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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

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84 続・奴はカムラ 後

更新遅くなってスイマセン、お待たせしました!

 雷鳴とどろく嵐の夜、俺たちは元は村の倉庫だった冒険者ギルドの出張所をぐるりと包囲していた。
 冒険者ギルドの建物は全部でみっつある。
 受付の有る事務棟と、居住区閣のある宿舎、そして食堂だ。
 カムラは普段、事務棟で遅くまで作業をしているが、今日はすでに宿舎に戻っていることを確認している。
 俺たちが眼を離したすきに移動しているという可能性もあるので、猟師仲間たちの何人かは事務棟や食堂の方にも人員を割いて見張りに付いた。

「よし、中に踏み込もう」
「おうし、いつでもいいぜ」

 ニシカさんは小声だったけれど吠えて見せた。
 屋内に踏み込むためには柄の長い武器は不利になるが、その点で手槍はありがたかった。
 自分の肩ほどの高さ(長さ)しかない手槍なら、屋内でも取り回しがしやすい。
 短剣は最後の最後で抜く予備の武器だ。
 猟師はみんな手槍の使い手というのが最高の安心材料だな。

 そして俺は村の警備責任者という立場だった事をこれほど感謝した事は無かった。
 奴隷騎士などと一部の村人からはさんざん言われていたが、おかげでこうして手元にあらゆる施設の鍵があるのだ。
 音をたてない様に極力静かに鍵を開けると、水分を吸って重くなった扉を開いた。
 ここまで全員無言である。
 ッワクワクゴロさんの指示で、ひとりがカムラが寝泊まりしている事が解っている部屋割りの外壁に移動した。
 内部を探っているのだろう。耳を当てて音を確認してから振り返りうなずいた。
 ここもガラス窓ではなく板窓というのが嬉しかった。
 どうせ突入して捕縛する事が目的なら、相手からこちらの状況が丸見えになってしまう可能性のあるガラス窓よりもありがたいじゃないか。

 まずニシカさんが侵入し、次に俺とエルパコ、そしてッワクワクゴロさん、司祭さまという順番に廊下を移動した。
 残りのゴブリンたち数名が、他の冒険者たちが騒ぎを聞きつけて飛び出した時用に追従する。
 カムラの部屋を目指す途中で、冒険者たちのいびきや寝返りをうつ音、衣擦れの音を耳にして、少しだけヒヤリとした気分になる。背後でもみみをピクピクと動かしながら、エルパコが俺の服の袖を握った。

 部屋の目前までやって来た。
 ニシカさんとッワクワクゴロさんが気配察知をしようと耳を立てている。
 どうだろう、美中年は寝ているだろうか。
 俺は胸の鼓動が早まっていくのを感じながら、手槍を握る手にじっとりとした感触が広がるのを覚えた。
 たぶんそれは、雨に濡れただけが原因じゃない。
 そっと扉に手を置いて中を探っていたニシカさんが、不意に俺の顔を見た。
 ハンドサインを送って来た。

 ニシカさんが腰のナイフを二度叩き、扉の向こうを示す。

 どうやらカムラは俺たちの侵入に気付いたらしい。
 猟師でもないのにそんな事が出来るのか、いや死線を潜り抜けて来た冒険者だからできるんだな。
 きっと殺気を察知したのだ。

 ッワクワクゴロさんがうなづき、俺も強行突破の覚悟を決めた。
 背後でエルパコも身構え、そして僧兵スタイルの司祭さまも手槍を身構えた。

 ドカン。バキッ

 俺が勢いよく扉を蹴りつける。
 古い倉庫を改装した部屋だけあって、扉はだいぶ痛んでいたらしい。
 ほんの一撃で扉の板を破る事が出来たが、どうやら扉そのものを蹴り飛ばす事は不可能だったらしい。
 いちいち構っていられないので、そのまま体当たり気味に突入した。

「カムラ、神妙にしろや!」

 俺に続いて突入したニシカさんが、手槍を構えながら寝台にいるはずのカムラに槍を突きつける。
 そこには肌着姿をした男女が三人いた。
 ニシカさんが使った発光の魔法のおかげで顔の確認はバッチリと出来る。
 男は言わずと知れた冒険者ギルド長の美中年カムラ。どんぐりの様な眼をして俺たちを見つめていた。
 そして女たちふたりは村の年頃娘で、ギルドで事務作業をやっているはずの女たちだ。
 女たちは状況を飲み込めないのか眼を白黒とさせて不安な表情をしている。

「さあ、俺たちに大人しく捕縛されてもらいましょうか。君たちも抵抗しないように」
「なるほど。俺を捕まえると……」
「そうだぜ。ネタは上がってるんだよ! 手前ぇが休憩小屋でしっぽりしてた事も、石塔でマイサンドラと会っていた事もな。そろそろオレたちの手をこれ以上わずらわせるのも飽きただろう。ん?」

 本来は俺が言いたかった口上を、手槍を突きつけながらニシカさんが奪って言ってしまった。
 だが、カムラはこういう時の常道よろしく、毛布をバサリと投げ捨てて俺たちの視界を奪おうとした。

「そうはいくか! くらぇ!」
「キャア、風が」
「服がズタズタに?!」
「ちょ、ニシカさん待ってくだ――」

 叫びを上げたニシカさんが、狭い室内の中で竜巻の魔法を現出させたかと思うと、俺たちに覆い被さろうとした毛布を強引に巻き上げる。
 肌着姿のまま剣を鞘走りさせようとする美中年カムラの姿が暗闇に浮かんだ。

「させるか!」

 後から突入したッワクワクゴロさんやエルパコも加わって手槍をカムラに突き出そうとしたけれど。
 カムラは無言のまま鬼の形相で右手を突き出すと、そこから竜巻の中で水の魔法を発射したのだ。

「うおっ!」
「ちょまやめ!」
「わっ!」

 竜巻に水の塊が突っ込んで、部屋の中いっぱいに大粒の水玉がぐるぐると巻き上がる格好になった。
 自分が先ほど抱いていた女たちの事なんかお構いなしの美中年だ。
 くそう、カムラが魔法を使えるなんて聞いていねえぞ!
 だがそう後悔するには遅すぎる。
 俺が片目で美中年を見やると、巻き上げる風圧でブロンドの髪を滅茶苦茶にしながら、カムラが板窓から外に飛び出す姿がチラリと見えた。

「逃げたぞ! ニシカさん竜巻を消してください!!」
「お、おう。待ってくれ!」
「女たちを取り押さえろ、お前たちこっちに来い!」

 俺もカムラを追って板窓の外に飛び出す。
 すでに美中年は外で見張りに付いていた猟師仲間たちを例のウォーターボールを使って倒していたらしい。
 雷鳴とどろく中を逃げようと駆け出したところだった。

「大丈夫か」
「いでえええ、腕をやられた!」

 そんな叫び声を聞きながらも、俺が走り出しエルパコが背後から少し遅れて追って来る様だった。
 ニシカさんとッワクワクゴロさんは、チラリと見やったところだいぶ遅れている。
 くそう。畜生!
 美中年カムラは何故バレたんだという驚愕の顔をしていたけれど、それは俺たちだって同じだ。
 俺たちが包囲網を敷いていた事に気付かれたのは経験の差か、運が味方をしているのか。

 何としても俺はここで一連の事件の真犯人を捕まえて事件を解決、村に、俺の居場所に平和をもたらすんだ。
 嵐で泥まみれになった地面に足を捕らわれそうになりながら、必死で逃げようとするカムラを追った。
 あいつは、どこに逃げようとしているんだ。
 この方角からすると……
 厩だ、村で数頭しかいない馬を繋いでいる厩に向かっている!
 しかも美中年は俺と一歳違いでしかないのに、さすが冒険者だからなのか足が速い!

 逃がしてたまるか!

 俺そう心の中で悔しさを滲ませながら追いかけているところ、側面から風雨を切り裂く様に一条の疾風が走り抜けた。
 弓矢だ。
 この強弓はニシカさんだ。いいぞ!
 走り抜けた矢は鋭く美中年カムラの脚に刺し込まれたと思うと、カムラはもんどりを打って転げた。
 そのまま走りながら俺は手槍を構え直すと、起き上がろうとしているカムラに突き込もうとした。

 手槍は空を切り、咄嗟に体を入れ替えたカムラが抜剣する。
 剣を振りかぶった美中年は、慌てて俺が引き上げた手槍を見事に断ち切った。
 重く体重を乗せながら、それでいて素早い一撃だ。
 たぶん俺とカムラの技量はほぼ同格なんじゃないかと改めて俺は思う。
 すぐさま真っ二つに割れた手槍を放り出して、短剣を抜いた。

 互いにその瞬間、距離を広げた。

「シューター君……」
「まさかあんたがブルカ辺境伯のスパイだったとは驚きだよ」

 俺とカムラは互いに肩で息をしながら、ジリジリと剣を突きつけ合う。
 例え実力拮抗な気がしたとしても、残念ながらカムラは太腿に矢を受けている。

「どこで気が付いた。君の言うアリバイとやらはしっかりと作っていたはずだから、疑われるはずが無かった」
「だってそうでしょう? 美中年のくせにいままで女に不自由していたなんて言葉は、ブサイクの俺からすれば信じられないんですよねえ」
「…………」
「しかも。女にモテた試しがないというのに、あちこちの女に手を出しているじゃないですか。とんだ大嘘だ。村長さまのところのメリアに、ギルドの女たち、他にはいったい誰を垂らし込んだんですか。ええ?」
「これも任務のためだよ」
「任務だと? 任務でおっさんをそそのかして、カサンドラを強姦させたのか。言え!」
「あれは、助祭とマイサンドラが計画してやった事さ。俺には関係ない」
「だがあんたがこの村を台無しにするための計画のリーダーなんだろう。その辺りのところ、捕まえて自白してもらおうか」
「俺も簡単には捕まるつもりがないさ、そうされるぐらいなら死ぬ方を選ぶ……」

 マジかよ。
 カムラはそう言うと、改めて白刃を俺に突き出してきた。
 だが、やはり太腿を射抜かれて脚に力がこもらないらしい。
 あと一歩のところを俺はひらりとかわしながら、カムラの脇腹に短剣を走らせた。
 俺の短剣はさほど切れ味がいいものではない。
 この世界で愛されている様な刃広の長剣ほど肉厚な刃も持っていない。

 ひるがえって数合ほど剣を交えながら互いに決定力に欠ける一撃で斬り結んだ。
 白刃を人間と交えるのは恐ろしい。
 実力差があるならば多少心に余裕が出来るはずだが、カムラはやはり剣達者だった。
 太腿の傷を差し引いても、刃渡りの短い俺の剣で肉薄する事はかなわない。

「大人しく捕まる気はないですかね」
「俺に舌を噛み切って死ねというのかい? 後生だよ」
「これまでさんざん村を滅茶苦茶にしておいて、好き勝手な事を言ってくれますね」
「どのみち自白ポーションなんか打ち込まれるなら、舌をかみ切るさ。君も騎士なら、情けをくれないか」
「何が情けだ!」
「オッサンドラは最後に希望をかなえられた。俺は情け深い男さ」

 きっと俺は挑発に乗せられてしまったんだろう。
 それをわかっていながら、挑発に乗って剣を突き込んでしまった。
 また斬り結びながら互いに距離を測り合った。
 らちがあかねぇ!

 苛立ちを覚えた俺とカムラが、ほぼ同時に剣を繰り出した。
 カムラは水平に腕の力いっぱいに長剣を振り込んでくる。
 俺は覚悟を決めて、上段に山を返しながら短剣を振り下ろす。
 双方ぶつかり合った。

 相手の距離を詰めて攻撃を躊躇させる様に俺が前進すると、長剣の刃の付け根が俺のあばらに強く叩き付けられる感覚が走り抜けた。
 斬られた、という自覚と俺は引き換えに、カムラの頸根から胸元に向けて深く強く、俺の剣が切り抜けた。

 くそう。しくじった。熱い、痛い。

 崩れ落ちるカムラを見下ろしながら、短剣を取りこぼして斬られた脇を俺はたまらず抑え込んだ。
 結局、手加減する余裕は無かったな……

「……見事だ、シューター君」
「ああそうかい」
「君は俺の邪魔をする人間になるんじゃないかと、最初から思っていたよ……」
「あんたのおかげで、俺は死ぬほど痛い……」

 見下ろしているカムラは頸根からドバドバと流血をさせて、暗がりの中でじわりと黒い血だまりを作っていく。
 俺は脇を抑えながらカムラの手から剣を蹴り飛ばした。
 抵抗する力も失ったカムラは、ただぼんやりと俺を見上げているらしく、徐々に息が浅くなっていく。
 これは、もう手当てをしても助からないだろうな。
 血が流れ過ぎた。自白は期待できない。
 どこかで冷静になった俺がそういう思案をしていると、最後の最後でカムラが口を開く。

「……これも仕事だ。情報は死んで異世界まで持っていく事にする。悪く思うなよ」
「うるさいよ、あんたしゃべり過ぎだ」

 その言葉を聞き届けて短剣を拾い上げると、冒険者カムラに止めを刺した。
 俺の腕で首を跳ね飛ばすなんて出来ないから、胸にひと刺しだ。
 せめてもの情けのつもりだったが、上手くできたかはわからなかった。

「シューターさん、大丈夫?!」
「みんな手を貸せ、傷口を抑えるんだ!」

 意識が遠のいていく。
 徐々に足の力がなくなっていく。
 周囲で駆けつけて来た仲間たちの騒がしさを耳にしながら、俺は脱力した。
 俺もカムラの事は言えない、体から血を流し過ぎたな。
 これはしばらく静養が必要になるかもな。
 アレクサンドロシアちゃんは何というだろうか。よくやった? 怪我を負うとは何事か?
 でも、おかげで家族水入らずゆっくりできるかな。
 そんな事を考えていると、消えゆく意識の向こう側で、最後に何かが聞こえた。

「おい、灯りと馬蹄の音が近づいて来るぞ!」

本日、おかげさまを持ちましたブクマ3000、総合得点8000ptに到達する事が出来ました!
これもひとえに読者のみなさまのおかげです。
ありがとうございます、ありがとうございます!
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