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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
三章 〜心と領地〜
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閑話 ハリーの恋

本日二度目の投稿

許されざる恋だった。

アルマンドとの雑談で、久しぶりにその恋を思い出した。


エンリッヒ家中でも、フィリップ以外は誰も知らない。

そのフィリップでさえ、疑っている、と言う程度だった筈だ。


エリーゼに、主君の妻に、私は恋をしていた。


どうしようもなかった。

叶うはずもなく、誰かに話す事すら出来ない恋。

どこにも出口などあるはずも無い、迷路のような恋だった。


出奔したのも、結局は単なる我儘でしかなかったのだ。


エリーゼを救う事もできず、その死をすら看取れなかった自分。


子を産ませ、死に追いやったアルマンド。


アルマンドの為に、子を産んで死を選んだエリーゼ。


全てが、許せなかった。


戻ってきたのは、それを克服したからではない。

ただ、心に折り合いをつけたのだ。

諦めとも、違う。

ただ、そんな自分がいる、と言う事を受け入れた。


アルマンドには、忠誠と微かな嫉妬、そして憐憫の念が、入り混じっている。

シエーナではなく、エリーゼが隣にいれば、アルマンドがこうなる事は、なかった筈だ。


恋敵ではあったが、単なる横恋慕だ。


憎むような思いを、抱いた事は一度もない。

そんな思いは、フィリップがすぐに見抜いてしまう。


「おう、ハリー。どうした。」


「眠れなくて、ね。お前は、寝過ぎか?バルザック。」


気付けば、夜だ。

白く燃え尽きた焚き木を、月明かりが照らしている。

夕食を食べてから、ずっとこの場にいたらしい。


「あれだけ、ぞろぞろ騎士様がいりゃぁする事がねえからな。」


「楽で良いだろう。皆は、もう寝たのか?」


「パウロが、あの子供をぶちのめしてるよ。オーズは、新入りの教育だな。」


「そうか。」


皆、やるべき事をやっている。

感傷に浸って、我を忘れていた自分が、情けない。

私は、アルマンドの家臣として、此処に帰って来たのだ。


「オーズは好きにさせときゃ良いが、パウロのアレはちょっと見てられねえよ。」


毎夜、少年はパウロに木剣で叩きのめされている。

既に、全身痣だらけだが、急所は全く打たれていない。

骨を痛めるような打ち方もされておらず、ただ痛みだけを少年に刻んでいる。

魔法医と言えど、心の病には無力だ。

せいぜい、打ち身を癒す湿布を作ってやるぐらいか。


「放っておくしかない。あれも、治療さ。」


「わからなくもないけどよ。相手は子供だぞ?」


「パウロは、子供ではない、と言っていたけどな。多分、余程酷い眼に遭ったんだろう。」


野営の時など、焚き火には近寄りたがらない。

騎士にも、近づかない。

馬車の武器にも、決して触れない。


王国を放浪していた頃、南の国境から敵軍が侵入し、幾つかの村が焼かれた噂を聞いた。

おそらく、それに近い体験をしたか、そこに居たのだろう。


「見た目は、どう見たって子供だろ。お前、なんとかできねえか?」


「出来る出来ないではなく、しない。私の眼から見ても、あの子はほんの少しずつだが、良くなってるよ。」


食事の量が、少しだけ増えた。

痣に物が当たるのを、避けるようになった。

それだけでも、大したものだ。

そのうち、言葉も取り戻すだろう。


「お前がそう言うんなら、そうなんだろけどよ。ありゃぁやり過ぎだ。」


バルザックは、優秀な冒険者だが、中身は平凡な男だ。

ごく普通の、エンリッヒ家では得難い感性を持っている。


常識から言えば、パウロがしているのは、理不尽な折檻以外の、何物でもない。


それからもしばらく、バルザックの愚痴を聞いていた。

殆どは、聞き流して、空に広がる星を眺める。


あの何処かに、エリーゼはいるのだろうか。


見つかるはずも無いのに、探していた。

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