婚活するよ。
屋敷に日用品やらなんやら、生活必需品が運び込まれた後、ラフィット家の屋敷もとい神の屋敷から家臣一同で引っ越した。
フィリップが部屋割りをしていくが、部屋は余りまくっている。
二百人は住めると思う。奴隷の寝床としてなら、千人は行ける筈だ。
引っ越してからは、毎日屋敷の探検に出かけた。
ハリーがぴったりついてくる。
とんでもなく広いキッチンやら、パーティが開けるホール、何重もの仕掛け扉やら鍵がついてる宝物庫など、とにかく広い。
寝室は五十まで数えてアホらしくなった。後で覚えてたらフィリップに聞こう。
地下牢もあった。扉を開けた瞬間、気分が悪くなって即退散したが。
数日は、そんな風に過ごしたのだが、飽きたのでパウロ達を連れて街をぶらついてみる。
王都だけあって、色んな建物があるし、人も多い。
ちなみに、亜人は王都には入れない。
差別とかではなく、種族の特性に王都は合ってないのだ。
例えば、エルフ。
美男美女で長寿、魔法が得意とここまではお馴染みなのだが、この世界のエルフは金属に触れる事ができない。
金属アレルギーの酷いヴァージョンである。
他の種族も、なんかそういうのを持っているので、双方合意の上で立ち入りを禁止しているわけだ。
俺は亜人を見た事がないので、いつか見てみたいのだか。
さて、俺がこんな感じにダラダラ過ごしているが、別にサボっているわけではない
俺は今病人扱いなので、休養をとっているのだ。
15年間、貯めに貯めた有給である。
この間、家臣達は自分の部下のスカウトに王都を駆けずり回っている。
俺は、する事がないから、仕方なく休んでいるのだ。
そんなこんなで二月が過ぎた。
従士が五十名ほど、使用人が三十名ほどと、家臣を合わせると百名ほどが、うちの屋敷いる訳だ。
それでも賑やかになった、という感じはしない。
そんな屋敷には最近やたらと来客がある。
俺の嫁探しが始まっていた。
俺は今年二十二歳。
貴族は15歳前後で結婚するので、急いで嫁を見つけねばならない。
身体の方もガリガリ君を脱却し、細身ぐらいにはなって、見れる姿になってきたのでフィリップが婚活を解禁したのだ。
しかし、これが難航した。
俺が、うん、と言わなかったからだ。
フィリップフィルターがかかってるだけあって、家柄、美貌共に文句無しの令嬢がわんさか来たのだが、年齢が12歳だったり、贅沢が好きそうだったり、気が強そうだったり、貧乳だったりしたからである。
俺はロリの属性はない。
奴隷にまで落ちた俺が、贅沢したがる女と合う訳がない。
女のヒスは前世で色々苦労した。二度とごめんだ。
おっぱいは正義。異論は認めない。
正直、良いな、と思う人がいなかった訳ではない。
だが、なんとなく違うような気がしたのだ。
俺のこの勘は結構当たる。
前世では、この勘を無視した時は痛い目にあったし、逆に信じた時は無難に過ごせた。
生涯連れ添うのだから、慎重に選びたい。
幸いな事に、新興エンリッヒ男爵家当主というのは、人気があるらしい。
人によってはアピールが凄い。
俺の巨乳好きが噂になってからは、とにかく寄せて上げまくってくる。
まぁ、金は持ってる上に、領地もこれからついてくる。
おまけに、頼りになるコネはラフィット家だけなのだから、今後色々と恩が売れる訳だ。
そこまで考えると、げんなりしてきた。
恋愛結婚があたり前だった前世からすれば、なんと味気ない事か。
俺は自室に引きこもった。
「アルマンド様、一度社交の場に出られては?」
珍しくフィリップが困り果てて言った。
曰く、自分の選考基準が誤っているのかも知れないとのこと。
ランダムな出会いの場に行って来い、と言う事だな。
フィリップを困らせてるのが、自分だと思うと申し訳ない気持ちになり、俺は渋々だが、出席を了承した。
折良く王宮で、第三王子のお誕生日パーティが近日開催予定である。
本当にめんどうだが、行くしかない。
これでダメだったら、もう適当に決めてしまおう。
正妻に子供を生ませさえすりゃ、気に入った妾に溺れたってそれほど強く批難はされない。
その場合、嫁が不憫ではあるが、それも貴族と言うものだ。
パーティ当日、俺はハリーとパウロを伴って王宮にでかけた。
第三王子殿下の挨拶から始まり、国王陛下もちょっとだけ喋り、そっからはお好きにどうぞ、と言う感じだ。
王子にはプレゼントを渡す事だけが、この場のルールだ。
第三王子殿下は今年で十三歳になられる。
俺より酷い婚活中なのは、パーティ開始直後から見て取れた。
揉みくちゃにされている。
ちなみに、俺のプレゼントは図鑑だ。
前世で言う百科事典みたいなもので、様々な知識が詰まっている。
百年ほど前に、とある高名な学者が集成したこの世に一冊しかない辞典であり、それなりのお値段であった。
それはそうと、俺はやはりこういう場は苦手だ。
誰も彼もが着飾って、ごちゃごちゃ喋りながら腹の探り合い。
こんなとこで何を確かめるのか知らないが、それが貴族という生き物なのだろう。
虫酸が走る。
プレゼントを渡して、俺はさっさと中庭に出た。
無駄に豪華な長椅子に腰掛け、ハリーにとってきてもらったワインをちびちび飲んで、ボーッとする。
王宮で出すだけあって、素晴らしいワインだが、あんなとこで飲むようなもんじゃないな。
そういや、この世界にはピノ・ノワールやらカベルネソーヴィニヨンとかってあるんだろうか。
いつか、領地でワイン作りするのも悪くない。
この世界にはワイン法とかないし、格付けだって曖昧だ。
案外、簡単にワイン職人を引っ張ってこれそうだな。
「お隣、よろしいですか?」
と、派手に着飾った女性に声をかけられた。
なんというか、色々気合いの入った御婦人だ。
丸顔で小さな鼻、唇に鮮やかな紅、目は二重で瞳は青、どっちかて言うと垂れ目。
美人ではないが、不細工とも言えないパーツの配置である。
ちなみに、寄せて上げてるのを差し引いても、中々ご立派なモノをお持ちである。
「ええ。どうぞ。」
「よかった。私、ああ言った場が苦手で、エンリッヒ卿がこちらにいらっしゃったのを見て追いかけてきましたの。」
それから、この女性はひたすら喋っていた。
名前はエリーゼ・ラトゥール。25歳未婚。
十一歳の時に病にかかり、二十二歳まで闘病を続けた事。
ラトゥール家は領地が田舎で、貧しくはないが豊かでもない事。
子供の頃は魔法使いになりたかった事。
両親はエリーゼの結婚は諦め、好きにやらせてもらってる事。
今回はもしかしたら、と何故か両親が言い出し、こんな格好をさせられた事。
最近、料理やお菓子作りに凝っている事。
使用人と仲良くなって、料理のコツを教えてもらっている事。
元々病弱だったのに、料理やお菓子作りを始めてすこぶる体調が良い事。
とにかく、聞きもしないのに、ひたすらしゃべり倒した。
「アルマンド様、そろそろ会場に戻りませんと。」
ハリーが耳打ちして、エリーゼも結構な時間喋り続けた事に気づいたようだ。
顔が少し赤くなる。
キッチリ化粧しているので、多分すっぴんだともっと赤いのだろう。
「ごめんなさい。私ばかりお話しして。」
俯き、上目遣いで詫びられた。
俺はほろ酔いだったのもあり、別に気にしてない。
「かまいませんよ。楽しいお話しをありがとう。」
笑顔で言ったら、エリーゼはともかくハリーまで驚いたような顔しやがった。
なんかおかしな事言ったか?
「私こそ、ありがとうございます。」
そんなやりとりをして、俺は会場に戻った。
相変わらず、気色の悪い探り合いがあちこちで行われていたが、何故か俺は上機嫌だった。