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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

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56 ひょんなことから獣人について耳にしました


 俺たちは村に戻ると、その足で女村長に屋敷へ集まる様に命じられた。
 呼び出された面子は主にッワクワクゴロさんやニシカさんといった猟師連中である。
 もちろんその中に俺と、どういうわけか俺のところで見習いをする事になったエルパコも含まれていた。

「三日後に、野牛の一族と親睦を深めるための宴席を設ける事になったが、わらわたちは宴席で必要となる振る舞いの獲物が必要となる。そこでお前たちは三日以内に鹿を仕留めて来てほしい」

 可能か? と、例によって執務室の安楽椅子に腰を落ち着けた女村長が、俺たちにそう問うてきた。
 俺は野牛の族長と行われた会談の際に一部始終を聞いていたから知っているが、ミノタウロスたちは自慢の牛というのを、俺たちは代わりに鹿をという事が野牛の族長と女村長との間で話し合われた。
 牛面の猿人間が牛を料理に差し出すというのは共食いじゃねえかと思わないでもないが、それに見合うだけの食材を俺たちが差し出すのであれば、それはもう肉しかない。
 俺たちの村でも家畜は存在していたが、ミノタウロスたちが牛を出すと言い出したので牛はこれで不可能になった。
 となれば、それに見合う大物は豚ぐらいしかいないが、

「ジンターネンの豚をという事もわらわとて考えたのだが、今この村は開拓のために移民を多く集めようとしているのでな。ここで無暗に屠殺してしまうと、食糧難になった時に問題が起きる」
「なるほどそれは理解しました。で、何頭。鹿を仕留めればいいんでしょうかねえ」

 ッワクワクゴロさんが鷲鼻をいじりながら、安楽椅子の女村長を見上げて言った。

「そうだな。宴会にはわらわたちの主だった人間には参加してもらいたい。それから、有力者を接待するというのであれば、若い女も動員せねばなるまい。それらも含めてとなれば、両者一〇〇人を満足させるだけの鹿が必要になるの……」
「うーむ。とすると、五頭から七頭ぐらいは最低でも仕留めておきたいところですぜ。足りない分は鶏かやはり豚を潰してもらうようにしてください。やるだけはやってみます」
「それでよい。ではよろしく頼むぞ」

 了解したッワクワクゴロさんやニシカさんたち主だったベテラン猟師たちは、ぞろぞろと執務室を退出していった。
 俺も最後にそれに付いて出ていこうとしたところ、

「シューターはしばし待て」

 女村長が部屋の外に出る直前に声をかけて来たではないか。
 一緒に付いて出る予定だったエルパコと一緒に、俺たちは立ち止まった。

「その獣人は先に出ていろ、二人だけで話がある」
「だ、そうだ。エルパコ悪いが出ていてくれ」
「……うん、わかった」

 困惑の表情を浮かべたけもみみは、そのまま俺と女村長の顔を見比べながら退場して行った。
 ドアが完全に閉まるのを見届けてから、俺は改めて女村長の顔を見やった。
 俺ひとりだけを残したという事は、何か内々の話がある事は間違いない。
 いよいよご褒美について教えてくれるのかな?
 ちょっぴり俺の息子が反応しそうになるのを抑えて、どうにかズボンをテント立ちさせずに済ませた。

「何を考えておる」
「俺を残した意味が何なのか」
「ふむ。まあ、そう緊張するのではない。あの獣人、見てくれは小娘の様な姿をしているが、れっきとした男なのだそうだな」
「そうなんですよ。ちょっとびっくりしました」
「ギムルにその話を聞いた。わらわも正直驚いたが、お前の家で預かる様になったと聞いてな」
「ああ、そうですね。俺が身の回りの世話をしろとッワクワクゴロさんから言いつかっていますねぇ」
「村の空き家が足りていないので、猟師は猟師で面倒を、空いている家は優先的に移民にという事を決めておったからな」

 村には移民がやって来た事もあって、あちこちの家々で似たようなことが起きているという。
 住人が不在となった空き家については家族持ちの移民に譲られたが、労働者ゴブリンや犯罪奴隷などは、むかし俺がこの村にやってきた頃と同じ様に家畜小屋にでも住まわされているのかも知れない。
 猟師についても、俺は街に出ていて知らなかったが、多数の人間が移住する様な事になっていれば手分けして猟師たちの家で居候を差せる羊蹄だったのだろう。

「新婚早々に申し訳ない事をお願いするが、しばらく我慢してくれ」
「いえ、むさくるしい男と同居するならアレですが、見た目がアレなのが救いですね。妻も多少はやりやすいでしょう」
「野牛の一族の件が片付けば、すぐにでも新居の建築にとりかかる」
「ほう」
「なに、家の足場さえ造ってしまえば、土魔法で家の壁を作るのはすぐにできる。わらわも魔法使いの一家なのでな、任せてくれ」

 女村長はそう言って笑って見せた。
 言われてみればッヨイさまと女村長は一族だ。
 しかもこのジョビジョバの一族、魔法が使えるらしくついでにッヨイさまも土魔法が得意と言っていたな。

「それともうひとつ、宴席ではカサンドラを借りるからな」
「?」
「若い女が必要だと言っただろう。接待させるのだ、気持ちよく野牛の一族どもを懐柔させるためにな」
「はぁ……」
「ただ酌をさせてまわるだけだ。何かおかしな事があれば、それこそわらわたちが野牛の族長に付け入るチャンスでもある。その点は安心してよい」

 何とも計算高い女だ。
 もちろん、もしもなんて事はあってはならないし、おかしな事にでもなれば俺が黙ってはおけない。



「わかりました。ではせいぜい野牛の一族と上手くいく様に俺なりに努力させてもらいますよ」
「よろしく頼むぞ。上手くいったあかつきには、ご褒美な」

 引っ張るなぁアレクサンドロシアちゃん……
 俺はご褒美が何なのか知りたくてウズウズしちゃってます。

     ◆

 屋敷の外で待っていたエルパコと合流し、俺たちは家路につく。

「エルパコ」
「……うん?」
「お前、獣人族って言うけど、何の獣の猿人間なんだ?」

 このファンタジー世界でいうと、人間とゴブリン以外はたいてい獣人の事を何かの猿人間と言う。
 それに従えば、こいつは犬か狸か狐か、そのあたりの猿人間だろう。
 いやまて、狸はこの世界で見かけたことが無い。すると何だろう。
 ジャッカル面の猿人間と言えばコボルトだが、あいつらはケモナーレベルがかなり高い、ジャッカルの顔そのものだった。

「狐だよ。狐の獣人。猿人間なんて言わないでよ……」
「そ、そうか悪かったな」

 ぶすっと頬を膨らました顔が何とも愛らしい。
 いかんいかん、こいつは男だ!

「シューターは、獣人の発祥について、知ってる?」
「いや知らん。俺はこの辺境よりずっとずっと遠くからきた田舎者なんでな、そういう事には詳しくないんだ。俺のいた場所には、ちょっと有名な青狸のバケモノがいたぐらいだからなあ」
「青狸?」
「そういう動物がいたんだ」
「ふぅん、そう」

 俺が自分の元いた世界について適当に誤魔化していると、エルパコがこちらをおずおずと見上げていた。

「すべての獣人のはじまりは、犬獣人だって言われているんだ」
「ほう、犬は人類の相棒なんて言われているからな。最初に家畜になったのもモノの本によれば狼から別れたばかりの犬だったらしい」
「そうなんだ? 人間はさ、身勝手な生き物なんだよ。古代人の人口がいっぱい減った時に、犬の雌を魔法で人間にしてしまって、人口を増やしたんだってさ。変態だよね?」

 俺に同意を求める様にエルパコが言った。
 さらりと軽く言われたが、このファンタジー世界の古代人は何をやっているのだ。
 とんだ変態さんだぜ。

「ぼくたち狐獣人はずっと後になって生まれた種族だって聞いたけど、ミノタウロスというのもそうして生まれたんだよ」
「ほう、牛の女を人間にさせて産ませた子孫が、野牛の一族なのか。人間とは業が深い生き物だな」

 ある意味で興味深い内容ではあったが、聞いていてあまり気持ちのよい内容ではない。
 俺はしかめつらをしながら、我が家である家畜小屋へと戻ってきて、立てつけの悪いドアを強引に明けた。

「あ、おかえりなさいシューターさん。それからエルパコちゃん」
「やあただいまカサンドラ」
「た、ただいまです」
「キュイ!」

 新妻にエルパコちゃんなどと呼ばれたけもみみは、何だか気恥ずかしそうにうつむいてしまった。
 年頃の男の子なので、こういうのは恥ずかしいやら何やらあるんだろうな。

「お湯、沸いてますよ。お風呂になさいますか?」
「おうそうするか」
「シューターさんと一緒に、エルパコちゃんも入ってしまいなさいな」
「キュイキュイ!」

 俺の足元に走って来た肥えたエリマキトカゲを好きなようにさせていると、ずりずりとズボンに体をこすりつけだしたではないか。
 こらやめなさい、おじさんの一張羅のズボンなんだからな。

「そういえばシューターさん、今日のお出かけはどうなったんですか?」
「ああ、無事に野牛の一族と会談になってな、女村長の提案で三日後に宴会をする事になった」
「まあ」
「なので明日は鹿狩りに出る事になった。当日はカサンドラも野牛どもに酌をして回る様に、女村長に命じられたからな」

 俺はそんな話をしながらチョッキを脱いで、ズボンに手をかける。
 エルパコもきょどきょどしながらも俺に続いて服を脱ぎはじめたのだが、どうも華奢なその体のラインが女子っぽいのだ。
 男の子だと言わなければたぶんわからなかっただろう。
 そして脱いだ。
 ちゃんと脱いだら、エルパコにも息子が付いていた。
 よかった、ちゃんと皮も被っている。

「そんな風に遠慮せずに、ゆっくり入ってくださいね。お湯はまだ沸かしてありますので気にせずに」
「そうだぞ。よし俺が背中を流してやろう」

 カサンドラと俺が揃って風呂用のたらいに入る事を進めると、モジモジとしていたエルパコが遠慮がちに脚をすっと中に入れた。

「い、いいよ。背中はやらなくても」
「そうだな。男がやると色気が無くていやか、お前も年頃の女だしな!」
「そうじゃなくて……」
「じゃあ、わたしがやりましょうか?」
「えっ」

 エルパコが遠慮しているので、カサンドラがへちまのたわしを手にして、エルパコの背中に手を回した。

「早くしないと湯が冷めちゃうからな、さあ体を洗おう」
「キイイキイィ!」

 こうして俺たちはふたりがかりでエルパコの体を洗った。
 途中でたらいに乱入してきた肥えたエリマキトカゲが、お湯で気持ちよくなってウンコを湯の中で粗相したのはちょっとしたハプニングである。

「おま、バジル! 何をやってるんだよ!」
「キィ……」
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