結婚したよ。
結果から言おう。
俺はエリーゼと結婚する事になった。
あのやりとりを、ハリーがフィリップにチクりやがった結果、家中の者の全面的な支援を受け、三月ほどデートしたり文通したりして、俺からプロポーズ。
エリーゼには自分で良いのか、と何度も聞かれたが、俺は何も言わずに彼女の手を取り、薬指に指輪をはめた。
エリーゼは泣いて喜んだ。
フィリップも泣いて喜んだ。
なんでも、エリーゼとの初対面の際、俺が笑顔を見せたと聞いた時から、この人しかいないと思ったそうな。
自分では意識していないが、俺はほとんど笑わないらしい。
ハリーが驚いてたのもそのせいで、マンシュタインに羨ましがられていた。
家臣達は、俺の表情でだいたいの事は察してくれるのだが、やはり笑ってるところを見たい、と言うのは万人共通らしい。
これからは気をつけよう。
さて、そんなこんなで結婚式である。
俺の親族代表はオーガスタ神にお願いした。
エリーゼは当然、両親である。
貴族の結婚式と言うのは、もっと友人やらなんやら呼んで盛大にやるらしいが、俺にそんなもんはいない。
出席者は両家の親族代表とその側近ぐらいで、こじんまりした教会で式をあげた。
エリーゼの両親から、田舎貴族に配慮してもらって申し訳ない、と恐縮されたが、完全にこちらの事情だ。
結婚式そのものに金がかからなかった分、その他にはフィリップが張り切った。
式の後のパーティは、世界中の珍味が並び、その日だけ屋敷の庭を身分など関係なく開放し、パーティどころかお祭り騒ぎになった。
ラトゥール家にはお土産を馬車に満載にして渡しといた。
うちの使用人達はてんやわんやしていたが、楽しそうに働いていた。
従士連中は屋敷の警護で不参加だったが、料理は後で振舞われたそうな。
キートスとハリーは、パウロに飲まされて地面に転がっていた。
マンシュタインとフィリップはベンチに腰掛け、蜂蜜酒をちびちび飲みながら話し込んでいる。
フィリップは、また泣いていた。
式の半ばから感極まったのか、涙を見せていた。
今はマンシュタインに任せて、そっとしとこう。
ちなみに、シュナとは雇った時の顔合わせ以来、会っていない。
フィリップの命令で、なんやかんやしているらしい。
まぁ、俺もちょろっとだけ絡んでるのだが、今は置いておこう。
さて、そんな感じで日が暮れて、パーティはお開き。
俺達夫婦は初夜を迎えた。
前世でそこそこ経験はあったので、余裕だろ、と思っていたが、ガッチガチに緊張した。
色んな意味で。
エリーゼはずっと恥ずかしがってはいたが、割とノリノリである。
特に問題なく、朝を迎えた。
「おはよう。アル。」
デートを重ねるうちに、エリーゼは俺をアルと呼ぶようになった。
愛称みたいなもんだろう。普通は夫婦になると旦那様と呼ぶらしいが、ずっと俺をアルと呼びたいそうだ。
「おはよう。エリーゼ。」
一つのベッドに真っ裸の二人。
あぁ、結婚したんだな、と妙に実感した瞬間である。
この後、朝食をとり、俺たちはハネムーンに出かけた。
お供は護衛六名と、従士十名、使用人九名とハリーである。
馬車は三台。
このハネムーンもフィリップが張り切った結果だ。
領地をもらうまでの間は、ハネムーン期間である。
王国の各名所を周る予定で、前世で考古学を専攻した俺は楽しみにしている。
こうして、俺は結婚した。
【正妻】
貴族家当主の第一夫人。
カイスト王国では、建国以来拡大政策を行っている為、重婚が推奨されている。
正妻は、当主嫡男の出産の他に、他の夫人を統括する事も求められる。
王国の現行法では、貴族以外の重婚は届け出及び財務院の許可が必要である。
これは徴税及び、将来の人頭税試算に必要であり、それだけの財力を有する個人を特定する為である。
尚、王国では所謂私生児の存在を認めておらず、婚姻関係にない者の子は、奴隷となる。