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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第11章 明るい宮廷工作

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373 北へ


 しばらくぶりに故郷へ帰還する事になり、俺たちの家族はにわかに騒がしくなった。
 あの村を外交使節団として出立した時にはわずか数十人からなる一行だったものだが、帰還を前にして車列を整えた一団の人数は、数百に及ぶまで膨らんでいるのだ。

 喜びや懐かしさを覚えたのはカサンドラやニシカさんといった、サルワタで生活をしていた者たちだろう。
 逆にはじめて領邦の根拠地へと向かう事になったマリアツンデレジアやラメエお嬢さまは、どこか落ち着きなく荷物をまとめたり土産物は必要じゃないかとソワソワしている。

 俺はと言うと、家族の大移動を取りまとめる必要があるので、なかなか感傷に浸っている場合でもなく忙しく走り回っていたのだ。

「アレクサンドロシアちゃん。全ての車列と、警護のための要員が配置につきましたよ」
「よし。お兄ちゃんに任せておくと手際が良いので助かるの。ブリトニーよ、お兄ちゃんパパにお仕事ご苦労さまと言うのだ」
「ダァ」

 豪華絢爛な前線指揮用の六頭引き馬車の前で、出立前の最終確認を行う事になる。
 俺とアレクサンドロシアちゃん、それに抱き上げられたブリトニーは顔を見合わせながら、少しの間だけ親子の団欒だ。
 背後から咳払いがしたと思えば、家族大移動の護衛任務を分担しているけもみみに男装の麗人、それからエレクトラが近づいてくるのが見える。

「ご主人さま。本日まもなくゴルゴライを出立し、夕方にはスルーヌの村に到着する予定となっております。街道の安全確保のために、騎士ダイソン卿が率いる先遣隊がすでに前進しています」

 高貴な身の上に対する礼を取って見せた男装の麗人はの言葉に、俺とアレクサンドロシアちゃんはニッコリと微笑み返す。

「抜かりはないというわけだな。エレクトラよ、ブリトニーをちょっと預かってくれ」
「は、はい。アレクサンドロシアさま!」
「何を臆しているか。そなたも女子であるならば、何れ子を授かるチャンスもあるやもしれぬ。今のうちにそのぐらいの事は馴れておかねば、お兄ちゃんから母親失格の烙印を押されてしまうかもしれぬぞ」

 すっかり自分が家族の中で一番に母親になったものだから、アレクサンドロシアちゃんは余裕酌々の態度である。
 呆れた俺の顔とは裏腹に、エレクトラは顔を真っ赤にして否定とも肯定とも取れない表情で口元をモゴモゴさせていた。
 むかしはアマゾネスみたいな女だと思っていたけれど、こういうところはかわいいね!

 ついでに言うと。
 領主奥さんは奥さま同士の序列なのか対抗意識からか、ブリトニーをカサンドラやタンヌダルクちゃんに預ける事はあっても、他家出身の有力者には絶対に触らせようとしない。
 具体的に言うとマリアツンデレジアやカラメルネーゼさん、それにベローチュだ。
 ベローチュは俺からすると側仕えの良くできた補佐役という認識だけれど、領主奥さんの考えでは男色男爵の一門なので、ライバルという事らしい。
 よくわからない……

「ブリトニーは、鼻のあたりがシューターさんに似ているよね」
「馬鹿者エルパコよ、それはややこが団子鼻だと言っているみたいで不愉快だ」
「そうするとアレクサンドロシアさまは、シューターさんが団子鼻だとお認めになるんだね。ぼく聞いたよ」
「ち、違う。お兄ちゃんは決して団子鼻ではない!」

 エレクトラの抱いたあかちゃんを相手に、領主奥さんとけもみみ奥さんは何やら言い合いをしていたが無視をする事にした。
 俺が団子鼻だろうが不細工顔だろうが、そんな事はどうでもいいのだ。

「他の奥さんたちはどうしているんだ?」
「ッヨイさまがおトイレを済ませてから出立したいというので、他の奥さま方もお待ちになっているところで。ああ、来ましたよあちらです!」

 ベローチュにそんな質問をしたところ、ゾロゾロと迎賓館の中からカサンドラを筆頭に家族のみなさんが出てくる姿が見えた。
 カサンドラはッヨイさまと手をつなぎながら、タンヌダルクちゃんは肥えたエリマキトカゲを抱きかかえ、マリアツンデレジアは配下の家老や騎士たちを伴ってゾロゾロとである。
 最後にソープ嬢がおぼつかない足取りで、旅荷と思われる大きな袋を背負って姿を現した時は驚いた。

「そ、その荷物は何ですか」
「サルワタの城に持っていく予定の嫁入り道具一式だが、とんでもない荷物になってしまった。せっかくフクランダー寺院にいた時に注文したのもあって、もったいなくてな……」
「馬車に載せられるスペース、ありますかね?」
「ご安心くださいご主人さまソープさん、荷物は天蓋に括り付ければ何とかなります」

 申し訳なさそうなソープ嬢に機転を利かせてお返事をしてくれる男装の麗人だ。

 一方、マドゥーシャにクレメンス、モエキーおねえさん、マイサンドラといった一団は何やら大きな行李を背中に括り付けて、重たそうに豪華絢爛な馬車の隣に並んだ、それよりずいぶんと貧相でボロい幌馬車の方に移動していくではないか。

「あのひとたちは大きい方の馬車には乗り込まないのか?」
「ハーレム大家族は、妻子供の数をすべて入れれば十を超えるから大家族と言うのです。さすがに全員が乗り込むことはできません」

 馬車の手配を担当していたのは今この場にはいないカラメルネーゼさんだが、もう少しマシな馬車は手配できなかったんですかねえ……
 隙間風が酷そうで、この寒さには応えるんじゃないだろうか。

「あの者らは妻や愛人であっても奴隷の身分ですから、あれで馬車で十分だと自分は判断しました」
「待て待て、マイサンドラは奥さんではないですけどねぇ」
「本人が何と言おうが世間体が問題です。世間ではご主人さまの愛人だと認識しています」

 そんな話は初耳だよ!

「じゃあ別の質問だ。クレメンスやモエキーおねえさんは、奴隷じゃないでしょう……」
「いいえご主人さまそれも違います。クレメンスは元々スルーヌの戦争奴隷ですから、奴隷で間違いありません。またモエキーはカレキーウォールズさまより人質として差し出されたのですから、これも妥当な判断です」
「そうかい……」

 触れてはいけない家族会議の決定というやつだろう。
 奥さんたちの決めごとに逆らえばどういう仕打ちが待っているとも知れないので、俺は触れないでおくことにした。
 しかしマイサンドラは奥さんでも愛人でもない事を、断固として抗議しておこう。

「大丈夫ですご主人さま。あの者も覚悟はできています」

 そういう事じゃないんだよ!

 家族全員が馬車に乗り込むのを見届けたところで、俺たちも急がなくてはいけない。
 冬場の辺境は気候がコロコロと変わるので、うかうかしていたらまた空模様が怪しくなって雪が降り出すかもしれないのだ。

 そして俺たちが乗り込む予定なのも豪華絢爛な指揮通信馬車ではなく、別のモノだった。
 何の変哲もないオープントップ式の馬車と言えば聞こえがいいが、どこからどう見てもパープル色の奇抜な馬車だった。
 オープンなので当然冷たい風はモロに受けるし、視界が開けていると言っても居住性はバツグンに悪い。

 何でこんな馬車が用意されたかと言えば、カラメルネーゼさんが手配した先が男装の麗人だったからである。
 彼、いや彼女? の趣味がモロに出たこの馬車でも、貸して下さるのだから文句は言えない。
 これなら別に軍馬でもかったんじゃないですかねえ!
 と文句をひとつ言いたくなったが、雪が積もっていた場合は馬を操るのにもスキルが必要なのだ。

「よォ遅いじゃねえか。寒いからサッサと宴会をはじめようぜ!」

 そこには、何か目的を勘違いしているとしか思えない黄色い蛮族の鼻たれ奥さんがすでに座っていて、見た事もない酒瓶を振りながら手招きをしていたではないか。
 けもみみは相変わらずヒラリと馬車に乗り込むが、俺はそうはいかない。
 黄色い花嫁の手を借りて引っ張り上げてもらい、どうにか腰を落ち着けたのである。

「全員搭乗完了を確認しました。ご主人さま、出発のご許可を願います」
「いいぜ出発を許可する。お前も早く乗り込めよな!」

 俺が返事をする前に勝手にニシカさんが命令と唾を飛ばし、ベローチュが素早く馬車に乗り込んだ。
 すると周辺の警備にあたっていた修道騎士たちがサっと手を上げると同時に、ゾロゾロと馬車列が動き出すじゃないか。

「オープン式の馬車をオコネイルさまから借りてこられたのは、さすがカラメルネーゼさまというところですね」
「というと?」
「この馬車ならば周囲の視界が明瞭なので、この馬車から車上射撃するのには向いているというわけです」

 なるほど寒いが弓を得意にする三人の奥さんを集中運用するには有利なのかも知れないね。
 しかし寒いので、さっそくニシカさんは不思議な酒瓶のコルクを抜いて、けもみみとベローチュに呑め呑めと勧めはじめるじゃないか。

「この酒は? かなり独特で甘い香りがしてきますけれども」
「とろみのある白濁液のお酒だねシューターさん。うふふ」
「聞いて驚け、これが伝説のラミア酒というそうだ。オレ様は無理を言ってソープから分けてもらってきたんだ。見た目にとろみがあるけどよ、呑み口は甘くてサッパリしたもんだぜ」

 いくらなんでもゴルゴライの城門を出て街道を走り出す前から呑むのは止めなさい。
 と思ったが……
 振り返れば豪華絢爛の馬車の上で警備についている傭兵のみなさんも、酒瓶を持ち上げて俺たちに向かって乾杯のポーズを見せてくる。
 たぶん後方にズラリと続いている荷馬車の一団の傭兵たちも、寒さをしのぐために早速はじめているのかも知れない。

「ご覧よシューターさん、ガンギマリーさまが城門の見張り台でこちらに手を振っているよ」

 俺の腕に手を回して暖を取っていたけもみみが、明後日の方向を向いていると思えば。
 声をかけられた視線の先に、修道騎士の部下たちと一緒に眼下を見やっていた雁木マリの姿を見つけたのだ。

「ゴルゴライの守りは頼んだぞ!」
「お前こそ、しっかり子作りに励んでおきなさいよね!」

 エールを送ったつもりだったが、まさかとんだ恥ずかしい言葉が飛んで帰って来るとは俺も思わなかった。
 さすがに気まずい雰囲気になった俺だったけれども、意外にその場に居合わせた奥さんたちはニコニコ顔である!
 ニシカさんだけはしばらく子供はいらないと言っていたので、きっと自分だけ他人事なのだろうけれど、けもみみは先ほど以上にギュっと腕を抱きしめて、男装の麗人までまんざらでは無さそうな顔である。

「大丈夫だよガンギマリーさま! ぼくはシューターさんと五つ子をもうけるんだッ」

 ちょ、前より増えてる?!
 
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