宴が始まりました。
俺はフィリップのもとに、シュナの手の者を走らせた。
フィリップは、俺の親父代りみたいなもんだ。
エリーゼの妊娠を、誰よりもまずフィリップに知らせたかったのだ。
フィリップは、シュナの手の者を走らせてから四日で屋敷に戻ってきた。
王都の近くにいた訳でもないだろうに、随分と早い。
八頭立ての馬車から降りてきたフィリップを、エリーゼと共に出迎えたが、任務に就く前より、はっきりわかるほどに老けていた。
満面の笑みだが、笑うと皺が際立つ。
その顔に、胸を衝かれるものがあった。
しかし、家中の皆が、どこかで無理をしている現状、仕方ないと思い直す。
「アルマンド様、おめでとうございます。知らせを受けとった時は、心臓がはち切れるかと思いましたよ。」
そりゃ、な。
フィリップにしてみれば、孫みたいなもんだろうし。
「実は、まだ他の家臣達には知らせてないんだ。皆を集めてくれるか?」
言うと、フィリップは笑顔のまま頷き、みんなを呼びに行った。
「なぁ、エリーゼ。」
屋敷に入っていくフィリップの背中を見送りながら、エリーゼの手をとった。
フィリップの背中は、老いた男のそれだ。
「なぁに?」
「君と結婚して良かったよ。」
「あら、どうしたの。急にそんな事言っちゃって。」
わからない。
フィリップの背中を見て、ふと思ったのだ。
俺は答えず、屋敷に入っていった。
家臣達に、エリーゼの妊娠を知らせると、宴会の準備が始まった。
そういえば、ここのところ忙しかったからか、こういう事は一切やってない。
と言うか、考えもしなかった。
息抜きもたまには必要だな、と生き生きとし始めた使用人や家臣達を見て思う。
特にパウロのはしゃぎ様は子供のようで、護衛達を連れて、近くの森に入り、猪と鳥っぽい魔物を仕留めて帰ってきた。
今は庭で護衛達と解体中である。
いつも執務室に篭っているキートスも、今日は仕事を切り上げて宴会の準備を手伝っている。
買い出ししかできないんだけどな。
ハリーは宴会の準備を差配している。
彼の指示に従って、使用人達がテーブルだの皿だの飾り付けだのをテキパキ用意していく。
フィリップは自室で休んでいた。
やはり、結構無理して帰ってきたようだ。
歳を考えてから無茶はしてほしいもんだ。
シュナも珍しく姿を見せている。
相変わらずの特徴がない顔に、いるんだかいないんだかわかんない存在感だが。
「ねぇ。アル。」
そんな家臣達を見て回りながら、エリーゼが話しかけてきた。
「なんだい?」
「あなたと結婚して良かった。」
それは、さっき俺が言ったよ。
ん、いや、違うな。
エリーゼはお喋りだが、無駄な事は言わない。
これは、サインだ。
「俺もだよ。愛してるよ。エリーゼ。」
ちょっと臭かったか。
まぁいいや。
エリーゼは喜んでるみたいだし。
さて、パウロが獲ってきた肉の解体が終わり、宴会が始まった。
最初の乾杯から、ドンチャン騒ぎである。
当家の宴会部長であるパウロが何故かスピーチし始め、みんなはそれを無視しながらお喋りし、ハリーがキレたパウロにブランデーの瓶を口に突っ込まれ、それを笑ったキートスはワインの瓶を突っ込まれていた。
どうやら、パウロは一足先に、肉の解体をしながら飲んでたらしい。
どうりで臓物系がない筈だ。あいつら、生レバー独り占めしやがったな。
俺の好物なのに。
後で折檻してやらねばなるまい。
「すまん、遅れた。」
と、オーガスタ神のご来訪だ。
シュナが気を利かせて呼んだらしい。
「ご無沙汰しております。ラフィット卿。」
俺が挨拶すると、オーガスタは顔を顰めた。
「やめてくれ。そんな他人行儀な。甥と叔父の仲だろう。爵位は追い抜かれたがね。」
やはり神の心は海より広い。
俺には真似しようにもできない境地にいらっしゃる。
「ともあれ、おめでとう。アルマンド。それに、エリーゼ。元気な子を産んでくれよ。」
そう言って神は、挨拶もそこそこに宴会会場に飛び込んでいった。
なんだかんだで、神は庶民派で祭り好きである。
貴族としては珍しく、商業で発展したラフィット家の家風でもあるらしい。
まぁしかしなんだ。
他所んちの家臣と飲み比べする子爵ってどうなんだろ。
まぁ良いんだけどね。
臨場感と起伏がない、との感想を頂きましたので、ちょっとだけ意識してみました。
いかがでしょうか?個人的には50点ぐらいかな、と思ってます。
ポロポロと書かなきゃいけない事が抜けてたりしますが、作者の実力不足です。
いずれ加筆します。すいません。