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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

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63 静かな湖畔の森のお城 中編

 騎士爵アレクサンドロシアちゃんの命じたお城イメージは、女の子が考えそうなメルヘンなお城とは程遠い様なものだった。
 元日本人の俺の中でお城のイメージと言えば、純和風の天守閣を備えたチョンマゲ殿様の住居か、グリム童話の世界に出てきそうな三角形のトンガリ屋根を連ねた近世ドイツ風である。
 しかし、俺の手元にある羊皮紙に描かれた完成予想図は、ブロックを積み重ねた要塞みたいな構造で、それに教会みたいな本館が付随しているというものだった。

「石を運べども運べども、お城づくりは終わらない」
「頑張ろ、シューターさん」

 俺とエルパコは、天秤棒に吊った石をえっほえっほと運ぶわけである。
 石のサイズはレンガの様に綺麗に切り整えられていた。
 正確には多少の大小はあるんだろうが、これを接着剤がわりの粘土で隙間を埋めながら城壁を構成させていくわけである。
 木組みの支柱と木版にあわせてこの石は積み上げられていくけれど、城の内側の壁面は、例によって土魔法で粘土質の土壁が作られ、最後に壁面に焼きを入れて終わりだ。
 これは毎日午後からやって来る女村長によって造られる。

「むかし俺は土木作業現場と劇場の大道具をやっていた事があるけれど、今日やっている作業はどちらかというと大道具のバイトの方だな。今の土木作業は機械化が進んでいる。これは平台を運ばされた大道具のバイトを思い出す」
「あの、シューターさんは、戦士だったんでしょ?」
「ああそうだったな。俺はこの村にやって来る前はいろんな職を転々としているバイト戦士だったんだ」
「凄いねシューターさんは……」
「いやあ、いい大人になって定職に就かないのは、褒められた事じゃないぞ」
「何でも出来るのは凄い事だよ。んしょ」

 丘の上に石をみっつ運び終えた俺たちは、天秤棒を肩から外してひと息つくのだった。
 俺が汗まみれの上半身を首から下げた手ぬぐいで拭いていると、エルパコも同じ様に白い前開きの編上げシャツを汗に濡らしてシースルーしてた。
 俺はシースルーをスルー出来ずにガン見してしてしまう。
 厚手の生地なのではっきりしているわけではないが、シースルーの向こう側にぱいのぱいが見えた。
 男の娘じゃなければ思わずドキドキしていた事は間違いない。
 胸の先端がツンととんがっているあたり、小憎い。

「どうしたの、シューターさん。恥ずかしいからあんまり見ないでよ……」
「汗をかいたままだと風邪をひいてはいけない。カサンドラいるかな?」

 とても心配した俺は近くに嫁がいないだろうかと声を上げた。
 カサンドラは騎士という村の支配階層の婦人なので、別段みんなと一緒になって働く必要のない立場だ。
 もちろん俺やその従者であるエルパコもその必要が無い立場なのだが、俺たちの方は作業の遅れを取り戻したいので一緒にやっているだけである。
 普段のカサンドラは作業小屋で全体の進捗を見守っているはずなのだが。

「お呼びですか、シューターさん?」
「エルパコが汗かいちゃって、服が濡れてるんだ。着替えて休憩させてくれ」
「はいわかりました。エルパコちゃん頑張ったね」
「あ、ぼくは」

 カサンドラは笑顔で近づいてくると、自分より少しだけ背の低いけもみみを見てそう言った。

「お前はここで休んでいなさい。作業は今日明日終わる様なものじゃないから、俺と交代でしっかり働こう。な?」
「うん……」

 俺がついつい癖でエルパコの頭を見ていると、なでなでしてしまった。
 すると「自分もまだ一緒に働くよ」と言いたげだった顔がみるみる大人しくなって、尻尾をくねくねさせはじめた。
 狐獣人のエルパコは犬じゃないのだから、嬉しいからと言って激しく尻尾をふりふりするわけではないらしい。

「じゃあ俺は石運びを再開する事にする。この短剣も作業するのには邪魔だな、預かっておいてくれ」
「わかりました旦那さま。シューターさんもあんまり無理なさらない様に」
「ああ、君たちも暑いから木陰に入ってなさい」
「わかりました。さ、エルパコちゃん。木陰に入ってお休みしましょう?」
「うん……」

 腰から短剣を外した俺は、カサンドラにそいつを預けておいた。
 一応は騎士さま身分なのでと気取って腰に吊ってみたが、作業するのにはいかにも邪魔でしょうがない。
 こうして上半身裸で装備も外してしまえば、少しでも体が軽くなるというものだ。

「奴隷騎士さま。村長さまが午後から、応援の人足が合流するという話しだそうですが聞いてますか?」
「聞いてるけど、新しい犯罪奴隷か何かが街から来るって話しだっけ?」
「違いまさぁ、確か周辺の集落から人をかき集めたんですよ。これから夏でしょう? すると畑仕事もさほどやる事が無くなるので、こっちに人間を回すそうですよ」

 ドワーフ大工のひとりが俺に話しかけて来て教えてくれた。
 季節は七月だった。これからますます暑い時期になってくるところだ。
 戦国時代の日本なんかだと、田んぼの手入れがひとしきり終了したこの季節と言えば戦争シーズンだったそうだ。
 農民たちが徴発されて長槍を持たされて足軽になる。
 このファンタジー世界では別にしょっちゅう戦争をしているわけではないので、農夫は夏になると領主の建設事業に駆り出されるわけである。
 去年は用水路の整備に従事していたらしいが、今年はかわって築城作業である。
 お城はその領地の顔みたいなものだから、女村長もそれだけ本気であるらしいね。

「犯罪奴隷の新しい買取りはもう少し先ですなあ。あんまり奴隷ばかりかき集めても、暴動にでもなったら大変なので困るんですわ。村で奴隷を使い潰したとなれば、ご近所の村に聞こえも悪いでしょう」
「そりゃそうだな。というかこの村では奴隷が騎士をやっている様な場所だけどな」
「旦那もそう言えば奴隷でしたね、奴隷騎士さま」

 あっはっはとドワーフが笑い出したので、俺は苦い顔をしてしまう。
 よくよく考えれば今の俺は、どこからどう見ても立派な労働奴隷の出で立ちである。
 初夏の陽光に照らされて、へそピアスがキラリと輝いていた。

「それと大工の数人が今日は作業現場に来ていなかったみたいだけど、体調不良か何かかな?」
「何言ってるんですか奴隷騎士さま、旦那の新居を作るのに出かけているんですよ」
「そうなの?」
「そうですよ、村長さまが資材の用意が出来次第、一日で作って見せると豪語していたじゃないですか」

 それは知らない話である。
 野牛族長に勝利、というかミノタウロスとの話が上手くいけばご褒美に新居をくれてやるとは言われていたがね。
 確かにアレクサンドロシアちゃんは土魔法の名人だと言っていたので、任せてくれという様なニュアンスはそう言えば口にしていたけれども。

「きっと立派な猟師小屋が完成しているはずですぜ」
「猟師小屋じゃ困るんだよ。奥さんがふたりに、同居人がひとりもいるんだから、前より広くないと困る」
「まあ、騎士さまの家が拝み小屋のまんまじゃいけませんわな!」

 また笑い出したドワーフに何が面白いのかと不機嫌になりながら、適当に「そうだな」と返事をしておいた。

     ◆

 昼になるとカサンドラとエルパコがやって来て、俺にお弁当の時間だと知らせてくれる。
 湖畔の側の、まだ撤去されていない大きな岩を背もたれにして俺がわくわくしていると、ニシカさんもやって来てランチタイムとなった。

「今日のお弁当は何かな?」
「いつも蒸かし芋だと栄養がよくないので、今日はインゲン豆と兎肉の煮つけにしたんですよ。それから黒パンです」
「オレは干し肉だ。まだワイバーンの肉が腐るほどあまっているので、これを食べようぜ!」

 カサンドラの広げた料理に俺たちはニコニコしながら期待していたけれど、ニシカさんが干し肉を汚らしい布を広げて披露して見せた途端、一同そろって嫌な顔をした。
 カサンドラは俺が留守中にほとんど毎日の様にワイバーンの燻製肉を食べていたので、飽きている様だ。
 俺はこの筋張って硬い干し肉に何ひとつ魅力を感じられないし、エルパコはいつものぼけーっとした表情を消して下を向いていた。
 街の猟師には物珍しいはずのけもみみにすら嫌がられている。

「んだよ、お前らそんな顔して。肉は元気になるからたくさん食べろよ!」
「いえ、ワイバーンは間に合っているので遠慮します」
「ぼくもいらない、な」

 カサンドラがぴしゃりとお断りを入れた後、エルパコもおずおずとそう言った。
 とたんに不機嫌になったニシカさんを取り繕う様に俺が手を出してワイバーン肉に手を出したところ、

「シューターさん、ワイバーンのお肉は硬いからお腹によくないよ」

 小さくエルパコが俺に忠告したのだった。

     ◆

 午後になるとやって来た普請の人足たちは、俺のところに集まってくる。
 俺は例によって作業しやすそうな格好をしているので、いっしょになって集まると、誰がリーダーで誰が人足なのか一見するとわからないぐらいである。
 街で俺が買って来た生地で上品な服を仕立てたカサンドラが、俺の短剣を腰に差していると、むしろカサンドラこそが作業現場の責任者みたいに見えるから情けない限りだ。
 まあ、誰がリーダーでも早いところお城を完成させないとな。
 見た目なんて作業効率には何も関係ない。

「さてみなさん。今日からしばらくの間、この丘の上にお城を築く作業を手伝っていただきたいと思います」
「…………」
「複雑で本格的な作業は、大工のみなさんがやってくださいますので、みなさんは素材運びに従事してください」

 俺がそうやって説明を始めると、胡乱(うろん)な眼をしたひとりの男が前にすっと出て来て、こう言った。

「奴隷の分際で、偉そうに俺たちに指図するな」

 その瞬間、俺たちと作業員の空気が一気に凍り付いた。
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