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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
三章 〜心と領地〜
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旅の夜。

その日の晩、俺とシエーナ用の天幕が張られた。

ハリーの主張により、ラターシュで購入したものだ。

一番上等なのを買ったので、天幕と言うより、軍用の幕舎に近い。

魔物除けに良い、とされている生地で、内側には革が張ってあり、丈夫そうだ。

特殊な革らしく、防音効果もあるそうだ。

地面には、毛皮が敷かれ、簡易ベッドまである。


贅沢だ、と断ろうとしたら、侯爵が贅沢をしないと他の誰が贅沢をするのか、と返された。

似たような事を、フィリップやキートスに言われた気もしたが、何故か反論できず、後はハリーの為すがまま、と言った感じに色々買い揃えのだ。


騎士団や傭兵が狩った魔物の素材などを、買取にくる商人用だろう。

意外と種類も豊富だった。


「なんか、一気に旅って感じじゃなくなったね。」


ベッドでごろごろしながら、シエーナが呟いた。

かまってちゃんオーラが、頬を打つ。

俺は、折り畳み式テーブルで、日誌を書いていた。

表題はまだない。


「貴族らしく、もないか。これでも、まだ貧相なんだろうな。侯爵としては。」


「男爵でも、もうちょっと豪勢なんじゃない?」


「そう、かな。いや、そうだな。俺の実家は、確かにもっと豪勢だったよ。マルガンダの屋敷より、なんと言うか、華があったな。」


マルガンダの屋敷は、貴族として最低限のものしかない。

そんなものより、領主として必要なモノを優先した、と言うのもあるが。


流石に、この幕舎は快適だ。

どこか罪悪感のようなものが、胸の内に燻っているが、のんびりとしているシエーナを見ると、やはり無理を強いていたと思う。


奴隷だった過去を、忘れる事はない。

それでも、引き摺るような真似は、もうしまい。

エルロンドの事もある。


「貧相、って言われないギリギリのラインだものね。服だって、そんなに良いの着てなかったのに、なんで攫われたのかなぁ。」


気楽なもの言いだ。

たまに、こちらを測るようにして、シエーナはこんな言い方をする。

多分、結婚してしばらくの間、それを不快に思っていたのが、顔に出ていたんだろう。


シエーナは、あの豚公爵が不穏な動きをしている事を知らない。


「もう、攫われてくれるなよ。街の外ならイェーガーだが、街中は必ずハリーかバックスに護衛を頼め。」


日誌を書く手を止めて、シエーナの眼を見る。

この話題に触れるのは、あれから初めてだ。

傷が治るまで、敢えて避けていた。


痛々しい姿で、話したくなかった。

顔に傷跡が残っている今でも、大差ないのだろうが。

かなり、血を流していたらしく、正直、今でも馬に乗ると、少し眩暈がする。

魔法医であるハリーが、偶然ラターシュに居なければ、俺はおそらく死んでいた。


「ごめんなさい。」


しょぼくれた声。

思わず上がりそうになった口角を、なんとか引き締める。


「心配で、気が狂うかと思った。いや、狂ってた、か。」


初めて人を斬った。


あの時、なんとも思わなかった自分がいる。

その事を受け入れている、自分もいる。

不思議だとは、思わない。


「ごめんなさい。」


開いたままだった日誌を閉じた。

雑多な覚書のような内容だが、領地の経営に区切りがつけば、まとめるつもりでいる。

その時、俺は幾つになっているのか。


「良い。済んだ事だ。無事でいてくれて、良かった。」


俺も、ベッドに転がる。

シエーナの背中に回り、後ろから抱きしめた。


「うん。」


消え入るような、か細い声。

耳が、赤い。


慣れないものだ。


夜の時も、未だに恥らう素振りを見せる。

だが、今夜はお預けだ。

激しい運動は、にっくき主治医兼秘書兼次期家宰候補に、止められている。


「アルも、無茶しないでね?」


今、とってもしたいんですけどね。





その日の夜は、シエーナが随分と頑張ってくれた。

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