表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
~第一章~ 開拓の始まり
34/164

開拓会議その1

ナヴァレの亡骸は、丘の麓に埋めた。

墓らしい墓はない。

必要ない、とナヴァレが言っていたからだ。


「惜しい男を。」


馬を進めながら、フィリップが呟いた。

正直、惜しいと俺は思わなかった。

喪失感はあるが、悲しくもない。

いつ死んでもおかしくない、と覚悟していたからかも知れない。


「まだ、お前達がいる。それで、俺は良しとするよ。」


俺が言うと、フィリップは困ったような笑みを浮かべた。


「それより、フィリップ。マンシュタイだ。老けたなぁ。あいつ。」


村に入ったあたりで、マンシュタインが駆けて来るのが見えた。

村は敷地だけは広い。

建物もまばらな現状では、遠くまでよく見える。


「アルマンド様。」


「久しいな、マンシュタイン。遅くなって、すまない。」


マンシュタインが、膝をついて拝礼する。

白髪がちょっと増えた気がする。

色々と、苦労したのだろう。

これからも、してもらうのだが。


「まぁ、健康そうで何よりだ。雨風を凌げる所に案内してくれるか。今後の事を、詰めておきたい。」


言うと、マンシュタインは、彼が普段使っている家に案内してくれた。

その一室で、さっそくの会議だ。

今回、俺達がこの村に滞在するのは三日だけだ。

時間が惜しい。

と言うのも、帰りに山脈に住まうドワーフと会う事になっているのだ。

まったく、忙しくて仕方ない。


「まずは、そちらの現状から、頼む。」


地図が何枚も載せらている円卓の側に立ち、俺が会議の開始を促すと、マンシュタインが話し初めた。


まず、村の事だ。

現在、家屋は七十軒ほど。

長屋のような建物ばかりで、傭兵や奴隷達がほとんど寝る為だけに利用している。

現在は物資貯蔵用の倉庫の建設が最優先されていて、住居の改善はしばらく後になる。

地面の上でも平気で寝るような連中なので、今のところ感情的な問題にはなっていない。

現在、自前で調達できている物資は水と薪だけで、ほとんど王国側からの輸送に依存しているが、エリーゼの出産が終われば、大半の者は別の土地に移る事になる。


「今後の事を考えますと、一千は残していきたいと考えております。」


この村は、いずれ俺の領地の玄関になる。

既に各ギルドには、支部の設立を要請していて、開拓の進み具合にもよるが、五年後の設立を目指している。

他にも、物資の中継地と言う役割も担う事が予想される。

農業都市を目指すより、商業を伸ばした方が、ここは発展しやすいだろう。

だが、その分、食い物を作らない人間が増える事になる。

穀物は他の土地から持って来ても良いが、野菜や果物は出来るだけ近い場所で作った方が良い。

他に、家畜もかなりの数が必要になる。

鶏よりも、狭い場所で多く飼育でき、肉の量が多い豚、副産物のある羊なんかが有力候補だろう。

商業都市でも、ある程度の生産力を持たせた方が良いのは当たり前だが、意識しないと忘れがちになる。


それらを見据えて、一千。

開墾奴隷八百に、護衛の傭兵二百、と言ったところか。

この村の最終的な目標人口は五千ほどだ。

その他に、領地に入って来たり出ていったりする者が常時二万。


「そうなると、今の畑じゃ足りんな。質より量だ。傭兵を投入してでも、畑を開くべき、かな。」


「食べ物はそれでなんとか目処が立つでしょうが、他の物資は大丈夫なのですか?」


言ったのはサルムートだ。


「当面はなんとかなる。が、畑を拓くのにこの辺りにあった林を切り拓いたのでな。薪が足りなくなると思う。」


答えるのはマンシュタインの仕事だ。

今はこちらから送っているが、この村は商業都市として、外から多くの物資を交易で調達する事になる。

だが、交易で薪を扱う訳には行かない。

重いし嵩張る上に単価が低い。

必需品だが、金にならないモノは自給できるに越した事はない。


「このあたりに森がありますね。この村から、二日といった所ですか。この辺りに小さな集落を幾つか作れませんか。やり過ぎなければ、薪は供給し続けられる筈です。」


サルムートが卓上の地図の一点を指す。

確かに、この村から南にいった所に広大な森がある。

小山のような地形で、湧水もあるようだ。

池と沼地が多い。


「なんとも言えん。あらかた魔物は狩り終えたとは言え、次にいつ湧いてくるのがわからんのが魔物と言うやつだ。」


「マンシュタイン殿、それなら百名ほどの警邏隊を組織できませんか。詰所を建てて拠点にし、周辺の魔物を定期的に狩れば、ある程度安全を確保できる筈です。」


今度はダルトンだ。

元上司にもはっきり意見を言うあたり、相当キートスに鍛えられたようだな。

まぁ、当家の営業部長みたいなもんなので、怖いもの知らずなとこもあるんだが。


「今すぐは厳しいな。やってやれん事はないが、いつまでも、と言うのは無理だ。」


「それは、傭兵ギルドと冒険者ギルドに賭けましょう。」


ダルトンは言って、マンシュタインと二人で苦笑した。


「マンシュタイン、他に懸念事項は?」


「現状では、あると言えばありますが、こちらでなんとかできる範囲です。ただ自分で言っておいてなんですが、今後、土地を拓いていくのに、一千を今の人員から割くのは少々厳しいかと。王国から、人を集められませんか?」


「それは私がやっている。開墾奴隷五千、傭兵五百。増やせるのは、これが限界だな。後は、移民を待つしかない。」


「フィリップ、お前の苦労がわかんでもないが、奴隷一万、傭兵三千は欲しい。なんとかならんか。」


「無理だ。数だけならなんとでもなるが、侯爵家の領民となっても問題のない者、アルマンド様の騎士として使えそうなのは、それぐらいが限界だ。」


あぁそうだった。

公爵と侯爵は、私兵を騎士団として組織する事を特権で認められている。

今うちで雇っている傭兵は、将来的に選りすぐって当家に仕える騎士として登用する予定である。

無論、団長はマンシュタインになる予定である。

ちなみに、王国には士爵と言う爵位はない。

騎士とは役職でしかないのだ。


「マンシュタイン、諦めろ。元々、お前は従士長だろう。後数ヶ月で、キートス達もこちらに来る。なんとかしてくれるさ。」


俺が言うと、なんと言うか、みんな微妙な顔をした。


原因はわかっている。


キートスを待っているデスマーチに、みんなは同情したんだろう。


仕方ないじゃないか。


それがキートスのポジションなんだもの。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ