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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
三章 〜心と領地〜
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ソーテルヌの造船所

パウロ達とは途中で別れ、俺は、シエーナとバックス、シュナの一党数名を連れて、造船所に入った。

水戸黄門っぽい事をしてしまったせいか、注目を浴び過ぎていたのだ。

この造船所なら、関係者以外は立ち入り禁止である。


「すごく、おっきい。」


「そうだろう。まだまだ、此処は大きくなるぞ。」


ソーテルヌの造船所建築は、フィリップ、マンシュタイン、キートス、ダルトン、サルムート、メルヴィン、グレン、ソドムら侯爵家家臣のほとんどが関わっていて、エンリッヒ侯爵家の最優先事項と言っても過言ではない。

現在でも、三百人乗りの大型船を三艘、百人乗りの中型船を七艘、二十人乗りの小型船を十五、同時に建造できた。

更に増築する予定で、倍ほどの規模を目指している。


ソーテルヌまで来ると、ローヌ河の河幅はかなり広い。

ローヌ周辺では、水深の関係もあって、大型船は一艘、中型船なら四艘通れるぐらいの河幅しかないが、このあたりは大型船三十艘は余裕で並ぶ事ができるし、中型船なら百はいける。


陸路を行くよりも、楽で早くて大量に物資や人を運搬できる水運は、軍事や内政を問わず、早急に整備したい事柄なのだ。


「ドワーフはいないのね。」


シエーナが、不思議そうに言った。

そう。此処で働く職人に、ドワーフはいない。

彼らは山育ちだと言うのもあるが、船に乗れない。

小さな身体に反して、体重がとてつもなく重いのだ。

俺も、知ったのはつい最近の事だ。

使う事などない船を作る技術など、当然彼らは持っていなかった。


「此処は、人間の街ですから。亜人は住みにくいのでしょう。」


バックスが、ポツリと言った。

ほとんどのドワーフは、その体質のせいで、常に酔っている。

仕事をしている時以外は、感情の起伏が激し過ぎるのだ。

他にも、極端に体重が重い為、普通の木造の家には住めないし、人の店に立ち入る事も難しい。


ローフェンの駐屯地は、飽くまで例外なのだ。


地球のファンタジー文化を知っている俺としては、なんとかしたいのだが、遺伝子レベルでなんとかしなければ、どうにもならない問題だ。


工夫の余地はあると思うが、領主として、それほど優先すべき事でもない。


「うちの船は、どれなんだろうな。」


木材を切ったり、削ったり、組み合わせたり、運んだりしている職人達を眺めながら、その船を探す。


大型船は、貴族と言えど、個人で所有する事は稀だ。

大き過ぎる、と言うのもあるが、建造費も維持費も、発注すれば莫大な金がかかる。

王国には幾つか大河と言って良い河はあるものの、海に面した土地が、うちの領内にしかないせいか、建国以来あまり造船や水運に力を入れていない。

無論、水軍なんてものも、組織としては存在しない。

親衛騎士の一部が、王族の道楽で操船技術を身につけている程度だ。


元々、国として交通手段は馬を重んじる気風もあり、船を所有している貴族の方が少数派、と言うのが現状なのだ。


うちも、一応それに合わせて、個人用は中型船を建造している。

平底の帆船で、四十挺櫓の快速船だ。


「試作船からの建造になると、聞いた気がしますが。」


え、マジで。


「なんだ、まだ造ってないのか。」


「俺も、あまり詳しい事は聞いてませんがね。確か秋頃の着工だと、噂で聞いた気がします。」


そんなにかかんの?

船一艘に大袈裟な。


「帰る頃には、完成してるのね。」


シエーナの声が弾んでいる。

まぁ、乗る機会はあるだろうな。

ローヌに行く時など、馬で行くより断然早い。

昼夜問わず総櫓で、風に恵まれれば、十日ぐらいで行けるんじゃないだろうか。


「船酔いしないと良いがな。」


「何それ。船に乗ると、酔っ払うの?」


思わず、吹き出した。

シエーナは、王国北方の生まれだ。

北には、それほど大きな河はない。

船に乗る機会がないのも、仕方のない事ではある。


「そんな訳ないだろう。船の揺れが、身体に合わない者もいるんだ。そういう人は、乗ってると気分が悪くなる。酷い者は、吐いたりもするそうだぞ。」


「二日酔いみたいなの?」


「そんなもんだな。頭痛はないが。」


ふーん、とシエーナは感心したように頷いた。

なんとなく、こいつは酔わないだろうな、と思う。

意外と、イェーガーあたりがゲーゲー言いそうだ。


ちなみに、今いる家臣の中ではキートスだけが、船に弱い。

王都から、こちらに来た時に、彼は船を使ったのだが、降りる時には死にそうになってた。

通常なら致死量の仕事を投与しても、なんだかんだでやりきってしまう男の弱音を、初めて聞いた時が、その時だった。


「お待たせしました。」


パウロが、戻ってきた。

ちょっと疲れた顔をしている。

人混みってのは、やっぱり消耗するよな。


「向こうに行くのは、五日後です。明後日からの便で空いてるのは、それだけでした。」


「そうか。まぁ、仕方ないな。」


無理矢理、船を調達して渡る事も、不可能ではないが、別にそこまでする理由もない。

俺は、待てる大人なのだ。


「どうする?宿に入る?」


多分、オーズ達は宿を取れているだろう。

そこは、シエーナの為でもあるので、多少の強権を発動するのも止むを得ない。


「いや、少し街を歩きたい。大通りの東なら、それほど人はいないだろう。」


「別に良いけど、市場とか見に行かないの?」


「人混みに揉みくちゃにされるぞ。どうせなら、朝市に行こう。」


「あ、お魚とか?」


食いもんの事ばっかだな。


「それもあるが、奴隷市も朝の方が良い。明後日には、ハリーが来るだろうから、目星をつけておこう。」


護衛と、使用人を二人ずつほど増やしたい。

マルガンダの騎士や使用人ではなく、だ。


奴隷の売買は、残念ながら禁止には出来なかった。

その代わり、推奨していない商いとして、他の商いにはある特典や援助を一切受けられない。


商売の為の土地を融通する事もなければ、道中の護衛を侯爵家から出す事もない。

他の売買は、侯爵家が相手であれば非課税なのに対して、奴隷商には普通にかかる。

また、ソーテルヌとローヌにある造船所で船を発注する事も、事実上できない。

この二つの造船所は、侯爵家が運営しているので、商人の援助と言う体裁で受注しているからだ。


未だ開拓途中であるエンリッヒ侯爵領で、侯爵家の庇護なしに商売するには、他にも多くの制約がある。


それでも、ソーテルヌにまで奴隷商がやってくるのは、単純に儲かるからだ。

少しでも人手が欲しい現状、奴隷は飛ぶように売れる。


特に、ローヌからマルガンダの間にある村々で、台頭しつつある豪農や、これから支部を構える商会などに、教養のある使用人としての需要が大きい。

それなりに値は張るのだが、今後しばらくは大きな市場であり続けるだろう。


「アルマンド様が、奴隷を買うとは珍しいですね。」


「ある程度、教育したら解放するがな。オーズの、良い勉強にもなるだろう。護衛も二人ほど増やす。立ち回りはともかく、武術の方は、お前が一から教えてやれ。パウロ。」


本当は、全て買い占めたい。

それが出来ないから、数人だ。


旅が終われば、マルガンダの屋敷で雇っても良いし、故郷に帰りたいのであれば、それなりに手配する。


王国で、最も広い領地を持つ侯爵でも、出来るのはその程度の事だ。


理想は、どれだけ追っても遠のいていく。

今の俺は、立ち止まっているが、それでもいつかは、また追いかけるのだろう。


何故か、その予感はある。

不思議な予感だった。

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