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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

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89 村の幹部で善後策について協議します

「本来ならば執務室で協議を執り行いところだが、今回は参加人数も多いため食堂で行う事にする。各々は適当に席にかけてくれ」

 ドレス姿の女村長が一同ぐるりと見回してそう宣言すると、自らも上座のイスに腰を落ち着かせた。
 隣に置かれた簡易の腰かけに座ったッヨイさまは身長が足りないので、かろうじて胸から上が飛び出している格好になってしまった。
 俺たちは慌ててどの席につくか迷ってしまう事になった。

 この場にはギムルをはじめとして彼の連れて来た野牛の一族たちや、大工と普請に鍛冶職人の親方、それからベテラン猟師勢のッワクワクゴロさんとニシカさん、冒険者のエレクトラや酪農を代表してジンターネンさん、司祭さまに雁木マリと大人数である。
 さらに協議をはじめると宣言したあたりで、先ほどまで別の場所にいたらしい俺の家族まで食堂の入り口あたりに顔を出していた。

 こういう場合の席は自分たちの地位に応じて上座から順に座っていくものなんだろうが、次期村長であるところのギムルは当然の様に村長の近くに腰を落ち着けたが、他のメンバーは微妙な空気になった。

「何をしておる、シューターは早くこっちに来ないか。聖少女どのや司祭も遠慮なくこちらへ」
「り、了解しました」

 俺は慌てて返事をしながらチラリと家族を見やり、雁木マリと共にギムルの反対側に着席した。
 すると自然とその流れに任せる様に俺の隣にマリと司祭さまが座り、その隣にッワクワクゴロさんが、さらに隣にニシカさんが腰かけていく。
 反対側には村の親方連中やジンターネンさんが座った。
 残った席はあまりないが、下座のいくつかある簡易椅子にふたりの妻も腰を落ち着けるのが見える。
 エルパコだけは冒険者エレクトラやギムルの連れていた野牛の兵士を見習ったのか、俺のすぐ背後まで歩いてきて席の背後にたった。

「ぼく、シューターさんを護衛しないといけないから」
「お、おう」

 何やら他の護衛たちに対抗意識でも燃やしているらしく、けもみみの頬は少し上気して興奮がうかがえる。

「それではみな席に着いたな」
「はい、ドロシアねえさま」

 ようじょの確認に首肯した女村長は、咳払いをひとつして口を開いた。

「すでに諸君らは湖畔の建設現場で起きた殺人、ならびに放火にはじまる領内での不審事件について周知している事だとは思うが、この度その犯行がブルカ辺境伯の手によるものであると発覚したので、ここに報告する」

 女村長が、居並んだ村の幹部たちを見比べながら言った。
 俺が食堂を見回した限り、にわかにざわついていた。
 事件が起きた事は村のみんながすでに知っている事実ではあったが、カムラの討伐劇は嵐の中で密かに行われた事なので、村の幹部たちにはまだ知れ渡っていなかった。

「村長さま。それは外部の人間ですか、それとも内部の人間でしょうか」
「何と言えばよいかな。犯人の首謀者は冒険者ギルド長のカムラと、教会堂の助祭だった」

 親方のひとりがした質問にアレクサンドロシアちゃんが応えると、ざわつきは一層強くなる。

「ただし内部にも手引きする人間が複数おり、その者たちがカムラや助祭に対して協力していた事も事実だ。今回の事件はわらわたちこの村が開拓をより推し進めようとする事に対する、ブルカ辺境伯の妨害とわらわはうけとめておる」
「すると領主さま。ブルカ辺境伯さまというのは、この村に戦争を仕掛けてくるという事なのですか」

 おずおずと手を上げたのは、ギムルの背後に立っていた野牛の兵士である。

「いや、今すぐに血を流す展開になる事はありえないだろう」
「わが族長にはその様に報告いたします」
「ただし。広い意味で言えば戦争はもう始まっている。何も兵士同士が血を流すだけを指すのではない。外交もまた戦争であるし、経済もまた戦争である。血を流すだけを手段とはせず、交渉上の駆け引きもまた戦争だと言えるだろう。音を上げたほうがこの戦いの負けだ」
「な、なるほど」

 女村長がかつてミノタウロスにそういう流血も辞さない覚悟で外交に挑んだことが、野牛の脳裏に浮かんだかどうかはわからない。
 あの時は外交による論戦もさほどデッドヒートしなかった代わりに、俺と野牛の族長がお互いに流血しただけで済んだんだっけな。
 だが、野牛の一族の時と同じように、ブルカ辺境伯とのせめぎ合いが最小限に抑えられるとは思えない。

「村長さま、カムラの旦那はいったいこの村で何をやらかしたんだい。わたしらにはいつも愛想よく接してくれたし、たまには力仕事を手伝ってくれたりと、あのひとはいいひとだったと思うんだよ」
「それもまたカムラの作戦であったのだろう。わらわに対しても、表向きはよく献策をしてくれたのは事実だしな。例えば冒険者ギルドをこの村に立ち上げるにあたり、まずは領内一帯のマッピング作業をすると、今後の領地経営と探索に役立つ、と奴は言ってきおった」

 その結果がどうなったかを俺たちは知っている。
 そしてやはり地理情報の収集を提案したのは、あの美中年であったのだ。

「役に立ったのならいい事をしたんじゃないのかい」
「その集めた地図の情報を、逐一ブルカ辺境伯へ横流ししていたのだ。街の冒険者ギルドを経由してな」
「フン、やっぱりよそ者はどこまでいってもよそ者だね。わたしが世話を焼いてあげても何の反応も無いわけだ」

 ジンターネンさんも別に美中年の肩を持つつもりで質問をしたわけではないらしい。
 だが聞き捨てならない事に、ジンターネンさんはカムラに色気でも振りまいていたらしいぞ、この口ぶりだと。

「それで村長さま、カムラの旦那はどうなっちまったんですか」
「安心せよ。わらわの命を受けて騎士シューターが、嵐の夜に逃走を図ったき奴めを見事討ち取ったわ」
「ははあ、奴隷騎士さまが」

 大工の親方が質問すると、我が事の様にニンマリとした女村長が説明してくれた。
 ちょっとは俺の事、見直してくれたかね。

「もうひとりの内通者である助祭についてだが、こちらもすでに街から応援にやってこられた騎士修道会の聖少女どのが捕縛して、すでに投獄している。また村の中でこの者たちに協力を働いた人間も、現在はそれぞれの家に置いて軟禁しておるので安心せよ」
「ですが、これでこの村に対してブルカ辺境伯が敵対行動をとった事がうきぼりになったのです」

 そこでッヨイさまが言葉を受け取って説明を開始した。
 しかしみんなはッヨイさまの事を知らないので、鍛冶職人の親方が代表して不思議そうに質問を口にする。

「ところでこのようじょは何ですかね、村長さま」
「ッヨイはドロシアねえさまの、」
「わらわの妹だ。今回の件で人員が不足する事を見越して、ブルカの情報に詳しいッヨイを呼び寄せた」

 ッヨイさまが自己紹介をするよりも早く、女村長が自分の「妹」だと言い切りやがったぜ。
 一瞬とても嫌そうな顔をして女村長を見上げたようじょだが、睨み返されると慌てて視線を泳がせて俺に助けを求めて来た。
 ここでまた茶々を入れるのがジンターネンさんである。

「それは本当かい?」
「本当ですよジンターネンさん。俺たちが街で生活をしている時は、村長さまの身寄りを頼ってッヨイさまのお屋敷でお世話になっていましたから」

 俺が助け舟を出すと、

「フン、あんたには聞いてないんだよ」
「ならばわらわが改めて言う。ッヨイはわらわの妹であるから、今後みなもわらわに接するのと同じ様にする事。いいな?」

 ずいぶんと齢の離れたご姉妹だ事。
 不機嫌にだがいちおうは納得した表情でジンターネンおばさんが引き下がった。
 さすがのジンターネンさんも、女村長に逆らう事は出来ないざまあ。

「話の腰が折れてしまったが、妹よ続けるのだ」
「え、はい。つまりブルカ辺境伯は、ドロシアねぇさまが村の開拓を推し進めるために移民を募った事を耳にして冒険者カムラを送り込み、教会堂の関係者として潜伏していた助祭と協力して、村の情報を辺境伯のところに届けたり、村の開拓を妨害する工作を働いていたのです」
「つまりこういう事か、ブルカの冒険者ギルドと繋がりを持ち続ける限り、情報が何かしらの形で辺境伯のところに流れてしまうという事だな」
「そうです、ギムルにいさま」

 ギムルの質問にようじょが元気に返事をした。

「それじゃどうするんだ。街に頼れないとなると移民を募る事が出来なくなってしまうじゃないか。この先の開拓は頓挫しちまう」
「冒険者ギルドが頼れないとなると、どこから人集めをするんだ」

 口々に参加者たちが不安を言い出して、食堂は騒がしさに包まれた。
 こういう事は予想していたのだろう。女村長は議論を交わす村の幹部たちには無視を決め込んで、俺の方に視線を送って来た。

「シューター、何か提案はあるかの?」
「村長さま、敵の敵は味方という言葉があります。ブルカが頼りにならないのなら、他の有力者と繋がりを作ればいいんじゃないでしょうかね」
「有力者? それは王都や本土の諸侯と連携を図れという事か。それならばすでに八方手を尽くしている」

 俺の提案にため息をつきながら女村長が返事をした。すると、

「ドロシアねえさま、辺境の中で探すの駄目なのですか? ブルカ以外にも街はあるのです」
「だが、ブルカ辺境伯に対抗できる貴族と言えば、リンドルの子爵家の街ぐらいしかないな。あそこはドワーフの岩窟都市とも交易があるので、辺境の外苑地帯では特に栄えていると聞いた」
「それならそのリンドルの街から、冒険者ギルドの支援を要請すればよいのです!」

 ようじょは元気に返事をすると、さっそく書斎から持ち出してきた巻物をいそいそと広げ始めた。
 果たしてその巻物の内容は地図であったのだ。
 カムラが持ち出そうとした詳細な領内の地図ではなく、この辺境広域を示す簡略地図である。

「みなさんみてください。ここがサルワタの村だょ」

 テーブルに広げられた地図にみんなが覗き込む格好で注目する。

「ここが隣の村、こっちが別の村、そしてブルカの街。辺境の諸侯は、ブルカの街から放物線上に広がる形でそれぞれ領地を経営しているのです」
「辺境伯って言うんだから、その伯爵さまが治める街が中心だわな」

 ニシカさんが得意満面の笑みでそう言った。
 珍しくニシカさんがまっとうな事を言ったと見えて、ッヨイさまはこくりとうなずいた。

「その通りです。けれども辺境にはもうひとつ有力な街があるのです。それがここ」
「ふむ」
「どこだ?」
「オッペンハーゲンの街なのです。この街はブルカと王都が主街道で繋がれる以前から辺境で栄えた都市です。それからここがリンドルの街。こっちはドロシアねえさまが言った様にリンドルは岩窟都市とも交易があって、今は勢いが盛んなのです」
「なるほど。オッペンハーゲンの男爵といえば、ブルカ辺境伯とは積年のライバル関係ね」
「オッペンハーゲンとは考えたな。ッヨイ」

 雁木マリと女村長がそろって感心している。
 ようじょがえっへんと腰に手を当てて鼻息を勢いづかせた。
 オッペンハーゲンという場所は知らないが、我々には有力な味方になりえるらしい。

「オッペンハーゲンはこの村からすると、ブルカの街のちょうど反対あたりに位置するので直接的に敵対する事も無いのです。したがってなかよくできます。それにリンドルはオッペンハーゲンよりこの村に近いです。冒険者ギルドの運営のために、リンドルに支援を要請すれば、ブルカへ情報漏洩する事はありえないです!」

 何だかッヨイさま軍師みたいだ。
 すると今度はギムルが質問をする。

「ガンギマリーどの」
「はい? ギムルさん」
「騎士修道会がこの土地に聖堂を築くという話がありましたが、将来的にここに拠点を移すという計画を立てる事は出来ないだろうか?」

 きっと雁木マリとお近づきになりたい一心でそんな事を言ったんじゃないだろうかと思ったのだが、どうだろうか。

「え、それはギムルさま、われわれ騎士修道会を世俗の権力闘争に巻き込むという事ですかな?」
「そうだ。サルワタに騎士修道会の騎士隊が居座っているのであれば、辺境伯もおいそれと刃を差し向ける事は出来まい」

 あわてた司祭さまが確認をしようと口を開けたけれど、ギムルは意に介さずイエスを口にした。
 辺境諸侯に対して中立を旨としている騎士修道会ならびに聖堂会の人間としてはびっくりしたんだろう。
 だが雁木マリは「なるほど、そういう手もあるわね」とあまり驚いていなかった。

「せ、聖少女さま、公平をうたっている我々がそれをすると、規律違反になるのでは……」
「別に修道会の教えの中に、どこかの領主と手を組む事を禁止する文言が書かれているわけじゃないでしょう? あれはあくまでも騎士修道会を守るために適正な距離を保とうという訓示だったはずよね」
「そ、そうですが」
「別にこちらから戦争を仕掛けるのでなければ、騎士修道会としてあちこちに保険を掛けておくことは組織の生き残り戦術としては正しいのではないかしら。それにこの村には助祭の事で甚大な迷惑をかけているのだから、身内の恥をそそぐ意味でも、可能な範囲で協力するのは必要な事だと思うわ」

 雁木マリは聖堂に全裸で爆誕した有力者なので、そういう人間が味方に回ってくれるのは嬉しい。

「ふむ。大筋は見えてきたと思うが、しばらく休憩してから続きを考える事にするか」

 女村長は腕組みをしながら難しい顔で地図を睨み付けていた。
 たぶん、オッペンハーゲンなりリンドルなりと連携する道を模索しているのだろう。
 あるいは騎士修道会を領内に呼ぶ込む事で、抑止力でも期待しているのだろうか。

 そんな事に思いを巡らせている。と、アレクサンドロシアちゃんがとんでもない事をつぶやいた瞬間を、俺は見逃さなかった。

「問題はそれらの街まで誰を派遣するかだな。ふむ」

 アレクサンドロシアちゃんと眼があってしまう。
 この女また無慈悲にも妙な事を俺に押し付けて来るんじゃあるまいな。
 その予想は結果的にありがたくない方向で的中するのだった。
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