復讐するよ。
ハネムーンは実に楽しく、有意義だった。
この世界の古代文化に対する認識が良くわかったし、今後の領地経営に役立ちそうだ。
なんせ、古代遺跡と言うのは、発見されればそれだけでとんでもない額の金が動く。
つまり、めちゃくちゃ儲かる未開拓のビジネスになる可能性がある。
いや、もっと高尚な意味でも有意義だったよ?
前世では、たまに博物館に行くぐらいは好きだったし。
エリーゼは、とにかくはしゃいでいた。
年齢の割には、そういう子供っぽさがある。
褒め言葉のつもりで言ったら、機嫌が悪くなった。
そういう所も、可愛らしい。
エリーゼのどこが好きか、聞かれても困るのだが、ちょっとした仕草や出来事で、俺が彼女を愛していると実感できる。
夜の相性も最高だし。
もちろん、そんな歴ヲタっぽい所にばかり行った訳ではない。
ラフィット家の領地で異国の商隊と出会ったり、エリーゼの実家には優秀な木工匠がいて木彫のペンダントを造ってもらった。
王国で有名な芸術都市にも行ってみた。
エリーゼは劇を見るのが好きだ。
特にオペラ、と言うか歌劇が最近のお気に入りで、俺も一緒に見に行った。
題目は「エンリッヒ男爵」
主人公は俺だった。
どうも、俺は貴族から奴隷、奴隷から貴族に復帰と滅多にない事を成し遂げた為、国中に噂されてたそうな。
今は流石に落ち着いたようだが、その時に作られた「エンリッヒ男爵」は脚本家が良かったらしく、そこそこヒットしているらしい。
まぁ、内容は事実とはかけ離れてたが。
さて、そんなこんなで俺達は楽しいハネムーンを終えて、王都に戻ってきた。
領地をもらえるまで後一月。
ここからは、貴族らしく、華麗に生々しい時間の始まり、と言うか総仕上げだ。
はっきり言おう。
俺は親父を殺した連中、俺を奴隷に落とした連中を許すつもりはない。
今すぐにでも全員殺してやりたいが、俺は貴族だ。
ならば、貴族らしく追い詰めてやろうと、家臣を揃えたあたりから、色々手を打っていたのだ。
まず、エンリッヒ家の家宝だが、親父を殺した公爵家は難癖つけて返還に応じようとしないらしい。
これについては、当面は放って置く。散逸さえしなければ良い。
また、王国の中央からは飛竜の巣食う山脈で隔てられた西部を俺に領地として与えて、王都から追い出そうと裏工作をしている事をシュナが調べあげており、証拠も揃っていた。
俺達は、腹を決めて西部に行くつもりだ。
だが、タダで行ってやるものか。
まず、親父を無実の罪で訴えた事への慰謝料を請求する。
以前、支払われた慰謝料は俺の十五年に対するものだ。
名誉毀損程度なら大した事はないが、貴族を、それも男爵家当主の謀殺及び御家取り潰しの画策である。
明るみに出れば、公爵家当主の首一つだけでなく、この国に十六ある公爵家が十五になる事もあり得る。
いかなる理由があろうと、貴族の人事権は国王陛下の専権事項であり、それを侵すのは反逆に等しい。
持っていき方によっては、反逆罪に問える程の事を、奴らはやったのだ。そ証拠は既にラフィット家が集めていた。
ちなみに、請求する額は最低でも白金貨一千万枚。
公爵家の総資産のおよそ五分の四である。
既に裏では支払わせる事は決定しており、差し押さえの準備が始まっている。
なんせ、国王陛下に直接許可を頂いたのだ。
これは間違いなく実行される。
交渉に当たったのは、フィリップである。
更にもう一度言うが、俺は親父を殺した連中を許すつもりはない。
処刑を許した国王陛下も、それは同じだ。
フィリップは、俺の意思を陛下に伝えると共に、公爵家の裏工作を俺達が把握している事を暴露した。
そして、公爵家の慰謝料で西部の開拓を成功させると確約したのだ。
西部の開拓は、王国の税収大幅アップとイコールである。
つまり、王家の収入増と直結している。
陛下は、この話しに乗った。
俺達の悪企みはこれだけではない。
オーガスタ神を通じて、王国中の商会に圧力をかけた。
エンリッヒ家の家宝を無断で買い取る事、破綻寸前になった公爵家との取引を禁止したのだ。
これを破った者には、何もしない。
エンリッヒ家として、だ。
今後、一切の取引に応じないと言うことだ。
逆に、これを守る限り、西部開拓に必要な資源をそれぞれの得意分野に応じて発注する事を約束した。
もちろん、口約束ではなく、契約書を交わした。
これは王国の法律違反には当たらない。
商会同士の談合は禁止されているが、貴族との談合は禁止されていないのだ。
ちなみに、公爵家の慰謝料も、過去の事例から引っ張って来たものだ。
この事例や法律に関しては、キートスが調べあげ、何度も確認したので間違いない。
さて、俺の領地授与当日、俺の西部行きが決まった。
予定になかった公爵家の推薦による、侯爵への格上げが発表され、場は騒然となる。
また、格上げを理由に、エンリッヒ男爵家は相続されたのではなく、アルマンド・エンリッヒが新たに侯爵家を興した事にされた。
飽くまで名目だけ、と思いきや、これで俺はエンリッヒ家の家宝を相続する権利がなくなり、あの家宝は公爵家のものと正式に認められる事になる。
陛下の勅命を聞いた瞬間、思わずひやりとした。
俺に侯爵位を与える事まで、シュナは掴んでいなかったのだ。
爵位を上げて、うちの家宝を合法的に手にいれ、恩も売る、と言う意図があったんだろうが、俺は正直候爵位なんかどうでも良い。
やる事は変わらんしな。
ニヤついてる薄汚い豚公爵よ。
そんなもんで、俺が喜ぶとでも思ったのか。
逆だ。
お前は、俺を怒らせたんだよ。
そこまでして、うちの家宝が欲しいか。
たかだかモノの為に、親父を殺し、その息子に阿るような真似をする。
俺は、お前みたいな人種が、一番嫌いなんだ。
続いて、公爵家に慰謝料の支払いが命じられる。
こちらも予定より多い白金貨二千万枚であった。
豚公爵が一気に青褪め、またもや場が騒然とする。
豚が喚き始めたが、陛下は話しは終わり、とさっさと退出。
貴族達は、そこでやっと誰がこのシナリオを描いたのか理解したようだ。
「奴隷風情が、公爵家に逆らってタダで済むと思うなよ。」
俺もさっさと退出したが、豚が追いかけてブヒブヒ言ってきた。
「貴方にも同じ言葉を返しましょう。父を殺した落とし前、しっかりつけて頂きますよ。公爵殿。」
俺は笑顔で言ってやった。
こういう作り笑いは得意だ。
豚は赤くなったり青くなったりしていたが、俺はさっさと屋敷に帰った。
皆と、これからの事を話し合わねばならない。
俺の貴族人生は、これからが大変なのだから。
この後、公爵家は勅命による慰謝料を払いきれず、破綻した。
金策に走ろうにも国中の商会が一切の取引に応じず、どうにもならなかったのだ。
支払いは王家が肩代わりする形になり、公爵家は全領地と財産を没収の上、当主及び公爵夫人とその子息は公爵位と公爵位に付随する全てを剥奪され、平民に落とされた。
公爵家は第三王子が前当主の養子となり、王国から旧領を下賜される形で相続した。
後で知った話しだが、第三王子に相応しいポストが現状では全て埋まっており、王家の悩みの種だったそうな。
俺達の企みは、王家にとっても渡りに船だったと言う事だ。
こうして、俺は侯爵となり、領地を得た。