表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
三章 〜心と領地〜
134/164

バルザック・セグラ

やっちまった。

予約投稿せずに、投稿しちゃいました。

消し方わかんないので、このままいきます。


本日二回目の投稿です。

ハリーのお供をしていたと言う、バルザック・セグラは、気持ちの良い男だった。

まず、裏表がない。

言動は一見すると荒っぽいが、所々で細かい気遣いをしているのがわかった。

そして、その髭面からは想像できないほど、料理が上手い。


「なるほどな。」


「そうでしょうとも。」


俺の声にハリーが、したり顔で返してくる。

怪我の具合も良くなり、今朝ラターシュを発った。


傷跡が生々しく残っているが、皆の態度は変わらない。


ハリーの馬は、俺が自らラターシュの馬市で買い求めた。

少し痩せていたが、良い馬だ。

馬体がもう少しがっしりすれば、よく駆けるだろう。


バルザックは、馬車の荷物の上で昼寝している。

彼は馬に乗れない。

魔物に襲われた時も、自衛は出来ても、積極的に狩る事はしない。


だが、魔物や人がいた痕跡を見つけるのは誰よりも上手かったし、彼が寝ている間は獣一匹見かける事はなかった。


別に雇った訳ではないので、昼寝していようと、なんだろうと文句を言うやつはいない。


「魔物には、縄張りがあるそうですよ。血に引き寄せられたりしない限り、そこから出てくる事はあまりないそうです。」


「ふーん。」


再開した旅は、順調である。


と言っても、初日だが。


北の最前線であるラターシュから、十日ほど西に向かい、やや東寄りに南下する。

マルガンダの側を通って、ローヌ河を渡れば、サンテミリオンと名付けたサルムートが開墾している地域に入る。

そこからローヌへ向かうまで、二月ほどか。


マルガンダから見て、西北西の地域は、余り村落はない。

山地や、丘陵地帯が南部や東部に比べて随分と多く、農耕に向いた土地が少ないのだ。


その代わり、幾つか有力そうな鉱山と、地下迷宮化した洞窟などが見つかっている。


その為、屯田兵の駐屯地が幾つかと、ドワーフ用の資材置場があるぐらいだ。

将来的には、ラターシュのような傭兵や冒険者、炭鉱夫など、荒くれで賑わう工業都市群になる予定だ。

他にも、騎士団の大規模な練兵場も、この地域に造る筈だ。


「おい、侯爵殿。来るぞ。」


いつの間にか、起きていたらしいバルザックが、すぐ傍にいた。


「多分、ラットウルフの群れだ。斥候に行ってた、あのにぃちゃん達、何やってんだ。」


苦々しげに言ったバルザックは、もう既に剣を抜いていた。


「人の方を警戒していたんでしょう。ある意味、私達はそちらの方が怖い。」


特に緊張した様子もないハリーが、バルザックを宥めている。


ラットウルフは、普通の狼よりふた回りほど小さい。

丁度、小型犬のような感じだが、魔物が人に懐く事は例外を除いて殆どない為、愛玩には向かない。

グレーの毛皮に、身体の割に発達した犬歯、狡猾で素早い動き、そしてウルフと名付けられているにも関わらず、臼歯もしっかりあり、雑食である。

やや肉食を好むが、食欲よりも性欲が旺盛なようで、群れるととにかく数が増える。

鳥系の魔物と、擬態した植物系の魔物が天敵であり、普通はそれほど増える事はないのだが、この辺りでは傭兵が定期的にその天敵を狩ってしまう為、将来的には専属の間引き部隊が必要になるだろう。


「申し訳ありません。取りこぼしました。」


馬を疾駆させて戻って来たイェーガーが叫ぶ。

馬車の中から、矢筒と強弓を引っ張りだすと、よじ登って矢をつがえた。


鏃の先で、パウロとバックスがやりあっている。


「侯爵殿、剣ぐらい抜いとけよ。」


その様子を、ぼんやり見ていた俺が気に入らなかったのか、バルザックは苦い表情のままだ。


「あいつらに任せときゃ、大丈夫さ。それにしても、気付くの早かったな。」


「遠吠えが、風に乗ってきた。風上でやるのは間違っちゃいねえが、戻って来たら意味ねえよ。」


耳も良いんだな。こいつ。


「十二匹、か。イェーガー、此処に来るまで何匹仕留めた?」


「二十四だ。ハリー殿。奴らのねぐらが、近くにあったんだろう。」


あぁ、穴掘ってそこに住むらしいな。

それで、見逃した訳か。

それにしても、パウロだって元冒険者だろうに、バルザックが優秀って事なんだろうか。


「進路を、少し南にずらしましょうか。バルザック、イェーガーの馬を牽いてきて下さい。イェーガー、馬車を動かしても、射抜けるな?」


ハリーがテキパキと仕切っていく。

俺とシエーナは、武器すら手にしていない。

久しぶりに、正しく貴族をしている気がする。


馬車に乗らないで、騎乗してるけど。


馬車がゴトゴト動き出す。

遠くで、パウロ達がラットウルフとやりあっているのが見える。

かなり遠いので、どの程度の戦いかはわからない。


パウロの剣と、バックスの魔法が、時折煌めいて、それはよく見えた。


「先に抜けてしまいましょう。何かあっても、イェーガーと私がいれば時間稼ぎぐらいはできるでしょう。」


あの規模で、ラットウルフの群れがいると言う事は、それほど大した魔物がこの周辺にいない、と言う事なのだろう。

ラットウルフは、その程度の魔物なのだ。


せいぜい、群れでホーンラビットを狩るぐらいか。

群れの規模によっては、ゴブリンなんかとも良い勝負をする。

あの二人には、物足りないぐらいだろう。


「無茶苦茶だな。あの二人。」


バルザックは、驚いているようだ。


「うちの騎士の中でも、ずば抜けて強いからな。あの二人は。」


矢が風を切る音。

イェーガーの援護射撃が始まったようだ。

並の弓では、届きすらしない距離だが、イェーガーはとてつもない強弓も引ける。

本人曰く、力ではなく技らしい。


「普通は、魔物が出たら避けるか逃げるかするもんだぞ。」


「エンリッヒ家に、それは許されなかったからな。住む家や明日の食べ物云々の前に、魔物の討伐が最初の仕事だった。」


ローヌ峡谷の、飛竜討伐に始まり、多くの者がその戦いの過程で死んでいった。

一個体が人よりも強い魔物に、寡兵で立ち向かわざるを得なかったのだ。

パウロはともかく、バックスとイェーガーは、その数々の戦いを生き残った男達だ。


そこらの騎士とは、違う。


「正気の沙汰じゃないな。」


その通りだ。

ある種の狂気で、俺達は乗り切ってきた。

それは、今も魔物と戦い続けているマンシュタインを始めとした、騎士団の面々だけではない。

フィリップやキートス、ダルトンなど、初期の開拓を裏側から支えた者たちも、そうだ。


多分、俺もその例外ではない。


こちらに生まれた頃、将来は家臣に領地を任せて、悠々自適の生活を送ろうなどと考えていた時が懐かしい。

そう言えば、前の人生は過労で死んだんだったか。

元々、楽して生きると言う事に、向いていない性格だったのかも知れない。


地球の、日本と言う国で生きていた人生も、今は遠い。

思い出すのも、久しぶりだった。


「おい。どうした。」


バルザックが、不思議そうに首を傾げている。


「すまん。考え事をしていた。」


「喋りながら考え事かよ。」


「色々と、勉強させられるからな。バルザックには。」


「ふーん。」


言って、彼はあらぬ方向を向いた。

照れているらしい。


聞いていたのか、ハリーのくっくと笑う声が聞こえる。

シエーナも、微笑んでいた。


「お。終わったようだな。」


馬車が止まり、イェーガーが降りてきた。

ラットウルフの肉は食えない。

遠くで、黒い煙があがり始める。


酷く穏やかな時間が、ただ流れていく。


俺は、ぼんやりと、空に広がる黒煙を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ