挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

74/552

68 奴はカムラ 2

「さて困った事になった。俺たちよそ者はこれから犯人捜しでお互いに疑心暗鬼になるな」

 やれやれ、という具合に天を仰いで美中年カムラがそう言った。
 女村長の去った後、資材置き場に俺たちは集まった。
 村の冒険者ギルド長となっている美中年カムラのところに、複数の冒険者たち。
 それからッワクワクゴロさんのところにニシカさん、若い青年猟師、ッワクワクゴロさんの弟たち。
 俺のところにはタンヌダルクとエルパコ、それから女村長の家で下男をしている木こりのッンナニワである。

 上手い具合にそれぞれの立場に人員が固まっているのが面白い。
 カムラは村の新しい要素である冒険者グループの取り纏めであるし、ッワクワクゴロさんは猟師の親方株を持つベテランで中心人物だ。
 問題の俺はギムルがいなくなった後の村の幹部格なわけだが、おかげで我が家で預かっているエルパコだけでなく、木こりのッンナニワさんまで俺の後ろに控えていた。
 ッンナニワさんは相変わらずのむっつり顔で俺とまともに会話をしようとしないのがタマにキズだな。


「俺はこういうミステリ展開とか、あまり得意ではないんですがねぇ」
「ミステリ? シューターは時々おかしなことを言うな」

 俺のぼやきにさっそくッワクワクゴロさんが不思議そうな顔をした。
 すいませんねぇ俺は異世界出身なんですよ。
 そんな事を考えていると、

「とにかく野牛の一族にも警備を手伝ってもらって、監視体制は強化するしかないね。警備の担当責任者はシューター君だったね」
「そうですねぇ。俺は村の騎士だからね」
「じゃあ今回の事件の責任者は、シューター君という事になる」

 責任者、という言葉のところを強調して美中年が言った。
 とても嫌な響きである。
 むかしから俺は、その責任という立場を負う必要の無いバイト戦士として元いた世界では過ごしてきた。
 せいぜいバイトリーダーが自分の役割上の一番の出世である。
 いや。出世と言うのもちょっとおかしいが、とにかくそういう事だ。

「責任者ですからね。今回の犯人を見つけ出した後は、しっかりと責任を取りますよ」
「どうかな、俺はもちろんシューター君にあれこれ言うつもりはないけれど、村のみんなはどうだろう」

 そう言った美中年カムラは振り返り、彼の部下であるところの冒険者やギルドの若い女たちを見やった。
 少なくとも女たちは、微妙な顔をして俺を見ていた。
 何だ、俺に脅しでもかけてくるつもりか?

「……どういう事ですかねぇそれは」
「それは直接彼女たちに聞いた方が早い。君たち言ってごらん」
「あ、あたしのお父さんが、犯人はよそ者に違いないって」
「最近は外から入ってきた人たちが村の中をうろついているからとても怖いって。野牛の一族とも交流を持つとか、村長さまが言いだしたし。よそ者がきっとそのうち何かしでかすんじゃないかって兄ちゃんも言ってたんです。そしたらこんな事が起きたので、家族がみんなよそ者を恐れています」

 カムラに促されて答えたふたりの若い娘たちの言葉に、俺はたまらずしかめ面を作ってしまった。
 けれども俺よりもっと腹を立てたのは、どうやらタンヌダルクちゃんの方だったらしい。

「よそ者よそ者ってさっきから聞き捨てならないですよ! 旦那さまは確かに全裸を貴ぶ部族のご出身かもしれませんが、兄さんを倒したほどの辺境で最強の戦士ですよ! 全裸でも領地のために貢献してるんです!」

 こらこらタンヌダルクちゃん。
 俺はもう全裸ではないよ。半裸ですらない。
 村の周辺集落から集められた人足の農夫たちと諍いがあって以後、俺はカサンドラが編んだ服をちゃんと身に着ける様になっていたのです。
 ブルカの街で購入した生地が役に立った。
 へそピアスを見せているという事は、それだけでつまらない問題を領内に起こしてしまうのである。
 俺はしょせんこの村や領内ではよそ者で、よそ者である以上は領民たちに顔を知られていないのだ。
 どれだけ暑くても今後は服を着ていようと今回の事で痛感したのである。
 まあ、遅きに失したというところはあるんだがね。

「まあ俺の事はいい。タンヌダルクちゃんは、お義兄さんのところまで使いに走ってくれるかな。昨夜の火災の事と、周辺警備強化のために兵士の応援を寄越して欲しいと。出来ればギムルさんも来るように伝えるんだ」
「わたしだけのけものにするんですかあ?」
「違うよ、頼りになる相手だから頼むんだ。ニシカさん、護衛をお願いできますか?」
「おう、任せときな!」
「じゃあタンヌダルクちゃん、よろしくな」

 俺は野牛妻の頭をなでなでしてやると、タンヌダルクちゃんが「ううん、人前で触るなんてっ」などと小さく呟きながらスネていた。

 公衆の面前でイチャコラしていると勘違いされたのだろう。
 野牛妻とニシカさんが去った後も視線が痛い。
 俺がバツの悪い顔をしたところで、ッワクワクゴロさんがみんなを見回して口を開く。

「まあシューターを責めている人間はここにはいやしねぇ。問題なのは移民たちの集団を、元から領内にいた村人や集落の人間が警戒し始めているという事だな。このままいけば、必ずどこかでぶつかる事になる。その前に何とかしなければなんねぇという話だ」
「つまり早い段階で責任の所在をしっかりと出して、しかるべき立場の人間がしかるべき説明をすべきだと。そういう事ですかねぇ」
「そういう事だ。開拓村のくせに元からいた人間と新しい移民が揉め事を起こしている様じゃ、いつまでたっても領内は纏まらねぇ」
「説明責任か……」

 俺は腕組みをしてうんうん唸った。
 消火活動を終えて燃えた残骸の資材を片付けている村人たちを見る。
 昨日までの作業がまるまる無意味になった事への虚無感というか憤りというか、そういうものがどことはなしに漂っていた。
 集まって作業している人間は新旧領民に加えて労働ゴブリンや犯罪奴隷たち。
 特に犯罪奴隷たちが領民の近くにいると、あからさまに嫌そうな顔をしているのも見れる。
 こりゃ揉め事が起こるのは時間の問題だね。

「とにかく問題が大きくなる前に、説明責任を果たす。つまり犯人探しだ。疑うような真似をして申し訳ないが、みなさんにはご協力してもらいますいいですね?」

 俺が周囲を見渡すと、みなが一様に頷き返した。

     ◆

 事件があった夜、現場にはふたりの村人が見張に立っていた。
 名前は仮にッイチ、ッニとしよう。
 死んだのはゴブリンの小作人だったのでこれでいいだろう。
 ッイチは袈裟斬りの一撃、ッニは刺殺だ。
 殺害手口からして、犯人は剣の心得がある人間だった。
 この村で考えられる容疑者は次の通り。
 冒険者に名を連ねるもの、あるいは猟師など刃物を頻繁に使っている者。
 小さな領内なので、剣の心得がある者なんて数えるほどしかいない。

「見張を殺した犯人はたぶん、ひとり乃至ふたりです。が、建設途中のお城や家々に火をかけたのはひとりとは限りません」
「お城や家の材木には油か硫黄をかけてあった可能性がある。詳しい事は鍛冶の男を呼んで調べさせる必要があるな」
「つまり複数人の犯行が考えられるわけです」

 現場周辺には連日昼間の作業で踏み慣らした足跡が無数にあり、どれが犯人のものなのかはわからない。
 なので逃走経路を調べようとしてもこれはわからなかった。

「領外から何者か集団がやってきて、犯行におよんだという可能性があるんじゃないかな」
「その可能性は十分に考慮する必要があります。ただ、その場合でも内部で通じていた人間がいたと考えるのが普通です」
「だったら剣やマシェットの扱いに慣れてる人間がここにあらかた揃ってるんだ。みんなで剣を見せ合えばすぐに犯人が分かるだろうぜ」

 ッワクワクゴロさんがもっともらしい事を口にしたので、みんながごそごそと逆手で剣を抜いて見せた。
 だがこれは藪蛇になった。

「ッワクワクゴロさん、でしたっけ。あなたのマシェットは脂がこびりついていて、あまり手入れされていない様ですね? ここには血糊もついている様だけども」
「こっこれは俺が獲物を捌いた時のものだ。たまたま昨夕に兎をだな」

 しどろもどろになって釈明するッワクワクゴロさんおつです!
 似たようなもので、猟師たちのマシェットはどれも刃こぼれや血糊が残っていた。
 綺麗なナイフを持っていたのはエルパコだけである。

「シューター君もあまり剣は手入れが行き届いていないようだが、あちこちに刃こぼれがある」
「ああ、たぶん。むかしオーガとやりあった時のまま放置していましたからねぇ」

 カサンドラの従兄であるおっさんに手入れしてもらおうと思っていたのだが、村に戻ってみるとおっさんは接見禁止を言い渡されていたので出来ずじまいだった。

「結局みんな言い訳ばかりして意味がないじゃないか。見張を殺した犯人は結局誰なんだシューター君」
「それがわからないから、こうやって調べてるんでしょう!」

 綺麗な顔に綺麗な剣を持っていた美中年の言いくちに腹を立て、俺は少し乱暴に返事をした。
 こっちにはカムラさん、あんたが怪しい態度をしていたという証拠があるんだぜ。
 どうしてそんなに取り繕っていられるんだ。ん?

「じゃあまず、アリバイのある人間を除外しましょう」
「アリバイ?」
「事件と言うか、犯行があった時間に無実の証明が出来る人間という事です」

 俺がそう言うと、冒険者がひとり質問した。

「誰だそいつは」
「村長さまの家で食事をしていた俺とエルパコ、それから先ほど居留地に向かったニシカさんです」

 言い換えれば村長さまの家にいた人間は全員無罪という事になる。

「じゃあ俺にもアリバイがあるという事になるぜ、さっきも言ったが昨日の晩は弟たちと獲物の兎をサバいていたからなあ。なあお前ら」
「そうだな兄貴」
「あれはいい兎鍋になった」

 ッワクワクゴロ三兄弟が口々にそう言った。
 身内で自分たちの事を証明しあうのは、俺の元いた世界では証拠として採用されないんだが、この際は放っておこう。
 たぶんッワクワクゴロ三兄弟は犯人じゃない。

「君たちはどうだ」
「お、俺たちは冒険者ギルドで寝泊まりしているので、仲間たちと酒盛りをやっていた。なあ?」
「そうだな。これで俺たちの無罪は証明された」

 冒険者たちも似たようなもので、アリバイの意味をよく分かっていない。
 どうすんだよこれ!

「そうするとカムラの旦那、みんなアリバイが証明されるって事ですね」
「そ、そうなるな」

 ッワクワクゴロさんが質問をすると、あからさまに怪しい態度をカムラがした。
 やはりカムラが怪しいと俺は踏んだ。

「ちょっと待った。カムラさん、本当にみなさんと酒盛りをやっていたんですか? どうですかねダイソン君」
「ん。カムラの旦那は最初のうちはいなかったと思うぜ。確か最後に連れて来たはずだ」

 冒険者ダイソンは、俺たちが直接街でスカウトした人間だから信用が置ける。
 試しに質問するとツラツラと真実を話してくれたのでやはりダイソンは筋肉ムキムキだけの男ではなかったぜ。

「と、ダイソン君は言っていますよカムラさん? 本当はどこにいたんですかねぇ」
「じじ、実は彼女たちとちょっと、お話をしていた」

 美中年は赤面して、彼のお手伝いをしているギルド娘たちを振り返った。
 どうも一緒になっていやいや顔をしているので、こいつら暗がりで逢引きでもしたのかと思ってしまうぐらいだ。
 ただし犯罪捜査を行わないといけない警備責任者の立場上、しっかりと聞かねばなるまい。

「お話しというのは、具体的にどういうものですかね。誤魔化せばあなたのためになりませんよ。犯罪の容疑がかかったままなのですからねぇ」
「近くの、使われていない家畜小屋にいた。そこでお話を」

 ああ、家畜小屋というのは俺がこの村に来た当初寝起きしていた我が家だ。
 懐かしいね。

「それで?」
「そ。それで。この娘が鶏がうるさいというので、場所を変えたんだよ。はは、静かな場所でもっとお話し合いをしたいとね」
「どこに移動したんですか?」
「石塔だ。あそこは夜になると見張がいなくなるので、ゆっくりお話が出来ると思ったんだよ」
「なるほどわかりました。それでは石塔で、ふたりのお嬢さんと何をお話ししていたのですか? 具体的におじさんに話してみなさい」

 俺が強く迫ると、ふたりの娘は恥ずかしそうに下を向いてしまった。

「れ、レディーにその様な質問をするのはよくない。俺が言おう。ふっふたりと逢引をしていた」
「ふたりと? ふたり一緒にだと?」

 けしからん。
 そう思った俺はつい余計な事を口にしてしまったらしい。
 するとどの口が言うんだと、一斉に非難の声が俺に向かって来たではないか。

「きっ君はいいだろう、美人の若奥様に愛人まで囲っていて。し、しかし俺はこの年まで独身で、ようやく人生の春が来たんだよ……」

 真っ赤にしたまま美中年が顔をしわくちゃにした。
 こいつは犯人かと思って問い詰めてみたが、これこそよけいな藪蛇だったらしい。
 いたたまれなくなった俺は美中年の背中をさすってこう言った。

「うっうっ」
「まあ元気出せよな。あとで一杯酒を奢るよ」


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ