第十一話、トリステイン内戦 2
ギーシュ達は前進を続け、ついに旧商会事務所前にまでやってきた。ここまで来るのに被害は出たが、そのたびに水魔法で治療して進んできた。
だが、兵は疲れており休憩が必要であったため交代で休憩させることをギーシュは決め、銃士隊を休ませた。
旧商会事務所は元々緊急時は拠点として使えるようになっているため改造しなくてもかなりの設備が整っていた。
それを周りの建物を使って城壁を作り、正面以外攻められないように罠を分かりやすくしかけていたり、バリスタによる防衛兵器も設置されていた。
ギーシュはどう攻めるか悩んでいた。普通ならゴーレムで攻撃するのが一般的だが、戦争が嫌いなギーシュは実戦で使えるレベルのゴーレムを使えるように訓練はしなかったのである。
壁を破壊できなければ攻めるのが難しくなり、時間をかけているうちに一方的に殺されかねないのだ。
ギーシュはここにきて初めて自分の愚かさに気がついたのであった。
「ギーシュ殿、どうやって攻めるのでしょうか?」
「うん、僕もそれに悩んでいたところだよ。投石器や梯子を使うしかないだろうね。」
「ですがそれでは被害が増えてしまいます、集中攻撃を受けるのは簡単に予想できます。やはりなにか壁を破壊する兵器が必要です。」
「・・・・一応新型の爆弾を用意した。どこまで破壊力があるのか分からないが一箇所穴を開けるくらいならできるだろう。」
「ではそれを使えば!」
「うん、入り口は確保できる。他の人は何か意見はないかい?」
「敵は多くの幻獣を持っています、それにたいしてはどうするつもりですか?」
「麻酔銃で眠らせて安全を確保するしかないだろうね。」
「そうですか・・・・・」
「とにかく頼むよ。」
「了解しました!」
ギーシュは素人であったが勝つために努力していた。しかし全力ではなかった。ギーシュは自分の発明品を戦争の道具に使われるのを嫌ったのだ。
本当は研究室に多くの武器があった、しかし生活レベルを考えると危険すぎると判断しもってこなかったのだ。
それにギーシュはこれまで一度も人間相手に魔法を使わなかった。指揮官だから後方にいたという理由もあるが、全く戦争のために魔法を使わないのは問題であった。
命令だけで戦わない指揮官ほど信頼できない存在はない、そのため部下たちは自分達の判断で最悪の場合動こうとすでに決めているのであった。
戦闘が始まった。グリフォン隊が空を飛び攻撃しようとしたが火竜が襲ってきてこえることができなかった。
しかしその後風竜隊が襲ってきたため銃士隊による対空射撃が始まった。
風竜隊は銃の攻撃範囲を知っており、空高く飛んでいるため銃弾が届かずに一方的な攻撃が始まった。
しかし、それは予想できていたことなのでメイジが魔法で攻撃、または銃士隊の銃を借りて空を飛び、風竜を攻撃した。
結果として風竜は対処できたが変わりに歩兵相手の戦闘に問題が出たのであった。銃がないため剣や槍で戦うしかないのだが、魔法による援護射撃があるため状況は最悪といっていいだろう。
「隊長!このままでは負けてしまいます!」
「分かっている!もうすぐ投石器で攻撃が始まるはずだ、それまでもちこたえろ!」
「了解!」
しかし、敵は待ってはくれなかった。バリスタによる攻撃も始まり戦力はさらに低下し、勝手に撤退する兵まで出始めていた。
ギーシュは逃げないよう命令したが命令に従わずに後方へ逃げていった。それを見た兵も逃げ始めており、戦場は混乱していた。
そのときであった、後方の地面に穴が開き敵兵が攻めてきたのは。前と後ろから攻撃されたギーシュは中央に集まるよう命令し、兵を集めた。
ギーシュはついに決意したのだ、ミサイルを戦艦ではなく兵士相手に使う覚悟を。
本拠地から発射されたミサイルは前方の敵部隊に命中、戦艦を破壊するために作られた兵器はあまりにも破壊力が大きすぎて兵士に大きな被害を出すことに成功した。
それを見た味方兵士は戦意を取り戻し、隊を整えて攻撃を始めた。皮肉なことだがトリステインの兵士にとってギーシュほど恐ろしいメイジはいないという考えが広がり、『戦闘狂ギーシュ』という二つ名ができてしまったのである。
「今だ!前進せよ、城壁への道を切り開け!」
「ウオオオオオオ!!!!」
叫びながら歩兵が突撃した。すでに風竜は全て無力化に成功しており、火竜も共倒れだがまもなく全滅するだろう。
トリステイン軍は城壁に向けて攻撃を再び始めた。投石器による攻撃も始まり、城壁にダメージを与え始めた。
銃士隊による攻撃も始まり、後方の敵部隊も攻撃が止まりなんとか本拠地の安全が確保され、爆弾による攻撃のため工作兵が行動を開始した。
爆弾は設置され、ギーシュの合図で火のメイジは爆弾に攻撃、見事に壁に穴を開けた。反撃のためギーシュは命令する。
「敵隊長を拘束しろ!本隊前進開始!」
「了解!進めーーー!」
「ウオオオオオ!!!!」
叫び声を上げて本隊が前進する、壁の穴からは敵が出てくることはなく、そのまま前進を続けた。
敵兵はあまりの強さに恐れ、撤退を始めており殆ど戦闘をすることなく安全にギーシュは進むことができた。
しかし、ギーシュと共にいたグリフォン隊隊長はこの状況を妖しく思っていた。あまりにも隊長陣の部下にしては精神が弱すぎるからだ。
その結果はすぐにでた。突然錬金の魔法で壁がふさがり、ギーシュを含めた本隊が内部に取り残され外側から攻撃が始まったのだ。
しかし本当の脅威は別にあった。建物内部から一匹の狼が現れた、それは・・・・・
「あれはフェンリル!?」
「フェンリル?」
「スクウェアクラスの凍結魔法を使う狼です。体は硬く銃弾やブレイドの魔法でも斬れません。厄介な相手です。」
「倒す方法はあるかい?」
「眠らせるか強力な炎で焼き殺すという方法もありますが、臭いで逃げ、温度を冷やすため難しいです。」
「・・・・・あれは僕が相手をする、君達は周囲の敵を頼む。」
「ですが!」
「あれは僕の敵だ、任せてくれ。」
「・・・・・分かりました。」
周囲にはギーシュしかいなくなり、フェンリルは正面から襲ってきた。ギーシュは石の槍で攻撃したがかわされ逆に攻撃してきた。
ギーシュは足止めのために壁を作り逃げられなくすると長い呪文を唱え始めた。今から使うのはトライアングル魔法の『ストーンシャワー』であり、石の雨で攻撃して強度を確かめようとしたのだ。
壁を壊して出てきたところを攻撃したが殆ど意味がなく、一瞬ひるんだだけで終わってしまいまた襲ってきた。
(思っていた以上に硬い毛をしているな、あれを斬るにはダイアモンドじゃないとだめだろうな。)
ダイアモンドはギーシュが錬金できる最大の物質だ。ギーシュはもう一度閉じ込めると集中して錬金を始めた。
錬金するのはダイアモンド加工された青銅の剣と青銅のゴーレム。残りの魔力の問題で一体しか錬金できなかった。
ギーシュは閉じ込められているフェンリルに向かって走り出した。後ろにはゴーレムがおり、ゴーレムに攻撃されるのを恐れたのだ。
フェンリルはギーシュに向かってブレスをしたが、ギリギリで回避し後ろにいたゴーレムの攻撃を受けた。
ブレスの後で気が緩んでいたフェンリルは頭の上から剣で貫かれ、一撃で死にギーシュの勝利が決まった。
それを見ていたギーシュは魔力切れから意識が朦朧としてしまい、そのまま眠ってしまった。
ギーシュが勝利したのを見た隊長同盟は敗北を認め、この戦争は幕を閉じた。しかし、この戦争ででた被害は相当なものであり、無視できないほどになってしまった。
〈トリステイン城〉
内戦終結から数日がたち、ギーシュはアンリエッタ王女に呼ばれた。理由は簡単だ、今回の戦争の報告をするように言われたのだ。
城に入るとアンリエッタのほかに政治家達がそろっており、説明を皆が待っていた。
「それではギーシュ、説明してください。」
「はい、今回の内戦でグリフォン隊隊長など多くの負傷者が出ており、反乱軍にも多くの死亡者がでました。中には騎士を引退しなければならない者もおり、さらなる弱体化が進んでしまいましたがトリステイン騎士団の意識の統一に成功したのでそこは評価すべきことだと私は思います。」
「そうですか、ご苦労でした。」
「は!ありがとうございます。」
「皆さんは今回のギーシュの働きをどう思いますか?」
アンリエッタの問いかけに一人の政治家が手を上げた。彼は現実主義者で有名で、今まで真実しか言わないため宮廷での政治に関われなかったのだ。
「ギーシュ殿の働きは見事ですがやはり経験不足がよく分かります。特に魔法は偏っており、戦闘で使えない魔法が多すぎると判断できます。」
「なるほど、他の人はどう考えますか?」
やはりギーシュの判断は変わらなかった。あまりにも被害を出しすぎてしまったため軍人としての評価はあまりにも悪かった。
特にグラモン元帥は怒りで顔を赤くしており、息子の弱さに我慢の限界に達しており、誰もがギーシュの未来を予測できた。
「ギーシュ・ド・グラモン、あなたにシュバリエの称号を与えます。」
「は!ありがたくお受けします。」
「それとグラモン元帥があなたの弱さに我慢の限界だそうで、グラモン家から追放だそうです。」
「え!?本当ですか父上!!」
「当然だ!あのような無様な姿を見せる息子などいらん!出て行け!!」
「そんな・・・・・」
「ですのでこんどからギーシュ・ド・シュバリエと名乗るように、良いですね?」
「分かりました・・・・・」
その後も会議が続けられたがギーシュの耳には入ってこなかった。親に捨てられた悲しみはそう簡単には消えはしないのである。
ギーシュはその後もトリステインの発展のために努力をして、ついにトリステイン魔法学院への入学が迫っていた。
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