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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
~第一章~ 開拓の始まり
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エンリッヒ家の現状

マンシュタインが旅立った。


他の面子は、端から見ててもちょっと驚くぐらい、よく働いている。

特にキートスは、執務室で倒れてはベッドに運ばれ、ハリーの治療魔法で治されて執務室に戻る、と言う事を繰り返していた。


こいつ、マジで死ぬんじゃないか。


と、流石に心配になった俺は、キートスに休暇を取るよう諭したのだが


「ひと段落するまで、休めるものですか。マンシュタイン殿を始めとした方々に、物資や資金の不足などあってはいけませんから」


と、ゲッソリした顔で微笑まれた。

うん。だいぶ重症だな。


実際、キートスはうちの心臓と言って良い。

手足はフィリップ、剣はマンシュタイン、盾がパウロ、ハリーは衣服といったところか。

心臓が止まれば、戦う前にどうにもならなくなる事は想像に難くない。


とは言え、それとこれとは話しは別である。

俺は護衛の一人に命じて、キートスを気絶させ、彼の寝室に放り込んだ。

うん、俺は間違ってない。


そして、マンシュタインの三男を呼び出した。


マンシュタインには子供が四人いる。


長男、ポレス。21歳。

先遣部隊の上級将校として遠征中。


次男、ラドマン。19歳。

屋敷に居残り。まだまだ雇い続けている従士やら傭兵やらの訓練を担当している。


三男、ファーブル。18歳。

兄達と違って、軍才はなく、軍の事務官として主に遠征用の食糧の調達に当たっている。


長女、アイラ。16歳。

エリーゼに子供が産まれたら、俺の妾になる事になっている。

俺は断ったんだが、フィリップに強く薦められ、マンシュタインにも是非にと嘆願され、エリーゼまで貴族に妾は必要!みたいな事を言ってきたので渋々了承した。

俺はエリーゼにベタ惚れのメロメロメロンちゃんなので、ちゃんと妾として扱えるか不安なのだが。


ともあれ、俺はファーブルにキートスが回復するまでの間、彼に代わりを務めさせる事にした。

ファーブルは青褪めていたが、まぁ若いんだし多少の激務でも大丈夫だろう。

フィリップが必死に人員の確保に務めているので、この慢性的な人員不足もすぐに解消される筈だ。


俺は相変わらずエリーゼとピンク色の生活を続けさせてもらってる。

うちの家臣達は実に優秀である。


いや、怠けているように聞こえるだろうが、俺だってちゃんと仕事してるよ?


あがってくる書類を決裁し、収支報告書に目を通し、家臣達の仕事を視察、来客の応対も俺の仕事だ。


キートスの仕事量が異常な事になってるだけで、皆少しは余裕を残しているのだ。

他人を手伝える程ではないが。



さて、そんなこんなで、また一月が過ぎた。

体感としてはアッと言う間である。

人員不足は相変わらずだが、少しずつ改善されつつある。

従士を核にした傭兵との混合部隊その二は、実戦訓練としてラフィット家の領地で魔物を狩りまくっている。

率いているのは、マンシュタインの副官であるゲーリング・レイソンである。

確か30ちょいぐらいの年齢だった筈。

この部隊は、第二先遣部隊として、渓谷ルートの安全確保の為、飛竜を狩って狩って狩りまくる予定である。

最近家中に人が増えては、あちこちに配属されているので、中々家臣の詳細までは覚えられない。

顔と名前だけは、絶対に覚えるようにしているんだが。


キートスは二週間ほど休暇を取らされた後、現場に復帰した。

優先的に人員を回したので、かなり負担は軽減された筈だ。

最近、ちょっとずつこけた頬が元に戻り始めている。


フィリップは、精力的に王国各地でスカウトと物資の買い付けを繰り返している。

あちこち移動するついでに、商売までやっているようで、バカにならない額の金貨を稼ぎ出していた。

この二月ほど、人は送り込んでは来るが、顔を合わせてない。

元気な爺さんだが、ちょっと心配ではある。


パウロはたまに帰ってくる。

主に送られてくる人や物資の護衛、という名目で家族に会いに帰ってきてるようだ。

確か、四ヶ月になる赤ん坊がいるのだ。

男の子で、エルウィンと言う名前だったと思う。

会った事もないし、曖昧だが。


ハリーは、減る一方のエンリッヒ家の白金貨にイライラしながらも、屋敷の運営をキチンと行っていた。

最近、使用人にはケチだとか言われているようだが、財布を任せてるんだし、そんぐらいで丁度良い。

ちなみに、その噂を拾ってきたのはエリーゼである。


うちで相変わらずなのはエリーゼだけだ。

いつもお喋りで、非常に表情豊かである、

ちょっとした事でも、少々大げさに、楽しい、面白いと表現したがる。

どこにでも、好きな時に顔を出しては「お疲れ様。」と一言残して去っていく。

たまに、自作のお菓子なんかも置いて行ったりするそうな。


そして、今日あった事を、一日の終わりに俺に話すのだ。

彼女は俺の活力の源だ。

口にした事はないが。



更に一月後、ゲーリングに率いられた第二先遣部隊二千が出発した。

従士五十名、傭兵千八百、開墾奴隷二百である。

マンシュタインから便りはない。

おそらく、渓谷を抜けるだけで精一杯だったのだろう。

キートスの試算では、抜けるだけであればそれほど損害を出さずに行ける筈なのだが、戻ってくる余裕はない、と見た方が良いだろう。

全滅してなければ、だが。



さて、そんなある日、商人が屋敷を訪ねてきた。

ナヴァレ・ニュートンと言う初老のおっさんで、王国有数の大商会、ニュートン商会の会長である。


「お初にお目にかかります。フィリップ様には御懇意にさせて頂いております、ナヴァレ・ニュートンと申します。」


商人らしく、腰は低いし笑顔は絶やさないが、目が笑ってない。

応接間で互いに軽い自己紹介をした後、ナヴァレはあれこれ話し始めた。

この二月ほどで、フィリップを介した取引額が白金貨十万枚を越えた事の御礼から始まり、今後も末長いお付き合いをしたい事をフィリップの推薦状を添えて申し出てきた。

また、ニュートン商会には幾つか傘下の商会があり、扱っていない商品はよほど特殊なものでなければない事、末長くお付き合いしてくれるなら、多少の値引きしてくれる事等、要は御用商会にしてくれ、とアピールしに来たわけだ。


これは非常に魅力的である。

なんせ、今はキートスやフィリップとその部下達が売買の現場から事務まで全て行っている。

それを全部商会に丸投げできるのだ。

フィリップの推薦状もあるので、それなりに信頼できる。

まぁ、いくらでかい商会でも、侯爵家に喧嘩売るような事はしないだろう。


だが、俺はなんか引っかかる。

前世では、俺は営業マンだった。

営業のセオリーは、こちらに有利になるような事を、相手に喋らせる事だ。

ニーズに合わせるにせよ、創り出すにせよ、これは変わらない。

まぁやり方は変わるんだが。


モノはなんでも良いのだが、例として売りたいモノが最新のパソコンだとしよう。

まず、相手に喋らせるべきは、相手の予算でもなく、欲しい機能でもない。

また、相手がパソコンを使えるかどうかすら問題ではない。

買うとしたら古いタイプより、新しいタイプのパソコンが良い、と言わせる事である。

当たり前、と思われるかも知れないが、普通に商品の紹介から始めても、まず予算やらなんやらで断られる。

だが、古いものより新しい方が良い、と言わせれば、その新しいモノを私は持ってますよ、となる訳だ。

買うかどうかは別として、話しは聞いてもらえる。


まぁ、そんな感じで相手のニーズを引き出す、もしくは創り出す。

その後も話すべき内容は根本の所で変わらない。

相手の気持ちは、一番大事ではない。

モノを売る以上、相手に買わせる以上に大事な事はないのだ。


その点、このおっさんは自分が話したい事をただ並べているだけだ。

確かに、でかい商会ではあるし、品揃えも豊富、価格もそこそこではある。

だが、違和感がある。


なんだろなーコレ。と俺が考えていると


「アルマンド様、何かお気に召さない事でも?」


と、ドヤ顏で言ってきた。


あぁ、わかった。

こいつ俺をナメてるんだ。

アルマンドと名前で呼んで来たので、気がついた。

普通、貴族に対しては家名に卿を付けて呼ぶ。

初対面の時、エリーゼがそう呼んだように。

貴族の礼儀なんか知ったこっちゃないという訳だ。

王国有数の大商会の会長が、である。


まぁ、ナメられるのは仕方ない。

これまでの人生の半分以上は奴隷だったし、後ろ盾はラフィット家のみ。

だが、金だけは持っている。


商会としては、色んな意味で良い得意先だろう。


だが、このおっさんは危険だ。

おそらく、わざと俺に気づかせたんだろう。

最初から、優位に立とうとしている。

後々めんどうになるのは目に見えてるので、俺としてはお断りする事にした。


「ゆっくり考えたいので、少々時間を頂きたい。三日後にまた来てくれ。」


一応、こちらの方が社会的立場は上なのでタメ口である。

ナヴァレは、では三日後に、と言って礼儀正しく帰って行った。

キチンと貴族の礼に則って。


クソ狸め。

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