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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

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87 アレクサンドロシアちゃんは大変お怒りの様です


 女村長の書斎にて俺は緊張していた。
 いつものように安楽イスに深々と腰かけたアレクサンドロシアちゃんは、こちらを見てなかなか妖艶な微笑を浮かべている。
 まさに俺が新居で想像していた通りの表情だ。
 優しい笑みを浮かべている様で、その実まるで眼が笑っていない。
 俺はたまらず背筋がぞわりとしてさっそく言い訳からスタートした。

「村長さまにおかれましては、なかなかご機嫌なご様子で」
「言いたい事が他にあるんじゃないかの、お兄ちゃん」
「……黙っていろいろと動いてすいません」

 開幕早々大失敗である。

「何故わらわに黙ってカムラを捕縛しようとしたのだ。ん?」
「理由はいくつかあります。もしもアレクサンドロシアちゃんに教えると、あの美中年を捕まえるなり殺すなりという事はきっと出来なかったからな」
「ではその理由を聞かせてもらおうか。事と次第によってはお前に厳しい処罰を与えなければならない」

 俺は正直に話をする事にした。
 ここでまた余計な事を口にすれば、きっとまた無理難題をお命じになられるに違いない。

「まずひとつは、アレクサンドロシアちゃん。最初に君へこの事を報告すると、間違いなくアレクサンドロシアちゃんは激昂して話がややこしくなるからだ」
「……続けてくれ」

 不機嫌そうに俺を睨みながらも、言葉の続きを催促して来る。
 きっと自分の性格の痛いところを突かれて微妙な気分なんだろう。顔の表情から俺にはわかる。

「今回の事件のあらましは聴いていると思うが、カムラのやつが村の若い女を垂らし込んで、いろいろと情報を集めていた事が問題だった」
「…………」
「まず、このお屋敷で下働きをしていた女」
「メリアの事だな」
「そう、そのメリアがカムラとは良い仲だったわけだ。あんたの命令や俺たちがここで話していた内容は、たぶんみんなメリアを通してカムラに流れていたと考えておいた方がいい」
「獅子身中の虫とはこの事だ。メリアにはずいぶん眼をかけてやったというのに、わらわを裏切るような真似をしたからの。ただちに暇をやって家から追い出したさ」

 語気を強めながら拳を握る。

「処刑してやろうかとも思ったが、今回の件はまだ尋問が済んでいないし他の女もどれだけカムラに協力していたのかもわからぬ。しばらくは生かしておく必要があるのは、くやしいのう」
「そうそれ、もしも短気を起こして夜のうちにカムラを捕ようと密談していたら、もしかしたらメリアなり、まだわかっていないカムラの協力者なりが冒険者ギルドに走った可能性がありますからね」
「ふむ。確かにそうだが……」
「あの時点では唯一の情報源がカムラだったんです。助祭さまは騎士修道会に捕まる前だったし、アレクサンドロシアちゃんにとって誰が敵なのか、誰が意図してこの様な事をやろうとしていたのか、カムラだけが握っていた」
「ぐぬぬぬ」

 握った拳を解いて所在無げに女村長は俺を見やった。
 そうなればカムラが逃げた後の村で誰がスパイで誰が信用に足るかと、疑心暗鬼が渦巻いていたかもしれない。
 得心がいったのか、少しして素の表情になった女村長が続ける。

「なるほど、シューターがわらわのためを思ってやってくれたというのはわかった。では他の理由というのは何だ。申してみよ」
「兵は神足(じんそく)を貴ぶという言葉もあるし、何より嵐の中でわざわざ密会をしようとしていたんだ。カムラの方もかなり焦っていた可能性がある」
「ふむ、それはどういう事かの」
「アレクサンドロシアちゃん、君がギムルさんやカムラに雁木マリを通して騎士修道会へ応援要請をした事を報告したでしょう。たぶんその事でカムラが、そろそろこの村での活動も潮時だと判断したんじゃないですかね」
「確かにそうだの。地図情報をメリアに渡して、伝書鳩に送らせようとしていたからな」

 女村長はフンと鼻を鳴らすと安楽イスを立ち上がって、棚に並んでいる壺から刺さっている巻物をひとつ抜いて俺に寄越した。

「これがカムラからメアリに渡った地図だ。小さいものだが、湖畔の城と集落の見取り図が描かれておった」
「見取り図は俺とドワーフの親方しか持っていないはずですがね」
「恐らくマイサンドラでも使って見取り図を作成させていたのだろうさ。何も設計図が無くてもだいたいの事は作れるだろう。しかしこれがブルカ辺境伯にわたっていれば、いざ戦争となった時に不利になっていたし、せめてこの地図だけでも取り戻す事が出来たのは幸甚というものだ」

 そう言った女村長は俺の返した地図を受け取ると、指先に小さな火の魔法を灯したかと思うと、麻紙の安っぽい地図を焼いてしまった。
 そのまま香を焚く壺の中に放り捨てる。

「メリアが隠し持っていたのですか?」
「そうだの。外は嵐で、いかに魔法の鳩と言えども飛ばす事は出来ないからな。聖少女が尋問をかけて自白させたのだ」

 雁木マリが嬉しそうに尋問する姿を連想してぞっとした。あいつは俺を何の躊躇も無く初見で殴り飛ばしたぐらいだからな。犯罪者には容赦しないだろう。

「その尋問ですが、今日は助祭さまに行うんでしたね」
「うむ。聖少女が数日かけて下準備は完了したと言っておったから、そろそろ吐くだろう」

 不敵な笑みを浮かべたアレクサンドロシアちゃんは、そのまま書斎の外に出て行った。
 俺も慌てて続く。

     ◆

「あなたたちも懲りない方々ですね、わたしは女神様に全てを捧げた身。何を聞かれましてもお答えする事はありません」
「おいマリ、尋問の下準備は完了したんじゃなかったのか?」

 女村長の屋敷の離れにある納屋の中で、哀れ助祭様は手足をイスに縛り付けられて俺たちを見上げていた。
 納屋の中は悪臭で満たされている。
 たぶん清楚可憐な顔をした助祭さまがこのありさまで、糞尿垂れ流しをしているからだろう。

「まあ見ていなさい。口で言う事を聞かなければ体にいう事を聞かせるだけだから」
「ッく、例え暴力に訴えたとしても女神様のご加護がある限り、わたしは口を割りません」
「聖堂会の大司教がそれを聞いたらきっと喜ぶわよ。最後までそのセリフが言えたならね」

 雁木マリは助祭さまの髪を掴むと、表情ひとつ変えずに可憐なその鼻頭を殴りつけた。
 見ていて俺と女村長は顔をしかめてしまった。
 暴力じゃ効果がなさそうなものなのに、何の目的なのだろうか……
 後学のために尋問に立ち会わされていた司祭さまですらも、元は自分と共に奉仕活動をしていた同僚の哀れなありさまに眼をそむけているほどである。
 数発殴った後に、マリは満足そうな顔をした。

「こんな事をしても、ゴホっ無駄です」
「まあ、こんなものね」

 雁木マリはまだ抵抗の意思を失っていない助祭さまの顔を確認してから、仲間の修道騎士から注入器具を受け取った。
 このタイミングで自白ポーションを使うのか。

「尋問というのはこうやってやるのよ。まず相手の体に傷をつけて、抵抗力を分散させるようにするの。この女は治癒の魔法が使えるから、体の意識を傷の治癒に向かわせておいて、ポーションを使うのよ」

 言うが早いか、睨み付けていた助祭さまの首元に注入器具を押し当てた。
 プシュっという投与音が響くが、最後まで助祭さまは抵抗しようとしていた。

「お前も聞いたところによると魔法薬学に詳しいそうね。悪どいご禁制の合成ポーションにまで手を出していたそうじゃない」
「わっわたしは自白ポーションには屈しませんっ」
「それじゃ、どちらがポーションに詳しいか試してみましょう、お前の体でね」

 同僚の修道騎士が、今度は色の違うポーションのセットされた注入器具をマリに渡した。
 また暴れる助祭さまへ強引にポーションが打ち込まれる。

「このポーションが持つ効能はわかる? 興奮促進よ。あなたの集中力を台無しにする様にしてあげるわ」
「な、何をなさっても無駄です。わたしには女神様のご加護がありますから」
「何の興奮促進なのか聞かないのかしら?」
「聖少女さまにあるまじきポーションで快楽責めですか……なんと恥知らずな」
「そう、イき狂いしてみじめに自白するのは嫌なのね。じゃあ慈悲をあげましょう、次は太ももあたりに剣を刺す事にするわ。ここならすぐには死なないし。シューター、あなたの短剣を貸してくれるかしら?」

 とんでもない事を言い出す雁木マリに、俺はドン引きした。
 本気かよ。

「では質問する。お前は何者だ」
「わたしは女神様の子、わたしは女神様にすべてを捧げた者」
「女神様の子、助祭マテルドはいつからブルカ伯のスパイだったの。これは騎士修道会の戒律に明らかに違反した行為よ。女神様にその身を捧げたのであれば大人しく言いなさい」
「わたしはブルカ辺境伯ミゲルシャールのおじベネクトの子……」

 しばらく後、死んだ魚の眼をした助祭さまが、つらつらと真相を語りだすのだった。
 この際何が行われたのかについて、詳しくは割愛する。

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