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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
~第一章~ 開拓の始まり
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侯爵家の対竜戦術。

王国の街は、大抵城壁で囲まれている。

城郭と言うやつだ。

元々、カイスト王国が建国されるまで、王国領は小国が乱立していた地域で、所謂乱世と言う時代が長く続いたからだ。

新たに建設された街にはそうでない所もあるが、王都は立派な城郭である。


その立派な城郭の門を潜ると、見渡す限りの麦畑。

季節は夏。

収穫間近の麦畑は、黄金色の海を思わせる。

所々に風車が建っており、俺は今更ながら異世界に生きている事を実感した。


なんせ生まれてこの方、畑なんて見るのは初めてである。

そして、風景にこれほど心を動かされるのも、初めてだった。


「建国以来、1300年。一度たりとて他国の侵攻を許さなかった成果ですな。」


フィリップが馬を寄せてきて言った。

俺が、この景色に目を奪われているのに、気づいたのだろう。

フィリップが言いたい事は、わかる。

だが、俺は同じ事を心の底から、言う事はできない。


「収穫が終わった頃か。帰ってくるのは」


「それぐらいは、かかりましょう。なに、エリーゼ様のご出産には間に合います。」


旅の行程は一月ほどの予定である。

供には、フィリップ、パウロ、サルムート、ダルトン、ラドマンと、従士が五十名、使用人が十名。

俺と家臣達は馬で、ナヴァレを乗せた12頭立ての振動軽減の魔法処理がされた馬車、八頭立ての馬車が三台。うち一台に使用人達が乗り、残りの二台は金貨や旅に必要な物資が積んである。

他にも、渓谷の入口で、ラドマンの飛竜討伐隊三千が野営して俺達を待っている。

ラドマン曰く、これぐらいの規模ならかなり安全に渓谷を通過できるとの事。


こういう時は、盗賊やら魔物やらに襲われたりするのが鉄板、いや最早常識と言っても過言ではない、と俺は割と緊張していたのだが、特に何もなかった。


野宿は三回だけ。

それも天幕を張って、地面に板を引いた上に分厚い絨毯、屋敷のものには及ばないとは言え、簡易ベッドまであったので、野宿と言う気がしない。

食事も、パウロがなんやかんやと獲って来るし、使用人達も張り切って俺に美味い飯を食わしてくれた。


後は、街に寄ってスウィートルームにお泊まりである。

これが貴族と言うものだ。

なんかちょっと残念な気がしなくもないが、初めての遠出だし、こんぐらいで丁度良いのかも知れない。


ナヴァレは、まだ生きている。

だが、何も食べない日があって、少しずつそんな日が増えている気がする。

そんな時、彼は水を少し飲むだけだ。


さて、そんなこんなで、十日ほどかけて俺達は渓谷の入り口にやってきた。

三千の兵士達がこっちに向かって一斉に駆けて来た時にはビビった。

どうやらただのお迎えだったらしい。

やっぱ映画とは迫力が違う。


「父上自慢の精鋭達です。そこらの騎士程度なら、軽く蹴散らす連中ですよ。」


ラドマンが、ニヤリと笑っていった。

死線を何度もくぐり抜けた男だ。

笑みにも凄みがある。


正直、ちょっと引いた。


まぁ、なんせよ、心強い事には変わりない。



そして、渓谷に入って二日目。


ヤツは来た。


高い尾を引く鳴き声に、なんだろうと思って空を見ると、遥か上空に三つの影があった。


「来るぞ。クロスボウ照準を合わせろ。魔法使いは、気流操作の準備。」


思ったより静かな、しかしよく通る声で、ラドマンが下知を飛ばす。

兵士達も、黙々と、しかしテキパキと迎撃準備を整えている。


なんか、指揮官は大声張り上げて指示を飛ばし、兵士達はえーんやこらみたいなのを想像してたんだがな。

現実にはロマンがない。


ちなみに、この部隊のクロスボウは、攻城クロスボウ、所謂バリスタを更に大型化し、縦方向のみだが照準を合わせられるよう改良したモノである。

当然、据え置きの兵器なので、ある程度分解して持ち運びする。

矢は、最早槍と呼べる代物である。


この対竜クロスボウは、高さしか照準を合わせる事ができないので、風の魔法使いが気流を操って飛竜を誘導する訳だ。


それを突破されたら、今度は槍で対抗する。

こちらも、殆ど丸太、と言うか丸太に馬鹿でかい穂先をつけた大型の槍である。

これを四人がかりで支えて密集隊形をとり、突っ込んでくる飛竜に対抗する。

魔法使いは、とにかく魔法を叩き込む。


これがうちの飛竜に対する基本的な対抗手段である。


全部突破されたら?


何人か犠牲になってはじめからやり直し。

もしくは、地上に降り立った飛竜相手に白兵戦である。


一直線にこちらを目指して急降下してくる飛竜達。

高い鳴き声が否が応でも、恐怖心を煽る。


「まだ若い。もらったな。」


ラドマンが、俺の横で呟いた。

見ると、また口元がニヤリと笑っている。

こいつ、もしかしてバトルジャンキーなのか。


俺が飛竜に目を戻すと同時に、やれ、とラドマンが呟くように言った。


あ、飛竜が串刺しになった。


対竜クロスボウの矢が吸い込まれるように、竜の身体に突き刺っていく。

三頭にそれぞれ八本から十本。

絶命して墜落する飛竜達。


なんか、あっけない。


「飛竜だけでなく、矢の方も誘導できるまでに魔法使いの技術が上がりましたから、こんなものですよ。」


ラドマンは笑って言うと、進軍準備の下知を飛ばした。


それから二度、飛竜の襲撃を受けたが、どうってことはなかった。

一度、飛竜と白兵戦になったが、全方位からの魔法と投槍、最後はラドマンが馬を飛ばして大薙刀で斬りかかり、飛竜の首を飛ばした。

全身に飛竜の血を浴びたラドマンは、やはり笑っていた。



結局、犠牲は出なかった。

白兵戦の時に、六名ほどが軽傷を負った程度だ。


俺達は、三日で渓谷を抜けた。

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