬ。それが出来れば、最高ですね。」


「平凡だな。夢なのか、それは。」


そう言うと、パウロは軽く笑った。


「俺は、そこそこ強い。多分、一対一なら、マンシュタイン殿やポレスやラドマンぐらい片手でひねれると思います。百回やって、百回俺が勝つ自信があります。ですが、それだけなんですよ。俺は。」


「大したもんじゃないか。」


「そうかも知れません。ですが、俺にはマンシュタイン殿はおろか、息子の二人程度でも、兵隊の指揮なんてできません。キートスみたいに書類相手の仕事もできないし、ハリーのような細かい仕事も苦手です。フィリップ殿のような色んな所を見ている目も持ってない。」


それに、とパウロは言う。


「俺より強いやつなんて、この世界を探せば、きっと、たくさんいますよ。」


言ったパウロの顔は、どこか寂しげだった。


「俺は平凡な夢でも、家族が欲しかった。一人で死ぬより、誰かに看取られたい。気がついたら、そう思ってたんです。やってみると、案外苦労しましたけどね。」


あぁ、そうか。

きっと、冒険者の頃のパウロは、今の俺だ。

理由はないけど、仕事があるからそれを片付けて金を稼いで飯を食って仕事をする。

単調な日常の繰り返しだ。


「家族に看取られたい、か。家族より、先には死ねないな。」


「そりゃぁ、勿論です。いざとなったら、俺は逃げますよ。」


「酷いヤツだ。マンシュタインが聞いたら、どうなるだろうな。」


「延々と説教でしょうね。俺が侯爵家に来た時はよく言われたもんですよ。アルマンド様より、先に死ね、と。」


「逃げるんだろう?」


「アルマンド様を連れて、ね。護衛の俺だけ生き残っても、他のやつらに殺されますよ。あぁ見えて、フィリップ殿やキートスも、そこそこ剣が使えますし。」


「そんな状況はごめんだな。生き残ったら、俺が説教されそうだ。」


「されるでしょうね。フィリップ殿とマンシュタイン殿が並んで説教すると思います。」


「その時は、俺を連れて逃げてくれよ。」


「さて、逃げきれるかなぁ。」


二人で、同時に笑った。

風が、心地良い。


久しぶりに、のんびりした気がする。

日の光は暑いぐらいだったが、たまには悪くない。


俺達は、日が傾くまで丘の上で話していた。


夢の話は、それからは互いにしなかった。

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