表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
~第一章~ 開拓の始まり
17/164

開拓の前にする事。

「では、アルマンド様、先に行って参ります。」


「あぁ。出来るだけ早く、俺もそっちに行けるよう頑張るよ。」


マンシュタインは、深く頭を下げてから、馬に跨って出発した。

彼は俺の領地に先遣部隊の隊長として、自給自足が可能な村落を築く事になる。

従士五十名、傭兵四百五十名、開墾奴隷五百名の計一千名が、彼の指揮下にある。

物資だけでも馬車が五十台。

ちょっとした軍隊である。



俺が侯爵になって一ヶ月。

エンリッヒ侯爵家は、急速に膨張していた。

家臣達の忙しさも半端ではなかった。


公爵家とケリをつけた後、家臣一同で会議の場を持った。

議題は、当面の目標とそれに必要なモノ、役割分担の三つだ。


まず、当面の目標だが、五年で領地の中心と呼べる都市を作り上げる事、都市の維持に必要な食糧を始めとした物資の恒久的な調達法の確立の三点に、全員一致で決まった。


次に必要なモノ、これは主に俺が原因で中々決まらなかった。

奴隷が大量に必要だとキートスが主張し、俺が反対したからだ。

俺が元奴隷と言うのもあるが、うちの家臣は基本的には貴族の生まれであり、奴隷の価値も貴族から見た価値観しか持ち合わせていない。

死ぬまで働かせても、なんら問題ないモノ。

一応、故意に奴隷を殺す又は傷つける事は、伯爵以下の貴族は禁止されている。

が、うちは侯爵家である。

人ではない奴隷の扱いなんて好き放題だ。

元日本人の価値観が残っている俺には許容できる事ではない。


もちろん、理想論でしかなく、キートスは勿論ながらフィリップにまで説得され、俺は折れた。

が、条件はつけた。

彼らが開墾した土地や、作った村落は、然るべき規模になった時、彼らを奴隷から解放した上で与えることだ。

キートスとフィリップは、猛烈に反対したが、反対の理由が経費の回収に時間がかかり過ぎる、という一点のみだったので、俺は譲らず、今度は二人が折れた。


自分がされて嫌な事は、他人にもしない。


前世のばぁちゃんの教えは絶対なのだ。

奴隷でいて一番苦しいのは希望がない事だ。

本当の絶望は、明日の事など考えさせない。

これからも、これまでもなく、奴隷である今の繰り返しだ。

あんなものは、この世からできるだけ消し去るべきだ。


他の必要なモノだが、幸いな事に公爵家からの慰謝料で資金だけは潤沢である。

また、公爵家とのごたごたの際、大きな商会とは顔合わせが済んでいる。

更に、王国の東に広がる砂漠にある部族連合、その更に東にある帝国との貿易を一手に仕切っているラフィット家が親戚である事から、買う事にも、売る事にもさほど苦労しない。

問題は生産である。

これは、ある程度領地が発展するまでどうしようもない。


その代わり、シュナが俺が教えた測量方法を用いて、俺の領地や王国からのルートを、ほぼ現代日本と同レベルの平面地図を作ってくれている。


これは平板と言う道具を使った測量方法で、必要になるのは起点となる座標と高さと方角を正確に測る方法、後は定規ぐらいか。

作るのも、前世の日本で言えば8世紀ぐらいの技術があれば可能だ。

平板の使い方は省略する。

が、俺は学生時代、発掘現場でアルバイトしていたから身につけた知識だとだけ言っておく。

座標は屋敷の庭に杭を打って、便宜上の起点とした。

高さと方角は、魔法でなんとかなった。

元冒険者のパウロがそういう魔法には詳しく、使える者をすぐに連れてきてくれたのだ。


ちなみに、この地図の製作で、五百人に迫る勢いだったシュナの部下は四十人ほどに減ってしまった。

山脈に巣食う飛竜、未開拓の土地に出る魔物に襲われたのが大半で、後は測量中の不慮の事故等である。

当分は防諜も甘くなる程の打撃で、シュナは今部下を増やす事に専念している。


このシュナの部下達の血と肉で出来た地図は、俺達には欠かせないものだ。

まず、王都から俺の領地に行くには山脈にある渓谷を抜けねばならない。

この渓谷を抜けるルートが、輸送の都合上、最も現実的なのだが、竜の巣がとにかく多い。

その数およそ十五。

巣を作るのは番いだけなので、最悪の場合、行くだけで三十頭もの飛竜と遭遇する可能性がある。


「冗談じゃない。俺は絶対ごめんですよ。アルマンド様。」


とはパウロの言だ。

冒険者時代に、飛竜狩りの依頼を受けた事があるらしいのだが、成果は散々だったそうな。

剣や槍は届かない。

普通の矢は鱗が硬過ぎて効果なし。

幸い、風の魔法使いがいたので、乱気流を起こして地上戦に持ち込み、やっとの事で倒したそうな。

それでも十八人いたパーティが七人になったと言うから、飛竜はとんでもなく厄介なのはよく理解できた。


「パウロ、それはお前が冒険者だったからだろう。」


お次はマンシュタイン。

曰く、軍や傭兵など、戦闘のプロとは違い、冒険者は基本的に採取や探索を専門にしている。

確かにパウロの武術は一流の域にあるが、こういった討伐戦では戦闘の知識と経験が豊富であり、装備などの準備をしっかりすれば、数の力でなんとかなるそうだ。


「マンシュタイン、細かい話しはキートスとやれ。領地までの道をつけるのは、お前に任せる。」


パウロが、なんか反論しようとしたので、俺はマンシュタインに丸投げした。

パウロは一応マンシュタインの部下である。

普段は仲良しなのだが、こういう場になると培った経験が違い過ぎてよく揉めるのだ。

まぁ、後で愚痴を聞いてやればなんとかなるだろう。


マンシュタインにルート確保を任せたついでに、拠点作りもやらせる事にした。


渓谷を抜ければ既に俺の領地で、平原と森が広がり、川も当然すぐ近くにある。

魔物には気をつけねばならないが、農地としての条件は悪くない。

こうして、マンシュタインは先遣部隊長に任命された。


やる事が決まれば、次は役割分担である。

まず、必要な物資や奴隷、兵力はマンシュタインとキートスにまとめさせ、調達はフィリップにやらせる。

マンシュタインは、従士やらこれから増える兵力に対竜、対魔物の戦闘訓練。

パウロは冒険者にコネがあるので、物資調達に役立つだろうとフィリップの補佐につけた。


キートスは各予算の編成、収支のまとめ、最短最善の拠点作りの計画書作製、まだまだ増やす拠点の位置的な候補を確定させるなどの作業を一手に引き受ける事になった。

育てていた右腕的存在はいるのだが、拠点となる村落に事務官がいなければ滞る事もあるだろうと、マンシュタインの下に異動となった為、最も苦しい思いをする事になるだろう。


今回の会議で一言も発言しなかったハリーは、フィリップが行っていた屋敷の使用人達のまとめ役とエンリッヒ家の財産管理を行う事になった。


こうして、俺は家臣達に全て丸投げし、時折報告を聞けばオッケーな環境を創り出した。


いや、ほら。俺、普通のおにーさんだし。

それにまだまだ新婚だし。

世継ぎも作らなきゃいけないし。

家臣達優秀だし。


良いよね?多少、楽したって。

【エンリッヒ侯爵家の領地】

王国西部、王国領土の五分の一を占める広大な領地。

他の領土とは、山脈とそこに住まう飛竜によって隔絶されている。

全体的に平原が広がっているが、北部には有望な貴金属の鉱山、北東部には鉄や錫などの鉱山、南部は東から西まで大森林が広がり、西部は海に面する。


千年以上、人の手が入っていないのは確実で、魔物が跋扈している他、森林も無作為に広がり、自然に生きる者の楽園となっている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ