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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
三章 〜心と領地〜
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シュナの魔法。

アルマンドの顔から、血飛沫が舞った。

主君が斬り下げられ、仰向けに崩れ落ちるのを、俺は見ているしかなかった。


不可視の壁を張り巡らされ、どうにもならない。空間魔法の一種だ。

シュナが反対魔法でのレジストをかけているが、僅かな時間さえ今は惜しい。


アルマンドの傷は、おそらく浅い。

男の踏み込みが甘かった。咄嗟に、剣を振るったのだろう。

顔の傷は、浅くても血がよく出る。


躓いたのが、逆に良かったのかもしれない。

だが、今すぐに行かねば、首を落とされるのは確実だ。


「シュナ、まだか。」


バックス、イェーガー、そしてシュナ。

この旅の護衛は、エンリッヒ家中から選び抜いた者ばかりで、この忌々しい不可視の壁さえなければ、すぐにでもアルマンドを救えると言うのに。

苛立ちを、抑えられない。


「お前だけは、通せる。まず、あの魔法使いをなんとかしてくれ。」


シュナは、魔法を使える。

今まで知らなかったが、十二柱全ての魔神と親和性があり、四大元素の全て、空間、時間、闇の系統に適性がある。

魔法使いとしての道を歩んでいれば、まず間違いなく大魔導師と崇められていただろう。


どうして、忍びとして生きているのか、よくわからんが、表の世界では生きていけない事情があるのかもしれない。


「 早く、やれ。」


「間違っても、仕損じるなよ。」


「やかましい。」


言った瞬間、俺の眼前から、結界が失せるのがわかった。

同時に、駆け出す。


俺は、音で魔法を聞き分けられる。


耳の奥に魔力を流すと、魔法によって様々な音が聞こえるのだ。

普段、街中などでこれをすると不協和音が入り乱れ、すぐに頭痛がするが、冒険者時代はかなり役立った。


「イェーガーッ!」


叫ぶと同時に、俺の背後から矢が飛び、剣の男の腕に矢が突き立った。


魔法使いの方は、弾かれた。

身を護る魔法を仕込んでいたようだ。


魔法の腕だけでなく、頭の方もそれなりにキレる。


刺客として、厄介極まりない。

ここで、殺しておくべきだ。


呻き声をあげる剣の男は無視して、魔法使いの男に駆け寄った。


斬り下げる。


魔法使いの首筋に到達する事なく、刃が止まった。


おそらく、空間魔法で自分の周囲を固定していて、剣が通らないのだろう。

不敵な眼をして、ニヤリと笑っている。


だが、空間を固定していれば、呼吸がもたない筈だ。


「パウロ。」


アルマンドの弱々しい声が聞こえた。

後頭部から、倒れたのだ。

立てはしないだろう。


振り向き様に、剣の男を斬り倒した。

手負いでなければ、何合か斬り結ぶ事になっただろう。

それなりに手練れなのは、対すればわかる。


「気を抜くな。パウロ。多分、増援を呼んでる。」


血塗れの顔で、アルマンドは立ち上がった。

足がふらついているが、眼の力は失っていない。

見上げたものだ。

気力だけで、立ち上がった。

武術に関して、これといった素質はないが、時折見せる非凡は、畏怖に値する。


「シエーナ様も、俺の傍を離れないで下さいよ。」


「正面と後ろに、魔力の歪みが見える。人が来るとも、限らんぞ。」


魔眼だ。

アルマンドが持つ、数少ない技能の一つ。

魔眼持ちは、実は希少なのだ。

騎士団にもそれほど多くはいない。


軽く頷き、魔法使いから距離を取る。

俺が、この忌々しい男を討つのは、諦めた。

ろくに動けもしない人間が二人。

守るだけで、精一杯だ。


転移の瞬間、シュナ達に何を出来るかに賭けるしかない。


「来るぞ。」


アルマンドの呟きが聴こえてすぐ、空間が揺らぎ、次いでその歪みから十数人が姿を現した。

二三人、獣人が混じっている。

揃いも揃って、そこらの賊よりよほど腕が立つ。

そこいらのチンピラとは、明らかに違う。


「轟く滅びの咆哮、青と白の光よ。我が行手を阻みし者を誅す雷撃、天を統べるゼヴァムスの剣。」


シュナの詠唱が聞こえる。

普段よりも、高く澄んだ歌声のような、滑らかな詠唱。


「ベリッシュライトニング。」


視界が暗転する。

そして、世界が崩れる音がした。


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