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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

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85 目が覚めると俺は新居に引っ越していた


 俺はしばらくの間、夢うつつの状態を繰り返していた。

 寝ている場所はどこだろうか、見覚えのない天井に真新しい室内。
 それに時折、俺は確かに眼をしっかり開けていた感覚があるのに、まるで体の自由が利かない。
 発熱している事は明確に脳が意識していて、妙な吐き気もあった。
 その状態で、俺は横になったまま時間の経過もよくわからない状態で過ごしていた。
 時間がたつとそのうちに極度に疲れた気分になり、また眠りについてしまう。
 ところが眠りが浅いのか、周囲で人間が何事か会話している声もしっかりと耳に届いているのだ。

 やがて夜がやってくると、妙に意識だけはしっかりした状態で誰かが俺を覗き込んでくるのが分かった。
 俺はというと必死で起きてるぞ、要件は何だ、と訴えかけようとするのだが、それが出来ない。
 もしかしてこれが世に言う金縛りというやつかと妙な関心をしていると、また意識を失っていた。

 何度もそんな状態を繰り返した暗がりの中。
 今度は俺の体の上を誰かが足踏みしている様な感覚に陥った。
 陥った、という風に言うのは、実際にそうだったかどうか俺の記憶が曖昧だからである。
 曖昧といえば俺が横になっている間の記憶が全て曖昧で、それこそ夢うつつの中でそう勝手に俺が思っているだけなのかもしれない。
 心霊現象でも経験している様に、ずっとぎしぎしと俺を踏みつけるような感覚に体中が苦痛を訴え続け、また気を失った。
 もしもこれが何者かの呪いならこれは恐ろしい事である。
 ここはワイバーンがいて、バジリスクがいるファンタジー世界だから、何があってもおかしくない。

 最後に、俺は明確な記憶に残る様な夢を見た。
 以前この村にやって来てしばらくした頃に見たものと同じ。
 いや、その続きの夢と言った方がいいかもしれない。
 バイトを終えた帰り、立ち飲み屋に向かう途中で繁華街を反れて裏道に入った俺の記憶である。
 いや、正確にはこれも実際の記憶とは違うのかもしれない。
 何しろ俺はこの世界にやって来たときの事を、曖昧なものですら覚えていないからだ。
 立ち飲み屋に行くはずが、全裸でこの世界でサルワタの森の近くをさまよっていたんだからな!
 事実か仮想か、その記憶を紐解いてみると、あの時俺は小さな生き物を追いかけていたらしい。
 珍しいものを見た驚きで、ついそれがどこい行くのか見届けようと追いかけたのだ。
 そしてこの世界に迷い込んだ。
 これがどうやら、俺の見た記憶の全てだ。

 ちなみに、小さな生き物というのはッヨイさまだった。

     ◆

 眼がさめると、俺は体が自由に動く様になっている事に気が付いた。
 傷口はやはり疼く。聖なる癒しの魔法によって傷口そのものは縫合されているみたいだが、体の芯の部分はまだ傷が治まっていないという気分だ。

「ようやくお目覚めかしら、奴隷騎士さん。シューターはふた晩ほど寝たきりだったのよ」

 部屋の中を見回すと、壁際に小さな執務机みたいなのがあって、そこに肘をついてイスに座っている灰色の法衣姿の少女がいた。
 メガネが顔のワンポイントになっているロングヘアの聖少女と言えば、雁木マリである。

「マリ、村に着いてたのか」
「ちょうどあたしたちが到着したタイミングで、おま、シューターが意識を失ったのよ。大変だったんだから」
「そうか、じゃあ危機一髪で助かったんだな。ありがとうございます、ありがとうございます」
「ッヨイが思いっきり急かしてくれたから、こうして間に合ったんだから。ッヨイには感謝なさいな」
「そうか。ッヨイさまありがとうございます」

 しかしこの部屋にはッヨイさまはいなかった。

「ここはどこだ?」
「おま、シューターの家らしいわよ」

 どうやら、いちいちお前と言いかけたところでシューターと言い直そうと努力してくれているらしい。
 以前などは身分通りの奴隷扱いで「お前」と侮蔑の表情と一緒に罵ってくれたものだ。
 それが今ではある程度の敬意を払って、俺の相手をしてくれている。
 久しぶりに会ったから、ちょっと嬉しくなってるんじゃないのか雁木マリよ。ん?

「いや。俺の家ってもっとこう、八畳一間の小屋みたいな家だったんですがねえ」
「ドロシア卿が用意した新居だと聞いたわよ。おま、シューターが寝ている間にお引越しは完了。前の小屋みたいな家だと、あたしとッヨイが寝泊まりする場所がないでしょ?」
「ひとの家を小屋とか言うなよな」
「お前が自分で小屋みたいな家って言ったんでしょ! 奴隷にぴったりの家だったとでも言わせたいわけ?!」

 はい。雁木マリの本性いただきました。
 やっぱりマリは、よそ行きの口調よりも口汚い方がマリらしいぜ。

「それで家族はどこにいるんだ。まさか俺だけ新居に追い出されたなんて事は無いよな」
「あんたが寝ているベッドは大きいでしょ。ドロシア卿が用意した特注品よ、ひとが五人並んでも寝られるという特別仕様のね」
「いや、うちは四人家族なんでそんなに広くなくていいです。いやバジルを入れると四人と一匹か」

 エルパコを勘定に入れるなら四人だが、エルパコは奥さんじゃないので同じ寝台に寝る事は無い。

「まったく、シューターの奥さんたちは隣の部屋でお勉強会をやっているわよ」
「お勉強会?」

 お勉強会って期末試験でもあるのかな?

「新婚さんだって言うから、幸せいっぱいの初々しい夫婦生活が恋しくて、ッヨイを捨てて村に帰って来たのかと思ったら。ひとりじゃなくて三人も! しかも野牛にハイエナの獣人だなんて。シューターはドスケベだわ」

 ドスケベって言葉を久々に耳にした気がする。
 ああ懐かしい日本語フレーズ。

「そのドスケベの旦那さまのために、奥様がたは読み書きのお勉強会よ。ハイエナのご夫人が読み書きも出来ると言うし、ちょうどッヨイもいるから四人でね」
「おい待てよ、ハイエナの獣人って誰だ? 俺の奥さんはふたりしかいないんだが……」
「ハイエナって言ったら、ハイエナでしょうが。お前は奥さんの出自も知らないで結婚したの? ホント下半身が欲望の固まりみたいな男ね。やっぱりお前はッヨイの奴隷をやっているぐらいが、奥様がたの身のためになったのかも知れないわ。ああ失敗した」

 もしかしてその、ハイエナの獣人というのはエルパコの事を言っているのだろうか。
 エルパコは狐のけもみみかと思っていたら、確か女村長もあれは違うと言っていた気がする。
 そんな事を言い出したのは、確か事件の発端になった建設現場の殺人と放火の夜、女村長と過ごした食事会で言い出したことだ。
 あの時がたぶん、エルパコと女村長がはじめてまともに顔を合わせたタイミングか……

「エルパコ本人は、自分は狐獣人だと言っていたんだよね」
「そうなの? ハイエナなのに何でかしら」
「両親がゴブリンでな。いや、里親がゴブリンの猟師だったんだ。だからたぶんお前は狐獣人と言われて育ったんだよ」
「あれだけ立派な銀の髪をしてるんだから、ハイエナ獣人の女性ってわかりそうなものだけど。それにほら、りっりっ立派な」
「ご子息」
「そう、ご子息がついているでしょう。あれは女性のあの部分が発達して、そういう風に擬態しているのよ。ハイエナの特徴だわ」
「まじかよ。あれ女の子の芽だったのか。男も女もハイエナ獣人はみんなそうなのか? ついてるの?」
「シューターまさか男か女かも確かめないで奥さんにしたの? 変態このドスケベ! ご夫人に失礼じゃないの!」
「いやぁ奥さんじゃないから。しかも男だと思ってたから。本人もついてるから男だと思ってたみたいだし……」

 身も蓋もない会話をしたところで気恥ずかしくなったのか、雁木マリがコホンと咳払いをして立ち上がった。
 考えてみれば灰色の法衣姿を着た雁木マリの姿なんてはじめて見る。
 いつもはノースリーブのワンピース姿だったので、こいつが騎士修道会の聖少女だって事を改めて思い出させてくれた。
 胸元には騎士修道会をあらわす紋章というのだろうか、記号のΠ(パイ)みたいなロゴデザインが施されている。
 パイはないのにパイの紋とはこれいかに。

「さ、手を出しなさい」
「おう」
「脈を診るから。大分無駄に血を流したのかと思ったけど、斬られた時に上手く脇を避けて胸の位置を斬らせたのは上手いやり方だったわね」
「そうなのか?」
「動脈を避けていたので、複数のポーションを投与しただけで大分効果があったわ」

 自分ではあまり意識していなかったが、もしかすると切られる瞬間にとっさの判断で、受ける位置を調整したのかもしれない。
 いや、そんな事が出来るほどあの戦いに余裕は無かったはずだ。
 やはり俺はいろいろと運に助けられたんだと思っていた方がいいかもしれない。

「しばらくは安静にしていないと駄目ね。ここふた晩は食事もしていなくて、全部ポーションで栄養を摂取させたから、まずは食べて胃を落ち着かせる事よ」
「そうかわかった。だがいろいろとやる事があるからなぁ騎士ともなると。家族水入らずでゆっくりしたいんだが」
「聞いてるわ。今はドロシア卿に仕える騎士さまに出世というじゃない。けど、サルワタ教会堂の助祭マテルドの尋問を行うのは、もう少し体が生命力を蓄えてからにしなさい」
「……え?!」
「これは騎士修道会の魔法医療従事者としても、なっ仲間としても忠告するのよ?」

 今とても気恥ずかしそうな顔をして雁木マリが俺に言葉を投げかけながら、脈をとっていた手を離した。
 何を気恥ずかしそうにしているのか知らないが、それより聞き逃してはいけないフレーズが飛び出したじゃないか。
 俺はたまらず離れようとするマリの手を両手で掴んだ。

「おい雁木マリ君!」
「きゃ何するのよ、あなた奥さんが三人もいるんでしょ?!」
「あんた今、助祭を尋問するとか口にしたな?」
「したわよ放しなさいよ、奥様に見られたら妙な誤解されちゃうから」
「助祭はこの村にいるのか?! 逃げたんじゃないのか」
「ええそうよ、あたしたちが村に向かう途中で、怪しげな旅の修道士を見つけたから捕まえたのよ。そしたら村から逃げ出した助祭というじゃない。……ねえ落ち着いてシューター、わたしはまだ結婚とか考えてないの」

 そうか。ブルカ辺境伯のもとへ逃亡する途中で、助祭さまは捕まったか。
 いつまでも雁木マリの手を握りながら助祭さまの顛末を反芻していると、いよいよ顔を真っ赤にしたマリが強引に手を離して距離を取った。

「か、考えさせてちょうだい」
「何をだよ」
「これからの事よ! まずはお友だちからはじめましょう」

 わけがわからないよ。
 俺たち仲間だろ、友達じゃなかったの?
ただいま出先のため、感想レスは後日になってしまいます。
しばしお待ちを!!!!
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