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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

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71 奴はカムラ 5

「今、湖畔でお城と集落を建設中というのはご存知だと思います」

 俺は居住まいを改めながら司祭さまの表情を見た。
 視線の端には右手をしっかりおさめている。
 あまりその手に意識を持っていきすぎると相手に疑われるかもしれないので、そこはうまく柔軟にだ。
 すると司祭さまの方から先制のジャブがぶち込まれて来た。

「村人が殺害された件は、大変痛ましく思っております」
「そうなんですよねえ。犯人の捜索がかなり難航しておりまして、お恥ずかしい話がジンターネンさんをはじめとする村のみなさんが、たいそう不安がっておりまして」
「ああそれで外が騒がしいのですね?」

 司祭さまは右手のを握ったり開いたりした後に、すっとテーブルの下に隠してしまった。
 怪しいな。
 これは怪しい。

「さてそこで問題なのですが、せっかく二十日あまりかけて作り上げたお城や集落が付け火で台無しになってしまいました。犯人捜しは村長さまの指揮のもと、これは必ず解決させます。しかし簡単には解決できない問題もある」
「ほう、それは何でしょう?」
「村長さまの事業を、邪魔したい人間たちを何としても封じ込めないといけないという事です」

 俺は言葉を区切って司祭さまを見やった。

「村長さまは、湖畔の新しい集落に礼拝堂か教会堂か、そういうものを建設する事は可能かとお考えです」
「ほう、村長さまがそんな事を?」
「今回の建設現場の付け火は、村長さまと敵対する領主が行った可能性が高いと考えているのです。そこで騎士修道会との関係を強化する事で、ライバル勢力を排除したいという狙いがあるわけですよ」

 左右に腰かけたカサンドラとタンヌダルクちゃんを司祭さまが交互に見やった。
 最後に俺たちの背後に立っているエルパコにも視線を送ったらしい事がわかる。

「村長さまの敵対勢力、ですか? ふむ。今回の事件、わたしはてっきり騎士さまに対する邪魔だてをする者の犯行かと思ってしまいましたが」
「俺のですか? まさか。俺を陥れて何かいい事があるんですかね」
「あなたはよそ者だ。それだけで村の人間が疎ましく思うのは十分だと思いますよ。その上ご本人は奴隷堕ちした御身分、そのご正妻は村では鼻つまみ者の猟師の娘、第二夫人はあろう事か野牛の女、さらに愛人まで獣人ときたものだ」
「…………」
「村の人間からすれば、得体の知れない奴隷騎士が怪しい女たちを集めて力を持つ事ほど恐ろしい事は無いでしょう。辺境の田舎村というのは、とにかく排他的なのです」
「司祭さま、あんたもそう思っているのか?」
「はっはっは、とんでもない。わたしは街の生まれですからね。わたしがこの村にやって来てはや十年が経ちましたが、その間に似たような扱いを受けたからわかることですよ」

 司祭さまはそう言って笑ったけれど、見事に話題をはぐらかされてしまったような気分だった。
 もしも俺だけを狙った事件だと言うなら、それは直接的に俺の関係者を狙い撃ちすればいいだけの話だ。
 やはりこの男は怪しい。
 騎士修道会の勢力を村長さまの領内に引き入れるのは、もしかしたら早計なんじゃないかね。
 少し俺は考えを巡らせたけれど、答えは出なかった。
 そもそも雁木マリがもうすぐやってくるのだ。
 騎士修道会の聖女さまがここにいるのだから、騎士修道会の事については彼女に聞いた方がいいのかもしれない。

「まあとにかく、要件は理解いたしました」
「ありがとうございます。ぜひ騎士修道会に掛け合っていただき、宗教施設を湖畔の集落に建設していただければ幸いです。出来るだけ立派なものであれば、それだけ村長さまと修道会の結びつきが強いという事の証左になりますからね」
「わかりました。さっそくにも(ふみ)をしたためましょう」
「よろしくお願いします」

 立ち上がって執務机に向かう司祭さまを見やりながら俺はため息をついた。
 ついでだ。
 疑問に思った事はこの際確認しておく事にしよう。

「ところで司祭さま」
「何でしょう騎士さま」
「騎士修道会に所属するみなさんは、みんな若い時に修道騎士かなにかになって軍役に就くものなんでしょうか?」
「軍役、ですか」
「そうですね。具体的に言えば軍事訓練みたいなものを受けて剣術や馬術、魔法の練習なんかはやったりするものなんでしょうかねえ」
「ああ、剣術ですか。騎士修道会はもともと辺境の教化のために組織された武装教団でしたので、慣例としてそういうものも残っていますね」
「すると司祭さまも?」
「ははっ昔取った杵柄(きねづか)というやつでして」

 撃剣の真似事をして見せる司祭さまを見て、俺はますます怪しいと思った。

「それでは今も武術の稽古を続けておられるのですか?」
「まさか。この歳でそんな事をやると腰を痛めてしまいます。まあ、そこいらの農民よりは使えると思いますが」

 この発言は嘘だな。
 今も司祭さまは背筋をぴしゃりの伸ばしているし、掌の握りまめは新しい。
 この男が建設現場で見張りに立っていた男たちを殺したのか?

「わかりました。今はとにかく村の警備をする人手が足らずに困っています。見回りのためにお力をお借りする事もあるかと思いますが、その際はよろしくお願いします」
「そうですか。まあわたしよりも若い、助祭の方が仕えると思いますが、数が足らないという事なら見回りには喜んでご協力させていただきますよ」

     ◆

 司祭さまのご配慮で教会堂の裏手から外に出る事にする。
 俺たちを追いかけて集まっていた村の連中は、すでに三々五々解散していたらしい。
 村人だって暇じゃないからな。

「エルパコ。司祭さまの態度にどこか不審な点は無かったか?」
「ん。少し鼓動が速かった、かな」
「鼓動が速い、つまり何か嘘をついていたという事かな」

 何か怪しい事があれば、ドキドキしたという事は考えられる。
 俺が武術の話を振った時に鼓動が高まったという事なら、これは嘘をついたという事も考えられた。
 エルパコは優秀だなぁ。

「どうかな。そこまでは、わからないよ……」
「いやいいよ。怪しい事に間違いはないからな。それだけわかっただけでも収穫だ」

 教会堂を振り返って俺が言った。
 裏口に立った司祭さまは、俺を見てお辞儀をしていた。
 距離はもう百メートルほど離れているから、俺たちの会話を聞かれたという事は無いだろう。
 相手がッワクワクゴロさんやニシカさん、あるいはエルパコなら別だが、安心していいはずだ。
 俺もそれを見てペコペコしておく。

「司祭さまが怪しいとは、どういう事でしょうか?」
「ああ、それな」

 カサンドラが俺を見上げながら質問をしてきた。
 もともと信心深いのか、司祭さまを疑うという考えが奴隷騎士婦人にはないらしい。

「司祭さまの掌に、まだ真新しいまめがあったんだ。あれは剣か何かを手に持った時に出来るまめの類だ」
「まめ、ですか」
「普段から剣を握っているのならまめは潰れて硬くなって、やがて剣だこになるが、あれは久々に剣を持ったという感じだったな」

 俺が教会堂を離れて猟師小屋を目指しながら話を続けた。

「つまり、怪しい人間がもうひとり浮上したという訳だ」
「あの蛮族の司祭さまが怪しいわけですね。ねえ旦那さま、野心の強い男は禿るといいますよ、あの司祭さま、禿てるから丸い帽子を被ってるんですきっと」

 タンヌダルクがそんな事を唐突に言い出した。
 野心の強い男は禿るか。
 モノの本によれば、男が年齢とともに髪の毛が薄くなるのは男性ホルモンとの関係があるらしい。
 性欲が強い男は禿るという事だろうか。俺はそのモノの本を、話半分で読み飛ばしていたので覚えていない。
 俺も奥さんをふたりも囲っているから、やっぱり性欲が強い男だろうか。
 そのうち禿ちゃうのかな。

「奥さんたち」
「はい、シューターさん」
「なんですかあ旦那さま?」

 咳払いをして俺が言うと、ふたりの妻たちが不思議そうな顔で見上げて来た。

「俺が禿ても、嫌いにならないでね?」

 そんな俺の必死のアプローチを、傍らに立っていたエルパコがぼけーっと見上げていた。
 お前はまだ若いから安心していられるだろうが、男はいつか禿るか白髪になるかの二択なんだ。
 二択なんだからな!

     ◆

 さて。司祭さまに用意してもらった文と、女村長がッヨイさまにあてた手紙、それからオーガが流浪している原因についての証言をまとめた手紙の三通が揃ったわけである。
 この村には伝書鳩が飼育されているので、これを使って街のッヨイさま宛てに飛ばす事になる。

「この伝書鳩は特別でな」
「ほう?」
「特に魔力に優れたもの同士を掛け合わせて、子孫を残したものだ」

 ふたたび女村長の屋敷にやってくると、アレクサンドロシアちゃんがそう言って屋敷の裏手にある鳩舎にいざなってくれた。
 この鳩は確か、ギムルが冒険者ギルドから連れ帰って来ていた様に記憶している。

「特定の航路を覚えたこの魔法の伝書鳩は、猛禽よりも早く飛んで目的地に届ける事が出来る」
「なるほど、こいつは確か冒険者ギルドから連れて来た鳩たちなんですね」
「ああそうだ。他にもこの足の目印が赤いのがわらわの実家、こちらの黄色いのが王都の親族に飛ぶ」
「それでこの青いのが冒険者ギルド産まれの子たちなんですね」
「そうだの。ギムルは今や人質として野牛に差し出した手前、馬を走らせて使いにやるわけにもいかん。シューターも馬には乗れんのだろう?」
「馬には乗れませんが、馬に引かれた事ならありますよ」

 むかし俺は馬に蹴散らされた事があるが、それはまた別の話だ。

「お兄ちゃんのそういう冗談は好きだが、今は一刻を争うので続きはまた今度にしようかの」
「はは、お兄ちゃんはよせ」

 妻たちの前で堂々とからかう様に「お兄ちゃん」などと言う女村長に、俺は顔をしかめた。
 案の定、村の絶対権力者であるアレクサンドロシアちゃんが「お兄ちゃん」などと言うものだから、カサンドラもタンヌダルクちゃんもびっくりしている。
 いつも通りの顔をしているのはけもみみだけだ。

「では、この魔法の鳩に頑張ってもらう事にしよう。今回はこの赤い目印の鳩を使う。実家経由でッヨイに届けるので、一両日中には返事が返って来るであろう」
「そんなに早く?」
「何事もカンペキという事はない。建設現場に付け火があったようにな」
「はぁ」
「が、上手くいけばそうなるという話だよお兄ちゃん」

 フフフと笑った後に、女村長は掌から伝書鳩を解放した。
 伝書鳩はバサバサと羽ばたいたのちに屋敷の上空をぐるぐるとまわり、やがて遠くに向けて空高く翔け上がっていった。
 すっかり流してしまいそうになったが、お兄ちゃんドロシアちゃんの間柄は、ふたりだけの秘密だったんじゃないのかよ。

「それで司祭が怪しいという話だったな」
「はい」
「カムラに続いて、司祭も怪しいという事か」
「剣や刃物の心得がある人間は、まず冒険者、次に猟師や軍役に就いた人間が疑わしいという風に睨んでいましたが、教会堂の関係者も剣が出来るという事を見落としていました」
「ならば村の司祭、助祭も犯人候補という事になるかの」

 親しく会話している俺たちに驚いた顔をしたままの妻たちはそっちのけで、会話は続く。

「助祭もですか」
「そうだろう、助祭も騎士修道会の人間だから、剣の訓練を受けているだろう」
「確かに」
「しかしこれは困ったな。疑えば疑うほど、誰が犯人だかますますわからなくなってきたではないか。頼みにする騎士修道会まで怪しいとなれば、どこでだれがわらわのライバルたちと繋がっているのか見当もつかん」

 思案しながら鳩舎の扉を閉める女村長を見ながら、俺はまだ見落としているものはないかと頭を巡らせる。

「あの、シューターさん」
「ん? どうしたんだいカサンドラ」
「司祭さまが、今回の事件は村長さまを妨害するのが目的ではなく、シューターさんを妨害するためなのではないかと仰っていた件は、どう理解すればいいでしょうか?」

 おずおずとカサンドラが質問をしてきた。
 ああ、確かに彼はそんな事を言った気がする。
 だがあれは俺の疑念をかく乱するために彼が口にしたのではないか。

「そう言えば旦那さまにそんな事を言っていましたねえ、義姉さん。わたしはてっきり言い訳を並べているだけかと思っていましたけれど」
「俺もそう思っていたんだけどね」

 タンヌダルクちゃんと俺が顔を見合わせてそう言っていると、鳩舎から振り返った女村長が興味深いと言う顔をしているじゃないか。

「司祭がそんな事を言ったのか」
「は、はい。そうです」
「申してみよ」
「シューターさんはよそ者ですしわたしは鼻つまみ者の娘、ダルクちゃんは野牛だしエルパコちゃんも獣人でしょう? だから、その……」
「つまり、個人的な犯行でこんな事が行われたという事か。ありえぬ」

 俺の立場だけを狙い撃ちにして、女村長の計画を阻止する大それた人間がこの村にいるという事か?
 果たしてそんな奴が何処にいるんだ。
 俺の事を快く思っていない人間は領内に多くいるだろうけれど、さすがにそんな事がバレたら死刑だ。
 いったい誰がそこまで俺を恨むって言うんだよ。

「は、はい。申し訳ございません」
「よい。わらわが意見を求めたのだ。気にするな」
「それに軍事訓練か稽古を受けた事も無いのに、剣の扱いが出来る人間がいるというのもちょっとね。建設現場の付け火の犯行も、間違いなく共犯者がいないと出来ない訳だし。少なくとも何者かと繋がっていないとこれは出来ないよ。個人で俺に恨みがあるからだけじゃ不可能だ」

 そう。
 恨みだけでひとをふたり殺し、そのうえで建設現場を付け火して回ったというのはひと一人だけでは達成不可能なのだ。
 いずれにしても犯人をのさばらせていては、この上付け火に殺人を重ねられてはいけない。

「村長さま。とにかく今夜から、警備を強化しましょう」
「うむ」
「エルパコは予定通りカムラさんの動きを見張れ」
「うん、わかった……」
「それと俺とニシカさんは交代で村を見回りする様にするか。後でニシカさんと相談する事にします」
「うむ。しかしひとりで大丈夫か?」

 ニシカさんは恐らくひとりでも大丈夫だろう。
 周辺を警戒する能力も猟師だからか長耳だからか優れているし、けどまあひとは多い方がいい。

「ニシカさんは猟師の誰かと組む様にするのがいいかな」
「あのう、わたしも兄さんや旦那さまほどじゃないですけど、剣は使えますよ?」

 そこでタンヌダルクちゃんが手を上げた。

「見張る眼は多い方が良い。わらわも後日は加わるとして、野牛の娘も夫と共に巡回に加わるがよいぞ」
「わかりました」

 俺は女村長に頷き返した。

「頑張ってね、ダルクちゃん」
「はい義姉さん!」
「それじゃあ俺の剣も、いざという時のために昼間のうちに研ぎなおしてもらった方がいいな」

 俺は腰に差した短剣を抜いて白刃を改めた。
 いくつか刃こぼれがあるし、血脂は自分で手入れしていても限界がある。

「久しぶりに鍛冶場に顔を出して帰るか」

 俺がそう言った時、カサンドラの顔に緊張が走ったのが見えた。
 同時に女村長もぶすりとした顔をした。
 まあ、おっさんとは色々あったからなあ。
 鍛冶場で顔を合わせなければいいんだがねえ……
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