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とある貴族の開拓日誌  作者: かぱぱん
三章 〜心と領地〜
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食事の後で。

煮込みの方は、アッと言う間になくなった。

途中で鳥の焼き役を交代しながら、皆そこそこの量をかっこんでいた。


「そろそろ良さげだな。」


鶏ガラスープに塩を入れただけのシンプルなスープをすすりながら、指先で鳥をつつくと、しっかりとした弾力が返ってきた。

今現在の焼き役であるアルファドから、鳥を取り上げて焚き火にくいと近づけ、焦げ目を付ける。


まだ寒い季節だが、腹に食物を入れたせいか、じっとりと湿るような汗がでてくる。


香ばしい感じに焼き上がった鳥を火から離し、後はイェーガーに任せた。

俺達の中では、切り分けたりするのは彼が一番上手い。

多分、普段から肉の解体とかしてたんだろう。

あまり、詳しい事は知らないが。


切り分けて、椀に盛られた肉と野菜は、上品な味がした。

美味い事は美味いが、外でこんな風にして食べると、どこか違和感がある。

もっと粗野で大雑把な味が、この場には合う。

ぬるいミードなんかがあれば、尚良い。


「どうしたの?」


シエーナが食べる手を止めて、不思議そうに首を傾げた。

他の者達は無言で食っている。

かに鍋の風景を思い出す。


「ん、ちょっと思ってたのと違うな、と。」


「充分美味しいと思うけど。」


「こんなもんじゃない、と思う。そのうち、やり直してみるさ。」


「凝るのは良いけど、ちゃんと時間考えてよ。」


シエーナの言には、苦笑するしかない。

その気持ちもわからん事はないのだが。


「あぁ、次はそうする。」


こんな食事は、これからも続く。

うちの領地には、まだ食堂なんかがある町は少なく、外食するような機会がない。

自分で作る機会は、これからもまだたくさんあるだろう。

その時に、色々試してみれば良い。


「おい、バックス、アレをやれ。」


皆が食い終わって一息ついていると、パウロが言った。

後片付けをしていたバックスは、ニヤリと笑って小屋から担いできた荷物の中からリュートのような楽器を取り出した。


「ほう、楽器ができるのか。」


と言うか、荷物の中に楽器がある事すら、俺は気づいてなかった。


「イェーガーは笛が良いですよ。パウロ殿は、楽器より歌ですね。」


「イェーガーも、か。」


「貴族出身の人は、だいたい一つぐらいは楽器をいじれるんですよ。アルマンド様は、覚える機会がなかったでしょうけど。」


横から言葉を挟んだオーズが、パウロに頭をはたかれた。

俺は気にしないんだが、そうもいかないらしい。


「そういうもんか。シエーナも何かできるのか?」


「あんまり上手くないけど、フィドルならできるわよ。」


フィドル。

ヴァイオリンやチェロなどといった弦楽器の古いタイプである。

一応、ヴァイオリンやチェロ、オーボエやクラリネットといったオーケストラチックな楽器は、こちらの世界でも既に登場している。

もちろん、金管楽器も勢揃いしているが、どういう訳か、あまり見かける事はない。

正式な式典なんかでは、出張ってくるのだが。


「一緒に、やってくれ。是非聞いてみたい。」


「上手くないって言ったでしょ。」


「上手い下手じゃないと思うんだが。」


「そのうち、聴かせてあげるから、今は勘弁して。」


相当下手なんだろうか。

シエーナが演奏している姿は絵になるだろうが、余り上手くやりそうなイメージがない。

○香ちゃんのヴァイオリンが、ジャイア○の歌声並みの狂気、もとい凶器であるのと、同じようなイメージだ。


流石に、ゴキブリすら殺してしまう破壊力はないと思いたい。


本当にいつか聴かせてくれるなら、だが。


バックスのリュートが始まって、しばらくしてからパウロが歌う。

途中から、イェーガーの笛も加わった。

オーズは嬉しそうに手を叩き、シエーナも小声で口遊んでいる。

俺はそれを、ただ見つめていた。


こういった時間を、俺は随分長い間、忘れていた気がする。

他の貴族に比べれば、かなり少ないとは言え、当家でもちょくちょく酒宴は開いていたが、これほどのんびりとはしていられなかった。


いや、しなかった、しようとしなかった。


新参家臣の様子を伺っていたり、料理はちゃんと出揃っているか気にしたり、他の誰かがやるような事を主君の俺がやっていた。


きっと、それはそれで間違いではないだろう。


ただ、正解ではない。


「良いな。」


呟くと、シエーナがこちらを向いて、にこりと笑った。


「でしょう?アルも、歌ったら?」


「歌詞がわからん。」


こちらの歌を、俺はほとんど知らない。

前世では、割と広く浅く色々聴いていたが、こちらにはCDすらない。

それに、のんびりと音楽を楽しめるような人生ではないのだ。


「何言ってんの。これ、パウロの即興よ。」


マジっすか。


「凄いな。それは。」


「え、普通じゃないの?」


ん、普通なの?


「歌には歌詞があるもんじゃないのか?」


「そういうのは、だいたい村とか町とか、土地の人が歌うの。あとは式典の時に歌うのとかも、そうね。」


あ、あ、あらそうなの。

って事は、宴の度にオーガスタも即興で歌ってたのか。


なんか、シエーナに常識を教えられると、ちょっとヘコむな。


「知らなかったよ。どの道、俺に即興は無理だ。歌も、上手くないし。」


「上手い下手じゃないでしょ。こういう時は。」


んならお前も演奏しろや。


出かけた言葉を、ぐっと飲み込む。

シエーナの癖に生意気だ。

思ったが、曖昧に笑って誤魔化した。


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