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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
~第一章~ 開拓の始まり
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ナヴァレの未練。

彼の息子達は、対談の翌日にうちにやってきて、ダルトンの下で働く事になった。

初日から、優秀と言って良い能力を発揮しているそうだ。

ナヴァレのお眼鏡に叶わなかっただけで、それなりに優秀な人材ではあるらしい。


一方、ナヴァレは魔力が枯渇して倒れるまで、ニュートン商会の解体と資産の分配に務めた。

資産の分配については揉めに揉めたようだが、最終的にナヴァレは思うとおりにやり通したようだ。

人情も何もなく、これからの成長の為に必要な資産を振り分け、息子達には一切の分配をしなかった。



「調子はどうだ。ナヴァレ。」


それらの仕事をやりきった後、ナヴァレは倒れた。

俺は、毎日見舞う事にしている。

この男の最期を見届けたいと、何故か思ったのだ。

魔法医曰く、もういつ死んでもおかしくなく、むしろ今生きているのが不思議な程らしい。


「良くも悪くもありませんな。」


渇いた唇を動かして、ナヴァレが応える。

弱々しい声だ。

いつも笑う事のなかった茶色の瞳だけが、気力を失っていない。


「中々くたばらないから、魔法医が驚いていたよ。」


言うと、ナヴァレは薄く笑った。


「この世に未練がなさ過ぎましてな。お迎えも、戸惑っているのでしょう。」


「俺は、お前が死んだら一度領地に行こうと思っている。きっと、お前が未練を残しそうなもんが、たくさんあるぞ。」


「ほう。」


「俺はな、ナヴァレ。こう見えて古代遺跡に詳しいんだ。多分、いくつか大きな遺跡を掘り当てられると思うよ。」


「大きな、商売になりそうですな。」


「あぁ、きっとそうなる。それに、うちの領地にら幾つか有力な鉱脈もある。流石にミスリルの鉱脈はなさそうだが。」


「それは、結構。」


「まったくだ。順調に行けば、俺の領地は王国でも一番豊かな土地になる。俺の一生使っても、開拓しきれるかわからないが。」


「夢、ですな。」


そんな、綺麗なもんじゃない。

俺には、それしかする事がないのだ。

このまま王都に居続けたところで、親父の二の舞になるのは、わかりきっている。


「お前には、夢はないのか。」


「どうでしょうな。そんな事を、若い頃に考えた気もしますが。」


「おい、こんな時まではぐらかすな。」


言うと、ナヴァレは苦笑した。


「本当に、わからないのです。若い頃に思い描いた事を実現した筈なのに、実現してしまうと、急に色褪せてしまいましてな。本当にこんなモノが欲しかったのかと、自問する日々でした。」


そう言ったナヴァレの顔は、くたびれた老人の顔だった。

覇気の欠片もない。

目だけが、意思の力を失っていなかった。


俺たちは、しばらく無言で過ごした。


「たった今一つだけ、未練ができました。」


「なんだ。言ってみろ。」


「私も、貴方の領地を見てみたい。ただ一つの集落があるだけの、広大過ぎる貴方の領地を。」


それは、無理だろう。


多分、そこまでナヴァレはもたない。

だが、断れなかった。

こいつはいつも、断りにくい要求をしてくる。

死にかけの老人に頼まれて、突っぱねられるほど、俺は冷徹にはなれない。


俺は、頷きナヴァレの部屋を出て、フィリップに旅の支度を命じた。


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