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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
三章 〜心と領地〜
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幕間 とある村長と傭兵

前話、加筆してます。

小高い丘の上で、アルマンド達を見送った。


「行ったな。」


隣に立つ、セロスが呟いた。

元はエンリッヒ家に仕える従士だった彼は、フォレスタの死後、かつての部下を傭兵としてかき集め、養っていた。

今は、その部下の一部と共に、この村で農耕や狩りをして生計を立てている。


領地の一部を預かる代官でありながら、奴隷に落とされた自分と比べれば、立派なものだ。


「きっと、立ち直られる。」


今は亡き主君、フォレスタの面影があった。

眼は母親似だが、鼻筋などはそっくりだ。

対面した時、こみ上げる涙を抑える事ができなかった。


かつて自分が見捨て、成長する事なく果てるだろうと思っていた主君の子が、今や侯爵である。

失ったと思っていた月日は、何かを確実に育んでいた。


思えば、このサンヴィヴァンの長を務めるようになって、もう二年が経つのだ。

フィリップから、是非にとエンリッヒ家への仕官を何度も誘われたが、とてもそんな気にはなれない。

フォレスタに殉じる事も出来ず、アルマンドを救う事も出来ず、奴隷にまで身を落とし、無様に年老いても、生にしがみついてきた自分に、その資格はない。

恥に塗れた身だ。

彼らの夢は、自分には美し過ぎた。


「良かったのか。付いて行かなくて。」


セロスが、皮肉な笑みを浮かべて言った。


「良い。私には、この村がある。」


アルマンドの旅に、同行したい気持ちがない訳ではないが、汚れた過去と守るべき現在が、それを許さない。

今年、サンヴィヴァンで初めての赤子が生まれるのだ。

身籠った娘から、名付け親になって欲しいと頼まれていた。

言われた時に、思わず口元が緩んだ事を、よく覚えている。


「お前こそ、良かったのか。セロス。」


「何が?」


「フォレスタ様の息子だぞ。」


セロスは、当時アルマンドの母の警護を担当していた。

自害して果てた彼女を、ラフィット家に運ぶ途中、王国騎士に襲われ逃亡した後、名と身分を偽って傭兵団を組織した。

心に期すモノがあったのは、間違いない。


「カミラ様の、息子だ。」


笑みが消え、何処か索漠とした無表情でセロスは、地平に顔を向ける。


「おい、お前。」


「言うな。あの二人が死んだ時、いや、あの二人の息子が生きていると知った時、俺は死んだ。ここにいるのは、抜け殻みたいなもんさ。」


抜け殻、か。

自分には、これから生まれる命、と言う希望がある。


セロスには、何もないのだろう。

確か、四十を幾つか越えている筈だが、未だ独身で女の気配は微塵もない。


セロスの視線を追うように、地平に眼をやった。

アルマンド達の姿は、もう見えはしない。

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