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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

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閑話 花嫁修業 ~カサンドラの場合 後編

先日分更新、また遅刻してしまいました…
すいません><

「あの、どういう事でしょうか?」

 言葉の意味を理解できなかったわたしは、メリアさんにもういち度聞き返しました。

「ホント学のない猟師の娘は嫌になってしまうわ。はぁ、あなた身の程をわきまえなさいと言っているのよ」
「…………」
「腕も無いからワイバーンに殺された猟師の娘風情が、たまたま嫁いだ先の男が騎士になったからと言って、貴族夫人ですって? そんな冗談はまるで笑えないわ。その上、新しい家まで下賜されるというじゃないの。とんでもない話だわ」

 食堂で対面同士に座っていたわたしとメリアさんは、互いに顔を見合わせました。
 眼を細くすぼめて、じっとわたしを睨み付けています。
 どうしてこんな事を急にメリアさんが言い出したのかわからず、わたしは当惑してしまいました。
 けれども、何となく見当はついています。
 貧しい独り身だったわたしが夫と突然結婚して、その夫が騎士さまに叙勲されたのです。
 毎日が大変な重労働だという農家の娘さんからすれば、わたしはやっぱりいけ好かなかったのでしょう。
 シューターさんはとても立派な方なのでご出世なさる事は当然ですが、同年のわたしが玉の輿に乗ったのがきっとお嫌なのです。

 けれど、そのまま言わせておくわけにはいきません。

「すべては村長さまのお決めになった事です。わたしにはどうする事も出来ません」
「だから気に入らないと言っているのよ!」
「…………」

 語気を強めたメリアさんに、わたしはびっくりしてしまいました。
 これ以上わたしが言葉を続けても、きっと聞く耳は持ってくださりません。
 それにこれ以上の口論になってしまっては、夫の立場を悪くしてしまいます。
 正妻として、こういう場合どういう風に振る舞ったらいいのでしょう?

「……本当なら、今頃結婚しているのはわたしのはずだったのに」
「あの、メリアさんどういう事ですか?」
「わたしがこうして村長さまのお屋敷で行儀見習いをしていたのは、ご奉公を終えれば村の幹部さまと結婚させてくださると言ってたからだったのに。だから年頃になって婚期が少しぐらい遅れてもご奉公を続けていたのに……」

 わたしが押し黙っていると、メリアさんとルクシちゃんがふたりで会話を始めました。
 お話を聞いている限り、村の幹部と結婚するつもりだったメリアさんは、当てが外れたのでお怒りなのでしょうか。

「あなたみたいな猟師崩れの娘が……」
「メリアさんは、シューターさんと結婚したかったんですか?」

 わたしは思い切って、頭に浮かんだ疑問をぶつけてみました。

「この村に、あんな裸の奴隷と結婚したい年頃の娘がいるなんて、そんな事あるわけないでしょう!」
「それならばわたしが誰と結婚しようと関係ないはずです。シューターさんが騎士に叙勲されたのは、シューターさんが優れた人物だったからです」
「どうかしらね、あの男は村長さまに取り入ったのよ!」

 やっぱりメリアさんは聞く耳を持ちません。

「全裸奴隷は前から村長さまが気をかけておられたし、ギムルさまと(いさか)いになった時も何故か許された。きっと村長さまと大人の関係なのね。だから許された。つまりあなたはただのダミーという事かしら? あははっ、そう思ったら傑作だわ!」

 急に笑い出したメリアさんに、隣に座っているルクシさんも唖然としています。
 夫はわたしの事を大切にしてくださっています。
 メリアさんがどういう言葉を並べようと、わたしは正妻として夫をしっかり信頼するつもりですから。
 ちょ、ちょっとだけ村長さまと夫の関係が気になりましたけど、正妻はわたしだと、村長さまも言ってくださいましたし。
 きっと大丈夫です。

「同じよそ者に騎士叙勲をくれてやるなら、カムラさまを騎士にするべきだったのよ。街では名のしれた冒険者だと言うし、とってもお強いんですって。何より素敵じゃない?」
「まあ、カムラさまはお年のわりに独身だと言うし、有望株ですよねえ」
「まったく、どこかの奴隷騎士さまとは違うわね」
「カムラさまが騎士になられても確かにおかしくないですねえ。冒険者のギルド長ですもんね」

 ルクシちゃんの言葉を聞いて同意したメリアちゃんが、嫌味っぽくわたしを見ながら笑いました。
 なるほど、メリアさんはシューターさんじゃなくて、カムラさまが騎士になるべきだとお思いなのね。
 けれどもその冒険者ギルド長のカムラさんには、つい先日起きた建設現場の殺人と付け火で、犯人の疑いがかけられているのを、わたしは知っていました。
 情報を漏らせば夫の立場が悪くなるので、言わないでおくことにします。
 かわいそうなメリアさん。

 そう言えば。
 少し前に夫が「村長さまンところの下働きの女は、気立てがよさそうだね。俺には気立てがいいところを見せてくれたことが無いけど」と言っていました。
 ところが、目の前にいるメリアさんには、気立てのよさそうなところはまるでありません。
 確かに村長さまの側ではいつもメアリさんは明るく振る舞っておられましたし、村長さまのご子息のギムルさまの前でも、とても気の利く女性だなあと思っていました。
 けど、これが彼女の本心なのでしょうか。
 きっとそうなのでしょう。

「まあ、あなたはせいぜい奴隷の妻として幸せになってくださればいいわ。その代わり奴隷の妻らしく身の程をわきまえなさい」

 わたしは言い返す事をやめました。何を言っても無駄ですからね。
 けれども、わたしはとても悔しかったです。
 その時です。

「へえー。蛮族の農民というのは、貴族に向かってそんな無礼な言葉を使っても許されるんですか? 義姉さん」
「あ、ダルクちゃん」

 ダルクちゃんの声がして振り返ると、そこには村長さまの書斎で礼儀作法と領内の掟をお勉強していたはずの彼女が立っていました。
 正々堂々、胸を張ってわたしたちを見比べているダルクちゃんはかっこよかったです。
 さすが族長の娘として育ったんだなって羨ましくなりました。

「義姉さん、そろそろ時間だから旦那さまのところに行った方がいいですよう」
「でもダルクちゃんはお勉強があるんじゃ?」
「今日はお家に帰って、この本を読みなさいと言われたのです」
「本、ですか?」
「国法をまとめた本ですよ。ここは色々うるさい小鳥がぴいちく、ぱあちく鳴いていますからね。落ち着いて勉強するならお家に帰った方がいいと、蛮族の領主さまが言っていたのです」

 チラリとメリアさんを見たダルクちゃんは、わたしの腕に手を回して外に連れ出そうとしました。

「さっ、お家に帰りましょう。旦那様たちが待っていますから!」
「は、はい」

     ◆

 その日は、わたしを除く家族総出で夜回りに出かける事になっていました。
 建設現場の付け火をした犯人はまだ見つかっていませんが、次の殺人や放火が起きない様に、見回りと監視をするのだそうです。
 旦那様さまは、いつも水汲みに使っている天秤棒を手に持って、腰にも鍛冶場でお借りした剣を腰に差しています。
 ダルクちゃんも旦那さまのメイスを借りて、死んだお義父さんのチョッキを服の上から羽織っていました。
 夫とお揃いだと言って喜んでいるダルクちゃんは、かわいいです。
 エルパコちゃんは別行動をするそうですが、いつでも合図を出せる様にと短弓と矢笛を持って家の外に出ます。

 外には鱗裂きのニシカさんが、いつもの格好で暗がりに現れました。

「おう、みんな揃ってるな。今日は初日だからしっかり見回りしようぜ!」
「こんばんはニシカさん。声が大きいですよ」

 これから夜回りに出る夫たちは、何かむずかしい打ち合わせをはじめました。
 わたしは家の外までバジルちゃんを抱いて出てきたのですが、打ち合わせを終えた夫がわたしの顔をまじまじと見てきます。

「夜回り、お気をつけていってらっしゃい」
「しっかり戸締りして、今日は早く寝て置く様にね」
「はい。わたしだけ寝てしまうのは申し訳ないのですが……」

 そんな風にわたしが言うと、

「そのかわり家をしっかり守ってくれればいいからね。バジル、お母さんの事をしっかり助けるんだぞ」
「キュイ!」
「何かあったらおじさんたちを呼ぶんだ。いつものギャーっていうアレな」
「キュウウウ」
「よーしよしよし。よろこんでますねえ、ちゃんと理解してますねえ。偉いぞあかちゃん」

 夫はバジルちゃんの首をなでなでしてあげて、改めてわたしを見ました。

「それじゃあいってきます」
「はい。ダルクちゃんもエルパコちゃんも、しっかり」
「わかってますよう。もしもの時は旦那さまにしっかり守ってもらいますからね」
「ぼくも、大丈夫だから……」

「おう、じゃあお前ぇら行くぜ!」
「だからニシカさん声が大きいです。夜ですからね?」

 夫たちは夜回りに出かけていきました。
 いつまで使っても油の無くならない魔法のランタンを持った夫たちが遠くまで行ったのを見届けて、わたしは戸締りをしてドアに閂を降ろしました。

「じゃあバジルちゃん。ちょっと早いけどお布団に入りましょうか」
「キイイィ」
「駄目ですよ? 旦那さまがいないからって、甘やかしていてはシューターさんに怒られるんだから。あかちゃんはたくさん寝ないと大きくなりませんからね」
「キュゥ」

 土窯の火を落として寝台に潜り込むと、いつも三人で寝ているその場所はとても広々と感じました。
 父と生活している時も寝台はお父さんとわたしでひとつずつ。
 父が亡くなってからは、この家にひとりでした。
 シューターさんと結婚してからもそう。
 しばらく夫は街に出かけていたので、その間はひとりきり。
 やっぱりいつも三人で寝ている寝台は、ひとり寝には寂しすぎます。

「おいで、バジルちゃん。夜は冷えるので毛布をかぶりましょうね」
「キゥ……」

 あかちゃんを抱いてしばらくしていると、とても寂しい気持ちがこみ上げてきました。
 シューターさんが街から戻ってしばらくは、狭い寝台にふたりで寝ていたのを思い出してしまったのです。
 エルパコちゃんが来て、タンヌダルクちゃんが来てからは、ふたりきりの夜もご無沙汰ですもんね。
 バジルちゃんが寝入ってしまったのを見届けて、寂しさを紛らわしたくなって。
 わたしは体の芯が疼くような気持になって、自分で慰めてしまいました。

 気が付くとわたしは寝てしまっていた様です。
 お家の外で何かの物音がした後、閂がずれる音がしました。

 もしかするとわたしは長い時間眠りについていたのかも。
 夫たちが帰って来て、わたしが寝ているのに気を使って静かにドアを開けているのかもしれません。
 そう思うと申し訳ない気持ちになって、わたしは静かに寝台から起き上がりました。
 暗がりの中でも、寝ぼけまなこのバジルちゃんが少し首を持ち上げて「キュイ?」と鳴いたのがわかりました。

 静かにドアが開き、そしてまた閉まると閂をかけなおしています。
 頭が冴えてくるとどうやって閂をはずしたんだろうとふと疑問に思いました。
 おかしいです。

「シューターさん お帰りになられたのですか?」

 どういうわけかひとつだけの気配にわたしは恐ろしくなって、夫の名前を問いました。
 夫よりも肩幅が広く、恰幅のいい感じに見えるシルエット。
 なぜか息遣いも荒くこちらに近づいてきます。

「……違う、あなたシューターさんじゃないですね?」

 シルエットはその質問には答えてはくれませんでした。
 かわりに、

「カサンドラ。カサンドラ!」

 そう荒い息で口にしたのはオッサンドラ兄さんでした。
 兄さんはそう言った直後に、寝台から体を起こしていたわたしを無理やり押し倒したのでした。

「カサンドラ、俺はもうこうするしかなかったんだ」
「やめてください兄さん! どういうつもりですか?!」
「カサンドラが、カサンドラが悪いんだ。あんな男に体を許すから、どうして俺じゃなかったんだ」
「やめて、ください……ひとを呼びますよっ」

 兄さんは強引に私の体を押さえつけて。
 わたしの服を脱がそうとしました。
 これ以上いけません。

「お願いです、兄さん……」

 暗闇の中で目を覚ましたバジルちゃんの尻尾を、わたしは強く握りました。
 たすけて、シューターさん……


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