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薔薇乙女 -Crimson Rose-
作:錬装士


 空は綺麗な青空を映し出し、生ぬるい風が頬を伝う。
 此処は檻。美しき薔薇を閉じ込める為に。薔薇に潜んだ悪魔ヒトを閉じ込める為に。薔薇を誰にも触れぬようにと。
 其処には白いベットに横たわる、腰まで伸びた月夜の闇によく似た漆黒の様な黒髪に、燃え猛る紅蓮の炎のような紅い瞳をした少女が居た。静かに眠る彼女は何時しか、目覚め。
 空を見上げ、ゆっくりと口を動かした。
「綺麗……」
 たった一言。それを告げると眠りへと付く。
 此処は檻。
 紅き薔薇――と呼ばれる少女の為の檻。
 それは幾つもの時を越え、紡がれていく――物語。


薔薇乙女 −Crimson Rose−


 目を覚ませば、其処にはある少年が立ち尽くしていた。
 自分と同い年のようで、でも自分よりは背が高いようだった。太陽の光が反射してさらに輝きを増す金髪に、エメラルドのような緑色をした瞳。
 戸惑っている、なぜこんな場所に自分が居るのだと。少女はベットを椅子代わりにし、少年に尋ねた。
「何故此処に居る…?」
「此処は、何処だ?」
 質問を質問で返す少年に少女は驚きを感じた。誰にも会わせぬ様に、とも言われ外を出ることを許されなかったのだ。出る事といえば、いつも薔薇からの言葉を聞かされるだけだ。少女は問う。
「此処は薔薇園。全ての薔薇が此処に集まり、育まれて行く、薔薇の始まりで薔薇の終わりの場所――」
「君しか居ないのか?」
「そう。此処には私しか居ない。そして、薔薇だけが此処に存在する事を許される」
 少女はゆっくりと目を瞑りながら、身体を風に任せた。そしてまた、ベットへと横たわろうとする。
 すると少年がベットから覗き込むように少女を見た。少女はまた、ゆっくりと起き上がる。
「其処に出口が在る。其処から出なさい」
 少女は白く、細い腕で大きな窓のような形の扉に向かって指差した。
 すると、少年は首を傾げ、ゆっくりと少女に質問した。
「君は?」
「私は此処の番人。出ることは許されない」
 少女は告げる。此処に居てはならないと。でなければ――貴方が。
「君、名前は?」
「人に名前を尋ねる時はまず自分から」
 少年は何も知らず問うが、彼は一度言い換え。
「俺はセツナ。セツナ=ベルフォルマ。十五歳。君は? 美しき乙女さん♪」
「…紅き薔薇。紅薔薇クリムゾン・ローズ。……十四年前に生命を落された」
「十四歳、って事かな。宜しく♪」
 いきなり手を伸ばされ、戸惑った。これは本で書かれた「握手」と言う奴なのだろうか。だが。
「さっさと出ていけ」
 冷たく言い放った。
「……分かった。じゃ、またね♪」
 すると少年――セツナ――はにっこりと笑顔で伸ばした手を懐に収め、少女――紅薔薇――に背を向けた。簡単に引き下がってはくれたが、まだ紅薔薇は信用できなかった。だが、彼にはなぜか、信じてもいいのではないか、と言う思いがこみ上げていた。
 どうして…私が……?
 そんな思いを秘めながらも、紅薔薇は静かにベットへと横になった。
 その姿はまるで――…眠り姫。


 目を覚ますと、もう翌朝だった。一日が過ぎたのだ、が、昨日は昼寝をしていてからなので、何時間も眠っていたことになる。どれだけ眠っているのだと、自問する。ゆっくりと背伸びし、全体で起き上がると、白い肌が太陽の光に照らされた。上半身は白く薄い服を一枚、下半身は下着だけだが、服で隠されていた。布団をばさりと退かし、直ぐにベットを椅子代わりに座る。
「……寝すぎた、なぁ〜」
 ゆっくりと服を脱ぎ捨て、脱ぎ捨てられた白いYシャツと紺のスカートを穿く。薔薇は水水しく、綺麗に咲き誇っている。紅薔薇は正直、自分と同じ存在・・・・・・・が嫌いだ。咲き誇っている薔薇も、おとなしく何もしない薔薇も、そして――自分と同じ薔薇が。そう、傍観しているだけの薔薇わたし。自分は薔薇が嫌いで、自分が嫌いだ。
「友達、か……」
 あの時自分は何が出来ただろうか。三色の薔薇トリプル・ローズと呼ばれた私に、何が出来ただろうか。何もない、偉くても、何も出来なかっただろう。もっと状況を悪化させただけだろう。やはり、自分は用無しか。
「駄目だよ、そんな顔をしてちゃ」
「おまえは神出鬼没か?」
 セツナ=ベルフォルマが目の前に居た。にっこりと笑うと、彼は自分に近づいてきた。
「私に触れるな。おまえは分かっているのだろう?」
「……此処は異端者、つまり君達が生まれる場所。――そうでしょ、紅薔薇」
「此処は私達の体内に存在する「薔薇の種」を育んで行く薔薇が存在する。だが、無害な薔薇もある。此処は全ての薔薇が集められた場所、――薔薇園、ただの」
 紅薔薇は説明した。その表情は自分でも分かっている。

――『笑わなきゃいけないよ? 何時でも、ね』

 おまえのヤクソクは護れて居ない、今でも。
「世界には「薔薇の種」を体内に秘めたまま生命を落された子供が居る。其の子供を、俺達ヒトは呼ぶ。「異端者」。「薔薇の子供達ローズ・チルドレン」と――そう言われた」
「それが私達だ。私はその種の中でも、「三色の薔薇の種」を宿している。薔薇の子供達の中の上位、それが「三色の薔薇トリプル・ローズ」だ」
 紅薔薇はゆっくりと目を瞑り、そしてセツナを見つめた。セツナは何時の間にか自分の横に座っていた。何故だろうか、と紅薔薇は自問した。人間は何時も殺してきた、だが、目の前の奴は殺せない、この感情は何だ、と。
 そして、紅薔薇はセツナに問う。

「おまえはそれでも、私に近付くか――?」
「近付くよ」

 答えは直ぐに返ってきた。唐突も無い、ただの答えが。否ではなく、否定ではなく、肯で、肯定を彼は指した。まるで、心の内が読まれているようだった。でも、彼はただの人間、分かる筈がない。
「本当に、私は可笑しいな」
「よく言われるよ、俺も」
「セツナ。私は認めよう、おまえの存在を」
 自分の本心を今、おまえに初めて、解き明かそう。

「だから――…私に触れるな」

 セツナは驚いていた。それでも、自分は彼を追い返すことしか出来なかった。ドン、と扉に彼を投げ飛ばした。出口は無論、薔薇園の外の一つの世界。彼が透明の扉を何度も叩いていた。これは隠し扉。このままエレベーター式で、セツナの街の直ぐ近くの森へと出ることが出来る。自分は扉を背に、泣くことしか出来なかった。
「これが、涙、か……」
 涙を零したのはこれで二度目だった――。


「また暗い顔してるんだね〜♪」
 いきなり声がして、薔薇園の唯一の扉を振り返り見た。其処に居たのは。
「また会ったね、紅薔薇」
 セツナ=ベルフォルマ。昨夜、薔薇園から追い返した筈だった。金色の髪がゆっくりと風になびく。
「……何故此処に居る?」
「君に逢いたかった、一目惚れしちゃった君に、ね」
「嘘付くな」
「嘘じゃないよ。俺はいつでも――本気だよ」
 すると、セツナは紅薔薇の顎を掴み、耳元で呟く。エメラルド色の瞳が鋭く光り、顔つきも違う様に見えた。一瞬だけで、恐怖さえも覚えようとした。紅薔薇は顎を掴んだ手を振り払った。そしてセツナを睨み付けた。
「黙れ。私はもう、誰も――…!!」
 傷付けたくない、死んで欲しくない、失いたくない……、言おうとした瞬間――悪夢は訪れた。

――『紅薔薇……』

 紅薔薇の脳内に声が響いた。
 薔薇は刺を持ち、愛する者を傷つける。残酷は、綺麗で美しい。紅薔薇は震えた。その震えはセツナにも伝わっていた。そして悪夢は紅薔薇の思いを簡単に斬り落す――。
 紅薔薇とセツナを囲むように、薔薇の花弁が舞った。竜巻のように大量の薔薇の花弁。それは全て、白。つまり、無の色をしていた。
 薔薇の子供達には規則が合った。
一、人間と馴れ合ってはならぬ。
二、薔薇の子供達は――茨を持つことを禁ず。
三、上記に触れれば「死へいざなう者」現れるであろう。
 絶対に犯してはならない罪。白い花弁は、「死へ誘う者」が現れる証。

『一度だけではならず、またもや人間などと慣れおって――』
『我々は貴様を許す訳には行かない』
『薔薇園の仕事と世界への出入り、そして能力の封印を禁じたが、それも駄目だった』
『これより、貴様と其処の人間』
『共に殺して進ぜよう――!!』

 その声と同時に竜巻は止み、五人の薔薇の子供達が現れた。その子供達の瞳は全て漆黒の黒の瞳で、髪は全て白髪だった。それは、「死へと誘う者」が持つと言われる、「死の証」。五人は紅薔薇とセツナを囲み、両腕を自分達に向けた。その両腕からは、白い薔薇を咲かせた蔦は鋭い刺を持っていた。
「こいつ等は?!」
「罪犯した者に現れる「死へと誘うデス・ローズをもつ者」……気を付けろ。奴等は――殺しに来るッ!」
 紅薔薇が叫ぶと、五人の一人が蔦を頭上へと伸ばしてきた。避けると、背後から一本蔦が。自らの薔薇を開眼させる。

「目覚めろ! 私の薔薇ローズ――!」

 封印されていた薔薇が一気に目覚める。赤い血の色をした薔薇を咲かせた蔦は、鋭い刺を持っていた。その蔦で次々に現れる蔦をぶつかり合わせ、壊す。すると、背後から声がする。
「紅薔薇! これを!」
 セツナから一本の長剣を渡された。その長剣には不思議な文様が刻まれ、取ると瞬間、紅い文様へと変わる。
「太刀「紅空アカイソラ」! 名刀で、威力もある!」
「おまえは?!」
 すると、セツナは自分と同じような剣を手にしていた。それは紅い文様ではなく、蒼い文様だった。
「太刀「蒼空アオイソラ」だ!」
 こくりと頷いて、その剣を操りながらも蔦を支配し、敵を攻撃する。前までは味方だった。今が味方でも、次は敵。そう考え、一人の子供に、一太刀剣を振り下ろした。
 バランスを保てなくなり、敵は倒れる。
 何時の間にか、紅薔薇とセツナは背後の相手を任せていた。お互いを信用しなければやれない、高度な技術の一つだ。
「紅薔薇ッ!!」
 瞬間、倒れた。血が、自分の頬を伝わり、落ちていった。服が赤く汚れた。直ぐに気付いた。これは、自分の血ではない・・・・・・・・
「セ、ツナ……?」
 自分に覆いかぶさっている彼は、尋ねても答える事無く、横たわったままだ。今だ出続ける大量の血が彼の懐から流れ出ていた。口元からは血が流れていた。彼の懐には、緑色の蔦があった。直ぐに分かる。
 彼は自分の身代わりになったのだ、彼は。自分の隙があったから。彼は今に死にそうになっている。薔薇の子供達には、危険があると、その本人の意思に関係なく人間の血液を少しでも奪おうと覚醒する。自分には血が流れていない。流れているのは彼であり、人間だ。
「嫌あああああああああああああああああああああああっ!!」
 泣き叫んだ。
 瞬間、自分の体内の薔薇が覚醒した――。
 紅薔薇の種が覚醒する。それは、つまり限界を超える事。
 覚醒は、本来の力の倍、数倍、数千倍の力を発揮させる。だが、一歩間違えると、自分の命を落す。つまり諸刃の剣。
 自分は分かっていながら、覚醒させていた。

――『私、ルアって言うの! ルア=ベルゼルク。宜しくね!』
 昔、セツナとは違う奴が私に尋ねてきた。だが、彼女もまた、私のせいで殺された。そう、同属バラに。暴走し、覚醒した私に奴等は封印を掛けた。そして、薔薇園の番人の看板を背負わされ、世界への出入りを禁じられた。

 そして今、自分は暴走し続けている。
 薔薇が素早い速さで修復され、素早い速さで相手を侵食しようと這いずり回っている。次々に相手を絡めとり、体内へと侵食している。自分はもう止められない。止めることはできない。

「――駄目だよ、抑えなくちゃ……」

 一言。言葉が言われた瞬間、暴走、覚醒は止まった。振り向くと、其処にはセツナが居た。セツナがもう死ぬ寸前で、紅薔薇に言葉を掛けていた。その一言で、暴走、覚醒は止まったのだ。
「セツナ……、生きて、いた……」
「泣く、なよ……てか、もう死ぬ、寸前だけどさ……」
「私、どうしたらいいか分からないんだ。おまえを殺したくない。殺させたくない。そして、一つしか生き残る手段が無いんだ――…」
 紅薔薇は言った。たった一つの手段を言い放った。

「おまえが、私の茨になること――…」

 それを聞いたセツナはゆっくりと微笑みかけた。
「いいよ、契約しよう?」
「でも、契約すればおまえは私に一生従者として存在しなければならないんだぞ!? 私が死ねば、おまえも死ぬんだ…。
 あいつ等しをいざなうものを殺した私は、今では薔薇の子供達にとっての、最凶の指名手配者のレッテルを貼られてるんだ。つまり、おまえは私と共に世界中の敵を相手にしたような者なんだぞ!!?」
「構わない。どうせ、俺は死ぬんだから」
 その言葉を聞き、紅薔薇は尋ねた。
「それは生きる為の手段って考えてるか?」
「それもあるけど。本当の目的は、君をもう「独り」にはさせない、ってことかな?」
 その言葉を聞き、紅薔薇はゆっくりと立ち上がり、血を流し、口からもいまだに血を吐き出している横たわっている彼に向かって歩く。彼はゆっくりと瞳を閉じ、紅薔薇は額と額を付け合せ、言った。

「私、紅薔薇はセツナ=ベルフォルマを自身の茨として――…契約する」

 紅薔薇はゆっくりとセツナに顔を近づけた。影と影が重なり合い、紅い光りがゆっくりと影を包み込んだ。
「ただいま♪」
「バカ者め……!」

 そして、彼女達は世界へと旅立つ。鳥はやっと仲間を見つけ、空へと初めて飛び立つ――。

                                                                        Fin.


 
 初めまして、錬装士です。
 長い短編小説でしたが、お読み下さり有難う御座います。「孤独」をイメージしましたが、思えなかった方には申し訳ございません。
 感想、誤字有りましたら宜しくお願いします♪






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