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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

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54 全裸でも交渉がしたい

時間調整してたら投稿1分遅刻マンです。許して!
「ハロー、こんにちは。俺の話は通じるか? 俺はシューターだ、シューター。よろしくな」

 俺の名は吉田修太。今日も全裸で交渉役をする三二歳の村人だ。
 ヒモパンを括り付けた木の棒を振りながら近づいてくる俺に、三人の野牛の一族が白刃をを突きつけて来た。
 俺のフレンドリーな挨拶にも関わらず、この対応だよ。
 これ以上近づくなと、俺の身長ぶんほどの距離まで進んだ辺りで包囲されてしまう。
 こいつらは対人戦闘技術がそれなりに発達しているらしい。
 自分の身長プラス武器の距離が、そいつの有効攻撃範囲だという事を理解しているらしかった。

「おいおい、そう警戒するなよ。俺みたいな全裸丸腰の人間に何を恐れているんだ?」
「…………」
「あんたらに話がある、あんたらの代表者に状況を説明したい。俺は見ての通り丸腰で、」

 グサリと木の棒を地面に突き刺した俺は、振り返って背後の村の人間たちを見やった。
 騎士装束の女村長は長剣を杖代わりにしてこちらを睨んでいる。
 その他、ギムルや村の幹部連中に冒険者、猟師たちがずらりと並んでいるわけだが、

「この森の一体を収める領主の意向を伝えに来たという次第だ。もちろん争う事が目的ではない、話し合いだ」

 どう見ても武威を背景にして俺が話し合いを求めて来た事は、しっかりと野牛の一族にも伝わっているらしい。

「……何が目的だ」
「だから言ってるだろ、話し合いが目的だって」

 両手を上げて無抵抗の意思は示しているけれど、駄目っぽかった。
 突きつけられていた白刃で俺は座る様に指示されて膝を折る。

「もう一度聞く。話し合いの目的は何だ」
「あそこに見えている、甲冑を着た女騎士がいるだろう。あれがこの土地の領主で騎士爵の貴族アレクサンドロシアさまだ。領主さまは、自分たちの領内にミノタウロスのみなさんが移住している事を知って、視察にこられたのだ」

 俺の勘だが、たぶん村の人間が多用している「野牛の一族」というフレーズがミノタウロスのみなさんを激昂させるんじゃないかと思うので使わない。
 むかし俺がバイトでコールセンターで働いている時の事だが、電話口のお客様がどんな言葉に反応して怒り出すかなんてのは千差万別だった。
 特に俺の記憶に残っているお客さまの怒りの内容と言えば「ありがとうございました」だ。
 過去形とはどういうことだ?! というお叱りの内容だったわけだが、俺からするとわけがわからなかった。
 怪しい大人のネットショップのお買い物で取り寄せた商品のカラーが違っているというご指摘だった訳だが、お電話いただいた際の、最後の最後でお客様の怒りの琴線に触れてしまったわけである。
 ありがとうございました、はもうお客様として過去形、ありがとうございます、は今後もごひいきにというニュアンスが含まれているそうだが、これはお客様の独自理論なのか、実際にサービス業をする際に気を付けるべき点なのかは、今もってわからない部分である。
 これらはおおよそ何がお怒りになるのか理解できなかったパターンだが、野牛の「野」は野蛮の「野」である。
 文明人を気取っている人間にこんな言葉を言ってしまえば、きっと俺なら不愉快だろう。
 人間どもめ、また俺たちを差別的発言をしやがる、などと状況がこじれてしまっては交渉人大失敗だ。

「つまりですね、ミノタウロスのみなさんがいつからこの土地に移住なさったのか、今後も生活圏を拡大するとなれば、我々の領民との諍いも可能性がありますよね? そのあたり、問題が発生し大きくなる前に、手を打っておこうという寸法です」
「本当にそれだけか」
「本当にそれだけですよ。だからあんたたちの代表者、例えば領主さんとか族長さんとか、そういうひとがいるなら、話をさせてもらいたい」
「話し合いをするのはお前たちの領主と、でいいのだな」
「領主アレクサンドロシアさまと、そちらの代表者さまとイーブンに、対等にだ」

 そこに俺たちは何も挟まない。
 という事をしっかりと説明する。
 女村長はこれも血の流れない戦争だと言っていたけれど、まあいかにしてイニシアチブをとるかだからな。
 俺たちには何も話さなかったが、いざという時は何か秘策でもあるのかもしれない。

「しばし待て、どうする?」
「人間どもの言葉など信用出来るか。どうせ俺たちにこの洞窟から出て行けと脅してくるに違いない、あの兵士どもの姿を見ろよ……」
「確かにそうだが、上に報告しないわけにもいくまい」
「だが話し合いと言っておきながら襲われれば、俺たちはひとたまりもないぞ……」

 筋肉ムキムキのビーフマンの癖に、こいつらは身を縮めて弱気な発言を繰り返していた。
 もしかすると、文化度合いの発達にあわせてこの野牛の一族たちは蛮族の勇を失ったのかもしれない。
 逆か、匹夫の勇を捨てた事で文化的な連中になったのかな?

「わ、わかった。話し合いに応じるかどうかは族長がお決めになるが、しばらくここで待て」
「了解だ、待ちましょう?」

 少しだけ強い風が吹いたりやんだりすると、俺の息子がその度にぶらりと揺れた。
 何かあった時はニシカさんが風の魔法で合図送って来るという事前の取り決めがあった。
 恐らくはしびれを切らした女村長が指示を出したのだ。
 事前の取り決めによれば、腰に手を当てれば交渉順調、腕を組めば交渉決裂、股間を触ればしばし待て。
 つまりこの状況でしなければならないのは、息子をいじることである。

「まあ、領主アレクサンドロシアさまはとても寛大なお方なので、少々の時間を潰すのは問題ない。何しろ俺たちは話し合いにやってきたんでね」

 俺は出来るだけ違和感が無い様に女村長たちを振り返ると、息子を両手で隠して見せた。

「何をしている?」
「いやあ、真面目な話をしながら全裸というのはマヌケですね。はは」

 三人いたミノタウロスのうちのひとりが長剣を鞘に納めると、そのまま駆け足で洞窟の中に走って行った。

     ◆

「あんたら、ここに来て何年になる」
「街の事を言っているのか? あそこに俺たちの部族が居留地を構えたのはほんの冬ふたつ前だ」
「それじゃ三年目ってところなんだな」
「そうだ。お前は、この辺りの人間にしては不思議な顔立ちだな。あまりのっぺりとした顔で、まるでエルフみたいだ。エルブンハーフか?」

 族長さんへの知らせに走った男を待つ間、俺は洞窟の入り口にある岩に腰かけて、ミノタウロスのひとりと交流を深めていた。
 もうひとりのミノタウロスは不機嫌そうに未だ白刃を俺に突きつけて無言で立っている。

「残念ながらどこにでもいるヒト族さ。ちょっと遠くの出身なんだ」
「そうなのか。名前は? いい体つきをしている、戦士なのか?」
「名前はシューターだ。まあ戦士だ」
「そうだったな、シューター。弓使いか」
「そういうあんたの名前は何て言うんだい?」

 俺の隣に腰かけた牛面の男に出来るだけフレンドリーに接する。
 上等な服着やがってこん畜生め。
 エルパコと同じ様なけもみみの牛面たちだが、時折その耳をぷるぷる、と揺らして見せるあたりがちょっと動物的だ。
 というか牛そのものの顔だからな。

「俺か、俺はタンスロットってんだ。見ての通り兵士をしている。あんたとご同業というわけさ」
「どーも、タンスロットさん。兵士という事は、ここで歩哨の仕事を?」
「ああそうだ。つい昨夜だったが、俺たちの街に何者か侵入した足跡があったというので、念のために見張りをしていたのさ。これも兵士の務めでね」
「それは大変ですねぇ」

 侵入者というのは俺たちの事だな。
 すまんタンスロットさん、仕事を増やしてしまって。

「まあでも、おかげでキツい戦闘訓練をやらなくてよくなったからいいんだぜ」
「おお、戦闘訓練か。ミノタウロスさんの戦闘訓練には興味がある。機会があればスパーリングをやろう」

 武道大好き人間の癖が飛び出して、つい俺はいらん事を言ってしまったぜ。

「スパーリング? 何だそれは」
「剣でも拳でも、練習試合をやろうという事さ」
「なるほど闘牛か。あれは楽しいが、俺はあまり得意じゃないな。そういうのは族長の専売特許だ」

 族長というのは闘牛で強いのか。
 それにしても試合の事を闘牛というのは、まんまだな。
 俺はちょっと笑ってしまった。
 するとのんびりしていた俺たちにまた、少し強い風が連続して吹き付けたりやんだりしてきた。

「どうした?」
「いやぁ今日は変な風が吹いて来るなぁと」

 恐らく苛立っているアレクスサンドロシアちゃんが、ニシカに命じてやらせたのだろう。
 俺は「裸だとケツがいたいな」などと適当な事を口にしながら立ち上がって、ずらりと並んだまま立ちっぱなしの女村長たちに見える格好で息子を隠した。

 しばし待て! しばし待てだ!

「丸腰で無抵抗を示すために全裸だったんだがね、ミノタウロスの皆さんに俺の想いが伝わってよかったぜ」
「立ったり座ったりするな! じっとしていろ!」

 残念ながら俺のフレンドリーは、もうひとりのミノタウロスには伝わらなかったらしい。
 おもいっきり白刃をケツに押し当てられて、俺はあわてて座った。

 しばらくすると、洞窟からゾロゾロと野牛の一団が姿を現した。
 その中に、ひときわ大きい野牛の男がいるが、あれが族長だろうか。
 文化人的野牛集団を率いているのでそうではないと信じたいが、族長は闘牛好きと言っていたから確信は持てない。
 いや違う。あのちょっと細身の上等な服を着た男がたぶん族長だ。
 細身だがムキムキには違いない。
 他のミノタウロスと比べて細いと言うだけだ。だが、格闘家の様な引き締まった体だった。

「族長がお見えになられた。立て!」

 俺は岩から転げるように立ち上がると、三〇人ぐらいはいるだろう野牛の一族に囲まれた。

「お前が人間どもの使者だという男か?」
「はい。領主アレクサンドロシアさまの使いで参りました」
「フンス。そうか」
「族長さまにおかれましては、わざわざご足労いただきありがとうございます。是非にも我が領主との会談をしていただきたく……」

 誰かに脚を転がされて強制土下座をさせられるとたまらない。
 俺は全裸で平伏した。

「フンス、いいだろう。俺たちは蛮族にも寛容だからな」
「ありがとうございます、ありがとうございます」

     ◆

 会談のやり方はまずこうだ。
 まず族長が数名の護衛を従えて村の一団と野牛の一団の間に前進した。
 そこまで俺は付いていき、そこで大きく白旗を振って女村長に合図を送る。
 すると、当初の打ち合わせ通りに正々堂々といった格好でアレクサンドロシアちゃんが単身前進して来た。
 しかし、いつでも援護射撃が可能なように鱗裂きのニシカさんが弓を用意している。
 いざとなれば恐らくはッワクワクゴロさんも加勢の弓を射かけてくれるだろう。

 そこで族長と女村長が向かい合った。

「わらわはこのサルワタの森一帯を領する騎士爵アレクサンドロシア・ジュメェである。この度はわらわの会談要請に応じてくれ、大義であった」
「蛮族の領主が言いおるわ。俺はタンクロードヴァンダム、一族を統べる長だ。気軽にタンクロードと呼んでくれ」

 お互いに差し出した手を握った。
 背格好からすれば、まるで大人と子供だ。
 牛面のタンクロードは女村長を見下ろす格好だったが、彼女はおびえた表情などまるで見せずに口元をニヤリとさせた。
 しかしあれだな。ニシカさん風に言うと、こいつらタンの一族というやつか。

「あっはっは」
「何がおかしい、蛮族の女領主よ?」
「よもや野牛の一族に蛮族と言われる日が来るとは、わらわは思いもしなんだわ!」
「フンス、それは他の部族を見てその様な事を言っているのだろうが、俺たちは違うぜ」
「それはシューターより聞いておるわ。立派な家屋を幾棟にも建て連ね、壁には色模様を施して、さぞかし繁栄している様ではないか」
「シューターというのは?」
「ああ、全裸の彼です」

 牛面を傾げたタンクロードに、護衛のひとりとしてついてきたタンスロットが返事をした。

「フンス、お前だな? 昨日俺たちの居留地に侵入した者というのは」

 俺は慌てて息子をいじりながら視線を反らした。

「我が村一番の戦士だ。それでいて猟師と冒険者の経験もある、わらわの切り札だからの」
「フンス、まあいい。それで要件は何だ」
「先ごろも言った通り、この辺り一帯の領土はわらわのものだ。聞けばお前たちは我が領土の中に、あろうことか勝手に立派な都市を作っていると言うではないか。これは領主として、はいそうですかと見過ごすわけにはいかぬのでの」
「見過ごさなければどうするつもりだ」
「いつから洞窟の中に都市を築いたのだ」
「この三年といったところだな。以前はずっと向こうの山を越えた場所で、オーガたちを使役しながら生活をしていたんだがな。ひときわ巨大なワイバーンの襲撃に度々見舞われてな、こうして引っ越してきたというわけだ」
「ワイバーンか、それならばわらわの村にも災害をもたらしたことがある。災難であったの」
「そいつはどうも」

 何だ聞いた事がある様な話だぞ。
 もしかすると俺たちの村を襲ったワイバーンが、タンの一族にも迷惑をかけていたのだろうか。

「だが、はいそうですかと見過ごすというのは領主としては無能を意味する」
「なら戦争でもするか、お前たち蛮族らしく?」
「ふふっそれもまた一興だのう」

 そんな言葉を言った瞬間、タンスロットさんと一緒に来ていた、あのひときわ大きな野牛の男が腰の剣に手を伸ばそうとした。
 すかさず俺は棒切れを構える。

「よせタンダロス。いや、俺の言葉が悪かったな。つまりお前たちはどうしたいんだ。俺たちに出て行けと言うつもりだったのか」
「わらわも回りくどい言い様は好かん、よってはっきりと言う」
「俺もその方がうれしいね」
「わらわの領土に住む者には税を課す決まりがある。税を納めるのならば、領内で過ごす事を許可する。何度も言うが、領主の体面というものがあってな、領地の接する他の領主たちの手前これは譲れない」
「フンス」
「もちろん無理な要求をするつもりはない。基本は友好と、交流だ。お前たちも、ようやく三年がかりで築き上げた街をわらわたちに荒らされるのは迷惑だろう。ん?」

 こちらの内情を見せながら、さらりと言うべき要求も口にしている。
 適度な税を納めればミノタウロスたちを見逃すというやり方は、なかなか巧妙、いや光明なように思えるぜ。
 他の領主たちに対する女村長の面子を保ちながら、実質は友好的にやって行こうという事か。
 しかし戦争とまで言ったわりには、なかなか大人しい手口である。

 女村長の言葉に、タンクロードは一考しているらしい。
 少し腕組みをして「フンス、フンス」と鼻を鳴らしてみたあとで、

「その条件は魅力的だ。だがお前たちは蛮族だ、裏切らぬという保証はなかろう」
「では古来よりこういう場合、婚姻を結ぶという手法で互いの信用関係を作って来ただろう。こちらと、タンクロードの縁者とで、婚姻を結べばよい」

 その様な事を女村長が言ったのである。

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