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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
三章 〜心と領地〜
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奴隷市

「案外、身綺麗にしてるのね。」


旅の供、五人全員を連れて、朝の奴隷市に来ていた。

檻に入れらた奴隷達を見て、シエーナが、感心している。


ソーテルヌにまでやってくるだけの、力を持った奴隷商の商品だ。

体格や健康状態には気を使っているし、何らかの技能を持っている者が多い。

ただ単純に、肉体労働をさせたいのであれば、ローヌまで行って購入した方が、移動コストを考えても安くあがる。


物扱い、と言うよりは、家畜に似ていた。

一応、服を着せられてもいるが、手枷と足枷はしている。


「一人は、お前が使うんだからな。自分で選べよ。」


いい加減、シエーナの身のまわりを世話する人間が必要だ。

男ばかりの中に、この先の旅の間、ずっと置いておく訳にもいかない。


「あんまり可愛い子を連れて行っちゃうと、アルが手出ししちゃいそうだしなぁ。」


そういう事を言うなよ。

つうか、出さねえよ。

お前、俺をなんだと思ってんだ。


「オーズ、アルファドを連れて、お前も見て来い。男でも女でも良いが、そこそこのやつにしておけよ。」


金がない訳ではないが、高い奴隷はすぐに売れる。

高い金を払った奴隷は、それなりに大事にされるので、うちで引き取る必要はあまりない。


買うなら、割とあぶれがちな価格帯の奴隷がベストだ。


「はぁ。アルマンド様と奴隷市とは、変な気分ですね。」


「オーズ、さっさと行って来い。侯爵家を名乗れば、悪いようにはされまい。」


「了解。パウロ殿。しかし、奴隷の取り置きなんて、大丈夫なんですか?」


「良いから、行って来い。」


パウロがやや苛立ったように声を荒げた。

そんな様子に苦笑する俺とアルファド。


この二人は、余り相性が良くない。

と言うより、水面下で行われている、マンシュタインとキートスの、政争の縮図だ。

軍事と内政、それぞれの頂点に立っている二人の仲は悪くないのだが、その下にいる者達は、よくいざこざを起こしている。

特に、ダルトンとグレンの仲は最悪と言って良い。


内政官だったグレンが、抜擢されて数ヶ月でこれだ。


今はまだ表面化するような事は起こってないが、家臣を束ねるフィリップには頭の痛い問題だろう。


「おや、アルマンド様ではないですか。」


声のした方を向くと、そこにいたのは五人ほど供を連れた、ソドムだ。

各ギルドや商会との折衝を任せている、謂わば外交官のような役割を任せている。


かつて、俺が没落させた豚公爵の遠い親戚だが、本人は余り気にしてないようだ。

ダルトンの元部下だが、肥った身体で豪奢な服装を好む、うちの家臣としては珍しい人間だ。


本人曰く、働いた分の倍は遊びたい、だそうで、マルガンダとソーテルヌ、ローヌに屋敷を構えている。

正妻とは別に、妾は五人。

子供はなんと二十人もいるらしい。

四十過ぎぐらいだった筈だが、まだ赤ん坊の子供もいるそうだ。


清々しいまでに、自分の欲求を隠さない辺りが、逆に気に入った。


今日の彼も、絹の服に魔物の上等な毛皮のコート、金のネックレスに、宝石が嵌った指輪までしている。


そこそこの給料を出してはいるが、彼は自分の人脈を使って金を稼いでいる。

与えた仕事に影響が出ない限りは、好きにすれば良いと、俺は思っていた。


「ソドムか。相変わらず、派手だなぁ。」


言うと、彼は肥った顔に子供のような笑顔を浮かべた。


「贅沢が好きなもので。パウロも、久しぶりだなぁ。」


ホント、相変わらずだよ。お前。

嫌味がまったくないあたり、他とは違う意味で、稀有な存在だ。


ちなみに、ソドムはパウロと仲が良い。

何故かは、知らない。

多分、知らない方が良い。

主に、パウロの嫁的な意味で。


マルガンダで休みが合うと、よく二人で何処かに出かけているのを、知っているぐらいだ。


「お前も、買いに来たのか?」


「はい。使用人が足りませんので。サンテミリオンに、別荘でも建てようと思うのですが、人が集まらない事には、どうにもなりません。」


まだ、家建てんのかよ。


「そうか。」


「アルマンド様も、買いに来られたので?」


「あぁ、旅に必要でな。ちょっと供が少な過ぎた。」


「そうですか。しかし、随分と顔色が良くなられた。いっその事、キートス殿あたりを連れて行かれてはどうです。彼の顔色も、最近は酷いもんです。」


言ったソドムの顔は、健康的な赤ら顔だ。ちょっと汗ばんですらいる。

体型は、健康的とは言い難いがな。


「あいつに、そんな暇はあるまい。」


「それが、結婚するそうですよ。アルマンド様とシエーナ様に倣って、一月でも半月でも嫁と旅行に行っても、罰は当たらんでしょう。」


え、マジで。

結婚すんの?キートス。

あのキートスが?

息をするかのように、仕事をしてないと、逆に発狂しそうなキートスが?


いつの間に、女なんか作ってたんだ。


「初耳だな。相手は誰だ?」


「使用人だそうです。フィリップ殿が紹介したとかで、私は会った事はありまんが。」


ほーん。

フィリップが、ねえ。


「あら、ソドムじゃない。どうしたの?こんなとこで。」


使用人選びに夢中だったシエーナが、こちらに気付いたらしい。

シエーナも、ソドムを嫌ってはいない。

吝嗇で、好色なデブだが、何故か敵が少ない、不思議な男だ。


「お久しぶりです。シエーナ様。活きの良い使用人を探しておりまして。サンテミリオンに、別荘を建てるのですよ。」


どうでも良いが、何気に侯爵の俺より別邸を持ってたりする。

まぁ、色んな人間と折衝する仕事柄、ないよりはあった方が便利なんだろうけどな。


こいつの良い所は、自分の贅沢の為に、公費を使ったりしない事だ。

別邸を建てるのはもちろんだが、移動の経費も、足りない分は自分で出しているし、折衝相手への贈答品に至っては、自分の利益になるから、と全て自腹を切っている。


「ふーん。好きねえ。サルムートに、また無理を言ったんでしょ。」


またって何だ。またって。


「とんでもない。庭の一部を、実験農場として提供する、と言ったら、喜んで協力してくれましたよ。ついでに、庭に植える花や木の苗も分けてもらいまして。良い所になりそうです。」


実験農場って、サルムートは何を育てるつもりなんだろうか。

あいつはあいつで、植物が絡むと何処までも突っ走りそうな所がある。


「程々にしときなさいよ。また、変な噂されるわよ。」


「言いたい連中には、言わせておけば良いのです。金貨が好きなのは、間違いありませんからな。」


言って、彼は笑った。

シエーナは、呆れたような顔をしている。


「ソドム、護衛も新しいのを入れるつもりなんだが。」


「紹介はできんよ、パウロ。傭兵崩れの奴隷が数人入っているようだが、そちらの方は余り伝手がなくてね。」


「アルマンド様の護衛だ。武術は俺が仕込むから、それほど腕が立たなくても、身元がしっかりしている者が良い。」


「そういう事なら、此処の奴隷なら安心して良い。アルフレッドが、怪しい者をローヌで弾いているからな。絶対とは言えないが、シュナ殿が一緒にいるんだろう?」


お仕事っぽい話になってきたので、俺はパウロを残してその場を離れた。

雑談なら大丈夫だが、こういう話を聞いていると、おかしな気分になる。


話そのものより、そんな自分が、少し怖い。


「ねえ、アル。あの子、どう?左から二番目。」


シエーナが指差したのは、茶髪に暗い灰色の瞳の、ごく平凡な容姿をした少女だった。

年の頃は、十代半ばぐらいか。


曖昧に返事をしながら、俺も奴隷として売られる者達を眺める。

悲壮な表情をしている者はいない。


それが、僅かな救いだった。

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