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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第11章 明るい宮廷工作

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374 続・北へ


 サルワタに向かう旅の行程は緩やかなものだった。
 俺に与えられている領地スルーヌの村にまず到着すると、ここで二晩をゆったりと過ごした。

 ブリトニーは産まれてまだ間もないので無理な旅は何が起こるかわからないし、領内のみなさんとフレンドリーに接する時間も必要だ。
 カサンドラとふたりで雪のチラつく冬場の集落を訪問して回ったり、晩秋ではまだ難民キャンプに収容されていた移民のみなさんの生活をタンヌダルクちゃんと見て回ったり。
 ベローチュはクレメンスを伴って、周辺の防衛計画に必要となる地理情報を仕入れるべく山野をつぶさに見て回っていたらしいね。
 一方のマイサンドラは、けもみみと嫌がるニシカさんを連れて狩りの腕試しに出ていたらしい。

「次から次に人間が訪ねてくるのはどうにかならんのか、お兄ちゃんっ」
「シッ、声が大きいアレクサンドロシアちゃん」
「しかし家族団欒、夫婦円満な時間を過ごそうと思っておったのに、こう分限者だの幹部だのが訪ねてくるのでは、気が休まる時間がないぞ……」
「元々この村の領主に俺を任命したのはアレクサンドロシアちゃんだよ。ついでに村を征服しちゃったものだから、村人からしたら奥さんは畏怖の対象なんだよ。ご機嫌うかがいをしっかりしておかないと、旦那である俺に告げ口をして酷い目にあわされるとか思っているかも知れない」
「お兄ちゃんはわらわがそんな恐怖政治を行う人間だと思っているのか?! わらわはとてもいい母親だぞ!!」

 いい母親である事と、いい領主である事は必ずしも比例するものではありません!

 本当はアレクサンドロシアちゃんも狩りに付いて行きたそうだったのだが、多忙により駄目だった。ブリトニーの出産祝いと称してスルーヌ領内の有力者や新たな幹部たちが訪ねてくるのだから仕方がない。

 二日間ほどスルーヌに滞在した理由は別にもある。
 数百人からなるサルワタに帰還する一行は、俺たち家族と護衛の兵士たち以外にも参加者が多数いたからだ。
 難民の大移動を伴っているので、無理はさせられない。

 ゴルゴライ戦線での戦いではブルカ街道沿いの村々から多数の難民たちが発生していた。
 一時的にはゴルゴライの新市街に収容する事で最低限の生活を提供する事ができたが、そのゴルゴライの新市街だって収容力には限界がある。
 何しろ自然発生的に膨らんだ無計画な都市だっただけに、衛生状態や食糧事情、はたまた冬を越すために必要なまともな施設がいくつあっても足りないのだ。

 一部には早い段階でスルーヌの村へ逃れた移民もいたけれど、やはり領主交代もあったし収容力には限界がある。
 どこも戦争に人的資源を回しているので、銃後は十分な労働力が確保できないのである。

 そこをいくと現在のサルワタは開拓移民を元々受け入れる前提で、大規模な箱モノ建築を積極的に行っていたところだ。
 村の中心地やその周辺だけでなく、サルワタ湖畔に建設中の城下の市街などは計画都市そのものだ。

「問題は難民たちの移送を伴うので、この冬場に長距離移動はゆっくりと行う以外に方法が無い、というものですものねあなた」
「まあマリアちゃんの言う通り、農民のみなさんは足腰もしっかりしているからと言って老若男女全てがそうだとは言えないしな。馬も連れているし牛や羊も行列に混じっていたぐらいだから」

 難民たちのうち、サルワタへの移民を早期に志願していた人間については優先的かつ段階的に北へと送り出してはいた。
 計画を担当したモエキーおねえさんによればサルワタの収容力にはまだまだ余裕があるらしく、サルワタ本来の中心地にある新築の拝み小屋に対して割り振りを実施した。
 次に湖畔の城下にあたる集落について募集をやってひとを集めたのだが、

「やはり故郷に対する忘れがたい執着というものがあるんですのね。王都を離れて久しいわたしであっても、やはり王都の邸宅を懐かしく思う日々はありますもの。今でもじいに絵巻物を読み聞かせしてもらった頃が鮮明に浮かぶんですの」
「あれ、マリアちゃんはアウグスブルゴ宮廷伯領のご出身という事じゃなかったっけ?」
「アウグスブルゴは産まれた場所ですけれども、パパは故郷にママを代官として残して、わたしは王都で育ちましたの」

 なるほどなあ。
 徳川幕府時代の参勤交代じゃないけれど、有力諸侯の子弟はもしかすると王都中央で育てられる様なしきたりがあるのかも知れない。
 有力者の子弟同士、早い段階から一緒の学び舎で育てば顔も知り同士で将来は政治をする事になるから、やりやすいのかも知れないね。

「いえわたしは王都の邸宅で、ずっと家庭教師を付けて屋敷の外に出る事がありませんでしたので、文のやり取りやパーティーなどを別にすれば、これと言って同世代の知人の輪を広げた事はありませんの」

 ありゃ俺の想像は違ったらしいね。
 マリアツンデレジアは文字通りの箱入り娘として王都で大事に育てられたという事らしい。
 恐らくだが、マリアちゃんが王都に連れてこられていたのは将来のお見合いをするための政治的道具として、父親のピモシー卿が手元に置いていたというところだろう。
 宮廷伯という王国の宰相を輩出する家柄で、当代は実際にピモシーさんが宰相を務めているという。
 リンドル子爵家の前当主ジョーン卿みたいな人間が、ご機嫌うかがいに王都のアウグスブルゴ邸に訪ねてくるタイミングで、娘のマリアちゃんをお披露目していたのかも知れないね。

「何れにせよ、戦争はどこかで決着を付けなければならん。であるばらば難民の新たな生活保障を行うのは領主として確かな務めだぞお兄ちゃん」

 だが戦争の行く末はまだまだ予断を許さない状況であるのも事実だ。
 故郷に対する忘れがたい想いもさることながら、ここは領主命令として少なくても戦禍にまみえる事のないサルワタへの難民移動を、ゴルゴライに身を寄せているひとびとに対して行ったのだ。
 生活基盤が出来るまでは税金は免除対象になるし、サルワタならばすでに整備された開墾地そのものはある。
 ただ労働人口が足りなくて、新たな畑に種を植える事ができなかっただけなのだ。

「ご安心なさいな、アレクサンドロシア卿。わたしもリンドルへやって来て最初の数年は王都が恋しくてなりませんでしかてけれども、それも時間がたてば気にならなくなるものですわ」
「そうだの。わらわもクワズの村に嫁いだ時は、とんだ片田舎にやって来たものだと内心で驚きを隠せなかったものだ。わが故郷のヌッギとさほど変わらぬ農村風景が広がっていたというのにな」

 ふたりの高貴な身の上の奥さんたちはそんな会話をしながら、白い歯を見せてお茶を口に運んでいた。
 言われてみれば、アレクサンドロシアちゃんにしてもマリアちゃんにしても、サルワタを今後本領としていくのにも関わらずその土地の出身じゃないんだよな。
 俺にしたところで元いた世界から飛ばされてきただけの人間だ。
 それにしても故郷が恋しいなんて感覚は、あまり俺は感じた事が無かった。

 案外俺は自分が思っているよりも心が丈夫に出来ているのかも知れない。
 全裸だしな。

     ◆

 こうして二日間の休養を挟みながらふたたび北上を再開した俺たちである。
 道中では野牛の居留地を発ってイジリーの村という最前線に向かう野牛の兵士たちとすれ違った。
 彼らは前線で戦う数百あまりのギムル軍のうち、その半数と交代して任務に就くためのみなさんたちだった。

 寒そうなオープン馬車で俺たちとすれ違う時に、彼らは彼らの言うところの蛮族風の貴人に対する礼をわざわざやってくれて、俺も手を振り返したものだった。

 彼らが前線の部隊と交代を済ませると、タンクロードバンダムさんが半数の兵を引きつれて居留地へ一時帰還を実施するらしいね。
 年が明けてしばらくすれば、また別の部隊を率いてタンクロードさんが前線に赴き、交代をしなかった残りの半数と部隊が入れ替わるとか。

「いやあ、本当に野牛のみなさんとは全面戦争にならなくて済んだと思います。もしあそこで領主奥さんが戦争を決意していれば、今頃サルワタは焦土と化していたよ」
「そうならなかったんだから、領主さまには運があるという事だろうぜ相棒」
「シューターさんが運をアレクサンドロシアさまに運んで来たんだよ。女神様の祝福パワーは凄いよね」

 貴人の礼を受けながら俺が漏らした言葉に、ニシカさんやけもみみが芋酒を呑みながら返事をしてくれた。
 きみたち、もうすぐクワズに到着するからあまり呑まない様に……

 いったいどれだけの動員力が野牛の一族にはあるんだろうかと、俺はミノタウロスたちに対して肝を冷やしてしまった。
 彼らもまた北の故郷から南に移民をしてきたひとたちなので、サルワタ湖畔周辺で生活が安定すれば、今後ますます経済力をつける事は間違いないのである。

 俺たちの馬車列はクワズの領内へと到着し、村の各所に分宿する手はずを整えながらアントン爺さんのいる丘の上の領主館へと向かった。
 爺さんは義理とは言え、初孫になるらしいブリトニーを見て大喜びをしていた。

「おお、これが噂に聞いているややこでござるか。わしはようやく孫を得て、名実ともに爺さんになる事ができた! はじめましてカールブリトタニアちゃん。まるで肥えたエリマキトカゲみたいな姿だが、何系の猿人間かのう?」
「キュッキュッベー」

 そっちは文字通り肥えたエリマキトカゲです。
 俺のベイビー、ブリトニーはこっちです!
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