救われたよ。
「アルマンド・フォン・カルスクテーク・マスタング・ソドム・エンリッヒで相違ないな。」
奴隷にすっかり染まってきた頃、監督官に呼び出された俺は、監督官の書斎で尋問にあっていた。
尋問してくるのは、なんか偉そうな貴族様だ。歳は五十ぐらいか。
監督官はガッチガチに緊張している。
俺の昔の正式な名前、親父の名前、領地の場所や、奴隷になった経緯、色んなことを聞いてくる。
全て無言で頷いた。
そういや、最後に会話したのはいつだったか。
言葉を発すると蹴りが飛んでくるので、極力口を聞かないようにして、随分経つ。
「エンリッヒ卿の、執事の名は?」
あの執事のおっさんの事だろうか。
懐かしいな。
俺は夢の記憶を辿って、様々な事を思い出した。
「ロスチャイルド。フィリップ・ロスチャイルド。」
「うむ。間違いない。アルマンド殿、お父上の潔白が証明された。十五年も、よくぞ耐えられた。」
は?
俺と監督官は、キョトン、として固まった。
「王都で荒稼ぎしていた詐欺師が、先日逮捕されてな。余罪追求の過程で、エンリッヒ卿の筆跡を真似た手紙が発見された。」
それから芋づる式に事件の真相が発覚。
反逆は何者かによって、でっち上げられた謀略だったらしい。
今は俺の母親の実家が主導して、更なる捜査にあたっているそう。
エンリッヒ家は男爵として、復興される。
「ここから、出られるのですか?」
声が、震えた。
「無論。その前に、身だしなみを整えてもらうが。」
臭いもんな。俺。
まぁ、その前に…。
「監督官殿、お世話になりました。」
俺は、監督官に向かってとびきりの悪魔的な笑みを向け、お辞儀した。
こいつらには、本当に世話になった。
いつか、必ず御礼しなきゃな。