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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第3章 奴はカムラ

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53 野牛の一族には勝てそうもないので、女村長を説得します

「野牛の一族が洞窟の最深部に都市を作っていただと?」

 俺たちは今、女村長専用の安楽椅子が置かれた彼女の執務室に通されている。
 はじめ、女村長は俺たちの話をまるで取り合わなかった。
 明け方前に村に到着した俺たちが女村長の屋敷を訪れると、当然だが女村長以下屋敷の人間はみんな寝入っていた。
 事は急を要するというので、何度も玄関口の扉を叩いていると、例の下働きの女が眠たそうな眼をこすりながら出て来た。
 俺も何度も顔を合わせている若い女は、はじめ俺の顔を見て怯えた顔を見せた後、その他にもッワクワクゴロさんや美中年にニシカさんという顔ぶれを見て、ようやく状況を理解したらしい。
 言葉数は少なかったが、あわてて中に引っ込むとギムルを起こしてくれ、さらに女村長が不機嫌そうな顔で出てきたわけである。

「あれは蛮族とは名ばかりで、かなりの文化的生活を送っている連中でしたよ」
「野牛の一族がか? わらわをからかっているのか? 馬鹿も休み休みに言え」
「残念ながらからかっているわけじゃないんですよねぇ」
「ならば本当に洞窟に街があったというのか」
「俺はこの土地の人間ではないので、都市や街の定義についちゃはっきりとした事はわかりませんがね。この村の藁ぶきで土壁の家より、はるかに立派な家々が立ち並んでいましたよ。それもどの壁面にも鮮やかな色模様が描かれていました」
「壁面に色模様をか?」

 疑わしげに女村長が俺たちを見やるのである。
 しかし事実を目撃したッワクワクゴロさんもニシカさんも、俺の説明に一切言葉を挟まない。
 エルパコは相変わらず何を考えているのかわからない、ぬぼっとした表情をしていたけれど、それでも否定はしなかった。かわいいのに、女の子じゃないのも残念だし、ちょっと不気味だ。

「文化というのはですね、心に余裕が無いと発達しないもんなんですよ。つまりミノタウロスのみなさんは、とても心に余裕のある生活をしているのです。生活が安定し、余暇の時間があり、俺たちが探りに入ったところ、夜だというのにどの家からも明かりが漏れていて、そのうえ笑い声まで聞こえてきました」
「夜中に贅沢品の油を焚き、あまつさえ夜遅くまで笑って過ごせるほど生活に余裕があると言うのか」
「そういう事です。大変失礼を覚悟で申し上げますが、我が家では油がもったいないので、陽が落ちれば幾らもしないうちに寝ます。村長だって蝋燭やランタンの油は贅沢品でしょう?」
「ふむぅ」

 見たままを俺が説明して、ッワクワクゴロさんやニシカさんをチラ見した。
 同意する様にニシカさんは鼻をひとつ鳴らし、ワクワクゴロさんは「ああそうだ」と返事を返してくれた。

「ちなみにおふたりによると、ですね。連中は俺たちと同じ言葉をしゃべっていた様ですよ。つまり、意思疎通が可能な相手です」
「言葉まで通じるのか。いや、文化が高いのならそれも当然だのう……」
「そんな連中がざっと数えても二〇〇か三〇〇人、下手をするとこの村よりも戦力がありそうに見えましたね。手ごわい相手ですよ」
「シューターよ、それはお前の戦士としての勘でそう言っているのかの?」

 俺を試すような視線で、ネグリジェの胸元を苦しそうにいじりながら女村長が言った。
 女村長が戦士、戦士というものだから、周りの人間たちは俺をひとりの戦士として注目した。
 実際のところはバイト戦士という意味で、本来この世界で言う意味の戦士などではない俺である。
 ただし空手経験はあるので、個人として強いか弱いかを言われれば、対人戦闘に限っては、限定的に強いかもしれない。
 県大会三位程度の型の実力的には……

「どうですかね。住居の数から推測してそれぐらいの人口は抱えていると思いますよ。総人口三〇〇人として男はその半分、戦える人間がさらにその半分として、七〇名。俺たちの村の戦力を総出で集めてもちょっと厳しいんじゃないでしょうかね……」

 女村長が真剣な表情で安楽椅子から俺を見上げているので、俺も思ったままの事を口にした。
 時々、この女村長は俺にこういう視線を向けてくることがある。
 俺が石塔の牢屋に放り込まれたときもそうだったが、ある種の信頼を感じられる視線というのは悪い気がしないものだ。

 むかし俺はコンビニの雇われマネージャーをやっていた事があった。
 多少長く直営店でバイトをしていたので、新規立ち上げ店舗のオープニングスタッフに選抜されたのである。
 新進気鋭の店長は俺と同い年ぐらいの女で、ちょうど雰囲気は女村長みたいな感じだった。
 オープニングスタッフは大変だ。
 半数は勤務経験のあるベテランを揃えるが、残りの半数はコンビニ経験の無いスタッフが揃えられた。
 どうしてコンビニ経験の無い人間を集めたのかと店長や本部の応援スタッフに聞いたところ「他社のルールに染まっていない人間の方が望ましい」などと教えてくれた。
 なるほど、自分たちの色に染めるというやつか。
 しかしそのコンビニのいろはを学ぶために、若い大学入りたての学生や高校生にバイト教育をする際、女店長はいつも相手の眼を見て、しっかりと教育を施していたものだ。
 いわく、女であるという理由で舐められないために。
 いわく、相手の眼をしっかりと見れば、相手はその視線から絶対に反らす事が出来ない。
 彼女は確かその当時二五歳になるやならずだったはずだが、バイトで小銭稼ぎをする事だけが楽しみだった当時の俺に、いろいろと大切な事を教えてくれたものである。
 一番はやはり、眼を見て話す事だろうか。

 そんな俺が出来るだけ真摯な眼差しで女村長を見返していると、当の女村長はちょっと頬を赤くして視線を外してしまった。
 ついでに俺の隣に立っていたカサンドラが、ギュッと俺のチョッキを握りしめたのが伝わる。
 ん? 俺は何か問題行動をしたか?

「ギムルよ! わらわの領地から集められる戦士の数は幾らになるのかの」
「村長ッ」

 俺が暗にミノタウロスを捕縛して使役させるのは不可能だと説明した話、女村長には伝わらなかったのだろうか。
 少し語気を強めた彼女は、苛立たしそうに安楽椅子の側らに立っていた義息子に問いただした。

「答えよ」
「我が村一番の戦士シューターを筆頭に、この屋敷に詰めている戦士が五名、元冒険者や元兵士の経験者、それに周辺集落の猟師などを集めて、あらかた三〇名ほどかと。村に迎えた現役の冒険者を集めれば数は多くなりますが、冒険者は契約によって仕事を依頼する形になるので、拒否をされればこの数に加える事は……」
「ふむ、数ではこちらが半数以下という事か」
「村長、まさか……」

 思案する義母を見下ろしながらギムルが絶句した。
 しかし女村長はそれを無視して、ッワクワクゴロとニシカさんを見やる。

「野牛の一族が弓を得意にするという話は聞いた事があるかの?」
「あいつらの中にも猟師はいるだろう。が、鱗裂きのニシカほどの腕前を持った人間はそうそういやしねえですぜ、村長」
「へへ、そこは安心してもらっていいぜ」

 女村長の質問に、慎重に言葉を選びながらッワクワクゴロさんが言った。
 やはり女村長はやる気なのだろうか。
 それに応えてニシカさんの方も自信満々の返事をしたではないか。
 村長、あんた何か秘策でもあるのか。

「ふむ、ふむ……」

 どうしたものかの、と小さく女村長が言葉を漏らすと、最後に俺を見上げた。
 俺はゴクリとつばを飲み込んだ。
 いったい何を切り出されるのやら戦々恐々で、俺の側で新妻が震えているのが解る。
 チラリと視線を横に向けると、案の定不安な表情で俺を見上げていた。
 その隣でぼんやりとしたけもみみが、まったく空気の読めない表情で半分口を開けた状態でけもみみを器用に動かしている。
 その耳、無自覚に動かしているのかな?

「シューターよ」
「……はい」
「お前ひとりなら、野牛の一族相手に何人まで相手に出来る」
「俺、ひとりでですか? 難しいですね、普通の人間なら三、四人ならまず間違いなく不意を突ければ制圧出来ます。それ以上となると、天秤棒を持たせていただければ時間稼ぎは出来ます」
「そうか、さすが我が村一番の戦士だ」

 俺ただのバイト戦士なんですけどね……
 そんな事を心の中で俺が思っていると、うんとひとつ頷いて見せた女村長は安楽椅子から立ち上がった。

「腹は決まった」
「で、では村長、連中を攻めるのですか? シューターたちの言葉を聞いても」

 義母の言葉にギムルが筋骨隆々な体躯に似合わないほど血相を変えて抗議しようとした。
 何だかんだでギムルはマサコンであり、義母にもしもがない様に細心の注意を払っているのだろう。
 それに、この青年とは腹を割って話したことがあるからわかるが、俺に最近はデレているからな。
 味方をしてくれているつもりなのだろう。
 そんな事を考えていると、フフフと女村長が笑って改めて俺を見やった。

「勘違いをするな、戦争はする」
「ではやはり?! しかし無茶では……」
「このサルワタの森一帯の土地は国王によってわらわに与えられた領土だ。わらわはこの領土を誰にも譲るものではないし、しっかりと守り、そして義息子へと伝えていくのが、夫と交わしたわらわの義務である」
「しかし、先ほどシューターも申しました通り、戦争では勝てないのでは」
「わらわをあまり甘く見るな、戦争は何も血を流すだけを差すのではない。外交もまた戦争の手管(てくだ)であるぞ」

 女村長は快活に笑ってバシとギムルのたくましい背中を叩いた。

「夜が明けたなら、ただちに湖畔に向かうぞ。わらわは野牛の一族と交渉の席を設ける!」

 なるほど。
 モノの本によれば戦争とは外交の一手段に過ぎない、なんて文章を見かけたことがあるが、そういう事か。
 俺は感心して納得の表情をしていたけれど、ッワクワクゴロさんとニシカさんは、イマイチ状況が理解できていないらしかった。
 ついでに新妻は相変わらず不安そうな顔をしていて、もうひとつついでにエルパコはぼけっとした顔をしていた。
 こいつらはいい。

「わらわとて数多(あまた)の戦場を渡り歩いた騎士だ。臆するものではないが、万にひとつは備えねばならぬ。ゆえにシューターよ、交渉中片時も側を離れずに、何かあればその命に代えてもわらわを護衛せよ!」
「お、俺ですか? わかりました」
「もしも事が上手く行った際は、わらわの出せる最高の褒美をくれてやる」
「ははっ、おおせのままに」

 女村長の命令に、ついつい俺は体が反応して平伏してしまった。

 しかしアレクサンドロシアちゃん。
 どうも指揮官先頭という矜持に何か特別な思い入れでもあるのかも知れない。
 ワイバーンが村に襲撃をして来たときも、ドレスの上に甲冑を着て帯剣して飛びだして来た。
 そのまま腰を抜かしてジョビジョバしたのもいい思い出だが、やはりその指揮官先頭の姿勢が、村の統治に何か役立っているのかね。
 ふと妙齢の女村長のジョビジョバ姿を思い出して俺がニヤけそうになっていると、ギムルが鋭くこちらを見ていた。
 眼が、義母上を頼むと言っていた。
 ああ任せておけ。
 むかし俺は護身術をたしなんでいた事もあるんだぜ。
 痴漢撃退用だが、たぶん役に立つはずだ。

 それにしても、アレクサンドロシアちゃんの出せる最高のご褒美って何かな?

     ◆

 俺は今、全裸である。
 せっかく街で布をたくさん買って来たし、ズボンだってッヨイさまに買い与えて頂いたというのに。
 どうしてこうなったと小一時間自分を問い詰めたい。

 俺は今、全裸で白い布を括り付けた木の棒を持っていた。
 即席で作られた白旗の白い布地は、俺のヒモパンであった。
 無抵抗である事を示すために、女村長の命令で俺は全裸にされたのだ。
 悲しい。
 背後を振り返ると、騎士装束の女村長や武装したギムルにニシカさん、新妻と、武威を誇示するためにかき集めた冒険者や猟師たちがずらりと並んでいた。
 場所はサルワタの森西域にある湖畔の大きな洞窟の前で、向こうに数名の野牛の一族が見えた。
 連中はちゃんと服を着ていた。
 普段の俺よりもカサンドラよりも、たぶん女村長よりも上等そうな。
 くやしい。
 ミノタウロスたちは、全裸の俺を見て指を差して何事か言い合ったり、武器を構えたりしていた。

「待て! 俺は丸腰だ、お前たちと実りある交渉のためにここに来た!!」

 丸腰どころか丸裸の俺は、攻撃されてはかなわないので精一杯出せる大声で叫んだ。
 ミノタウロス相手だけに、ミノりある交渉になればいいな……
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